読書感想文(163)夏目漱石『草枕』

はじめに

こんにちは、笛の人です。
読んでくださってありがとうございます。

今回は超有名な作品です。
夏目漱石の作品は高校生の頃に『こころ』を読んだきりです。
『坊っちゃん』も読んだことがありません。
そんな私が今回『草枕』を読もうと思ったのは、まず『春宵十話』の著者である岡潔が夏目漱石の良さを書いていたこと(そしてその指摘がグサリと刺さりました)、最近知り合った人が大学の卒論を夏目漱石で書いていたこと、そしてその人から『草枕』の舞台とされる熊本に旅行した話を聞いたこと、松尾芭蕉『おくのほそ道』を最近読んで「旅」について思いを馳せたこと、最近読んだ島崎藤村「小諸なる古城のほとり」に「草枕しばし慰む」と出てきたことなどです。
このように色々な縁が重なったら、いつも読むようにしています。

感想

今年のベスト・オブ・ザ・イヤーと言っていいほど気に入りました。
有名な冒頭から印象的でしたが、その後も文章の様々なところで共感し、或いは考えさせられ、また表現の多彩さに圧倒されました。
私は普段、立ち止まって考えながら読むことをあまり好まず、ひっかかった部分のページのみをメモしておき、後で見返して考えるようにしています。
しかし今回はあまりにも心に響いたので、すぐに精読モードに切り替えました。
そのため、読むのにかなり時間がかかってしまったのですが、その分しっかりと自分なりに読むことができたので満足しています。
ただ、noteに感想を残すにあたって全てを書くことができないほどの量になってしまいました。
そのためいつもとは形式を変え、noteもまとめのような形から始めたいと思います。

まずこの作品の良かった点について書きます。
一つ目は教養に溢れていることです。絵画や詩が多数引用されており、次の学びに繋がっているように感じました。中には昔覚えたものの忘れてしまっていた詩などもあり、様々な芸術の良さを感じながら読み進めることができました。
二つ目は主人公の考え方に非常に共感できるところが多かったことです。これについては、恐らく大学に入ってから和歌や国文学、そして少しではありますが絵画や哲学なども幅広く勉強していたから、自分なりに理解できたのだと思います。恐らく高校生の頃に読んでいたら、これほど感銘を受けなかったであろうと思います。
三つ目は芸術鑑賞にあたって大変参考になる価値観がたくさん書かれていたことです。例えばギリシャの彫刻は端粛の二字に期する、すなわち動かんとして未だ動かざる姿が良いとされるという話などは、彫刻について全く知識がない私にとって今後の鑑賞に大きく影響を与えただろうと思います。
四つ目は表現が多彩で細かったことです。情景描写が非常に丁寧でした。今思えば、画家である主人公ゆえの絵画的な視点で描かれていたのかもしれません。

次に、最も印象に残ったところを引用します。

善は行い難い、徳は施こしにくい、節操は守り安からぬ、義の為めに命を捨てるのは惜しい。これ等を敢てするのは何人に取っても苦痛である。その苦痛を冒す為めには、苦痛に打ち勝つだけの愉快がどこかに潜んでおらねばならん。

P154,155

この部分、かなり力強いなと感じました。漱石の文学をほとんど読んでいない私が言うのも変ですが、漱石ってこんな感じだっけ?と思いました。坂口安吾を思い出したのですが、そういえば私の漱石観は坂口安吾の漱石観に影響を受けているように思います。すなわち、男女の関係を描く時に肉欲が描かれない。そういう綺麗なイメージがあったので、この力強い文章が印象的だったのだと思います。
加えて、巻末解説で引用された書簡では次のように書かれていました。

……死ぬか生きるか、命のやりとりをする様な維新の志士の如き烈しい精神で文学をやって見たい

P219

これを読んだ時、自分が先に坂口安吾を想起したのは間違っていなかった、と思いました。
近代文学は命がけで書かれた作品が多くあるからこそ、今でも親しまれているのだろうと思います。それくらい、熱量を感じました。

おわりに

少し短いですが、全部書くと長くなり過ぎるのでこの辺りで終わっておきます。
今回で夏目漱石の作品をもっと色々と読んでみたくなりました。やはり有名な作家はそれだけの価値があるのだなと思いました。岡潔の考えが少しわかったのも良かったです。

今回は最後に、自分用のメモを付けておこうと思います。
数字はページです。

ということで、最後まで読んでくださってありがとうございました。


おまけ(メモ)

温故知新
教養に溢れている→つぎの学びに繋がる価値観に共感できる又は感銘を受ける、岡潔の言っていた話
芸術観もわかる、勉強したおかげ
表現が多彩で細かい、面白い、そんな言い回し
154,155→命をかける→坂口安吾

5,6スポーツも同じかな
9
10,11
12菊を採る東りの下、悠然として南山を見る、飲酒
明月来たりて相照らす
13、13自然主義
14あの鐘の音を聞け
14能の有難み
17有体なる己れを忘れ尽くして→自身の心情を詠むこと、感情の整理、昇華は自身を切り離すから?
28和歌
29謡曲羽衣
29やっとの思いでここまで来た
32竹影払階塵不動
37一翳眼に在って空花乱墜す
○38覚悟
38何でも蚊でも十七時にまとめて見るのが一番いい
38詩にする時、他人に変じている
39季が重なっている
正一位、稲荷大社、神社の格、巡ってみたい
40縷の如き幻想が横たわる
42,43ギリシャの彫刻の理想は、端粛の二字に期する。端粛とは人間の活力の動かんとして、未だ動かざる姿と思う。→動けばあらわれる。→動と名のつくものは必ず卑しい。
43,44
47非人情の旅
48椽側に花の影と共に寐ころんでいるのが、天下の至楽である。考えれば外道に堕ちる。動くと危ない。出来るならば鼻から呼吸(いき)もしたくない。畳から根の生えた植物の様にじっとして二週間ばかり暮して見たい。
49サラド、西洋の食物は画家から見ると頗る発達せん料理である日本の献立は奇麗にできる、本当に?
50,51それから、大徹さんの所へ何をしに行くのだい
54,55画家目線のお菓子
誰が買って来ても構う事はない
56茶道、茶人程勿体ぶった風流人はいない
57,58冒頭と同じこと
59,60淵川へ身を投げるなんて、つまらない
60あれが本当の歌です→何が本当で何が本当でないのか?雲雀との関係は?
76,77→?
77同化してそのものになる、されど一事に即し、一物に化するのみが詩人の感興とは云わぬ→岡潔
78何と云うも皆その人の自由である。わが、唐木の机に憑りてぽかんとした心裡の状態は正にこれである。
80否この心持ちを如何なる具体をかりて、人の合点する様に髣髴せしめ得るか→フォーマリズムに近い?
80第一、第二、第三
81ああここにいたなと自己を認識する様に
色々の比喩は書かんとすることを様々に言い表そうとしているのか?
82何らかの手段で永久化せんと試みたに違いない
83一が去り、二が来り、二が消えて三が生まるるが為めに嬉しいのではない
84諦めるな
漱石の詩、なかなか良い、人生って忙しい
89この気持を出し得ぬ温泉は、温泉として全く価値がない→思考停止
90春宵
90流れるもの程生きるに苦は入らぬ
94,95あまりに露骨(あからさま)な肉の美、気韻に乏しい心持ち、苦しめてならなかった
95うつくしきものをうつくしくせんと焦せるとき、うつくしきものは却ってその度を減ずる
95余裕は必須
101茶の飲み方
105織りたてはあれ程のゆかしさと無かったろう
113初めから読むこと
115惚れて夫婦になる必要があるうちは、小説を初めから仕舞いまで読む必要がある
116今までの関係なんかどうでもいい→うーんそうかなぁ
124日本の菫は眠っている感じ
124,125東京、田舎
125自然の平等さ→ 愛なき世界?
125考えが理に落ちて一向つまらなくなった
126水草が往生している、死に切れずに生きている
126静かなるものは決して取り合わない
127椿ツバキ、妖艶で美しい→美しい女の浮いている所をかいたら→オフィーリア、123のおなみさん
129あわれ、あはれ
130人を馬鹿にする微笑うすわらいと、勝とう、勝とうと焦る八の字のみ
131余っ程
136トリストラム・シャンディ→かく者は自己であるが、かく事は神の事である。従って責任は著者にはない。無責任の散歩
引き受けて呉れる神を持たぬ余は遂にこれを泥溝の中に棄てた
138世の中はしつこい、毒々しい、こせこせした、その上ずうずうしい、いやな奴で埋っている。屁をひった、ひったと数える139真正の方針
139随縁放こう(日廣)→関係あることにもこだわらず、自由に心のままにふるまう
141木蓮、徒らに白いのは寒過ぎる
149遠くの海は、空の光りに応うるが如く、応えざるが如く、有耶無耶のうちに微かなる輝きを放つ
149声は風中二死して
名も知らぬ山里へ来て、暮れんとする春色のなかに五尺の痩躯を埋めつくして、始めて、真の芸術家たるべき態度に吾身を置き得るのである
151始めて(初めて)、宇宙→よのなか
152時と場所とで、自ずから制限されるのも亦当前である。英国人のかいた山水に明るいものは一つもない。あの空気ではどうする事も出来ない。
152個人の嗜好はどうする事も出来ん。然し日本の山水を描くのが主意であるならば、吾々も亦日本固有の空気と色を出さなければならん。
153蜜柑
154,155坂口安吾っぽい
→ ミニマリストにも通ずる?
155 うつくしき趣味を貫かんが為めに、不必要なる犠牲を敢てするの人情に遠きを嗤うのである。自然にうつくしき性格を発揮するの機会を待たずして、無理矢理に自己の趣味観を衒うの愚を笑うのである。
156芸術のたしなみ、美しき所作
157どれも路である代りに、どれも路でない。
157,158
158拙を守る、余も木瓜になりたい。
159今思うとその時分の方が余程出世間的である
169→154,155
174いよいよ現実世界屁引きずり出された
175汽車程個性を軽蔑したものはない185長良の乙女、万葉集
187夢の中では俗念が出て困る
南画、壺中の天地
188ターナー、イギリスの風景画家、汽車
サルヴァトル・ロザ、情熱的な絵、イタリア
189大蔵経、一切経
191三昧は元々仏語、想を静めること→一途に心を傾けること
楊柳観音、三十三観音
192英詩
196ワーズワース、黄水仙
198ラオコーン
200温泉水滑洗凝脂
201勧進帳、奥州に行く義経
206シェイクスピア、アテネのタイモン 
207く酒山門に入るを許さず
208脚下照覧
209蜀犬日に吠え、呉牛月に喘ぐ
209パレット→小手板
211藤村操
219坂口安吾、禁欲的な倫理観
219死ぬか生きるか、命のやりとりをする様な維新の志士の如き烈しい精神で文学をやって見たい
220小説神髄、小説の主脳は人情なり、八犬伝の八士は人間とはいい難かり。
221善と美の原理
223非存在によって存在を語る、漱石の手法
225「近代」が限りなく奪うこと
226則天去私
229漱石が教養ある「余裕派」で大衆向きの作家であるどころか、最も暗い存在論的な作家だという見方が定着してきたのは、たかだかここ二十年位のことである。
234文学、言葉の戯れ


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?