読書感想文(64)鴨長明作、簗瀬一雄訳注『方丈記』

はじめに

こんにちは、笛の人です。
読んでくださってありがとうございます。

今回は日本古典文学です。
去年の3月頃に初めて読んで、今回は二回目です。

本文は35ページしかないので、古典を普段読まない人にもオススメしやすい長さです。
今回読んだ角川ソフィア文庫のシリーズは全訳が載っており、注も文庫の割に多いのでその点もオススメです。

せっかくだし古典を読んでみたいけどちょっとハードルが高い…なんて思っている方は角川ソフィア文庫で挑戦してみてはいかがでしょうか?

感想

方丈記を読んで印象に残るのはやはり退廃的な都の様子です。
源平の争乱の後、火災、旋風、地震、洪水、疫病といった自然災害に襲われ、都は死体だらけとなっていたようです。数えてみれば、4万以上。「くさき香」が満ちていたそうです。
どれほどの虚構が入っているのかわかりませんが、当時これに近い状況だったとすれば、リアルにディストピアです。
ディストピアという言葉が思い浮かぶのは先日ジョージ・オーウェル『1984年』やレイ・ブラッドベリ『華氏451度』を読んだばかりだからでしょうか。
しかし小説ではなく実際にそんな世界が起こっていたと思うと、なかなか心に来るものがあります。

そんなディストピアで作者はどうしたかというと、出家をして俗世を離れました。出家をした理由は人間関係(権力下のあれこれ)のようですが、無常を深く感じていたのはそれだけではないように思われます。ディストピアだから現世ではなく来世に期待しようとするのも納得できます。

また、母の命尽きたるを知らずして、いとけなき子の、なほ乳を吸ひつつ、臥せるなどもありけり。

先日読んだ井伏鱒二『黒い雨』にも似たような描写がありました。
そう思うと、よりリアリティが増してきます。
『黒い雨』では主人公がそれをどうしようもないと諦めて素通りしますが、実際に『方丈記』の頃にも誰も他人の子なんて助ける余裕は無かったことでしょう。

もしわ狭き地にをれば、近く炎上ある時、その災をのがるる事なし。もし辺地にあれば、往反わづらひ多く、盗賊の難はなはだし。また、いきほひるものは貪欲ふかく、独身なるものは、人にかろめらる。財あれば、おそれ多く、貧しければ、うらみ切なり。人を頼めば、身、他の有なり。人をはぐくめば、心、恩恵につかはる。世にしたがへば、身、くるし。したがはねば、狂せるに似たり。いづれの所を占めて、いかなる業をしてか、しばしもこの身を宿し、たまゆらも心を休むべき。

少し難しい部分もありますが、こうしてもダメ、ああしてもダメ、どうすれば心休まるのか、といったことが書かれています。現代でも本当に苦しい時、こういった状況になることはありますよね。それは800年も前に鴨長明も感じていたことなのです。さらに200年前、つまり今から約1000年前には、和泉式部が次のような歌を残しています。

いかにしていかにこの世にあり経ばかしばしもものを思はざるべき

1000年も前から人は途方に暮れながら生きていました。そして人類はまだ現代まで続いています。そう考えると、途方もないほどの壮大なものが感じられます。
もちろん当時と現代は全然違う社会です。だからこそ、現代には現代ならではの苦しみがあります。その中でもがき苦しみながら、人の営みは続いてきたのだなぁと思います。

春は、藤波を見る。紫雲のごとくして、西方に匂ふ。夏は、郭公を聞く。語らふごとに、死出の山路を契る。秋は、ひぐらしの声、耳に満てり。うつせみの世を悲しむかと聞こゆ。冬は、雪をあはれぶ。積り消ゆるさま、罪障にたとへつべし。

これは方丈での暮らしについて書かれているところです。四季を感じながら一年中仏教の教えに思いを馳せているところが魅力的です。鴨長明は歌人としても活躍したので、このような文章を好むのでしょう。冒頭の朝顔と露の例え話も良いなと思います。
しかしこの綺麗な文章の後は、次のように続きます。

もし、念仏ものうく、読経まめならぬ時は、みづから休み、みづから怠る。さまたぐる人もなく、また、恥づべき人もなし。

あの鴨長明すら怠惰になる時あり、況や凡人をや。
サボりたいときはサボってもいいじゃん、と思わせてくれます笑。
しかし重要なのは後半かなと思います。それができるのは、「さまたぐる人」「恥づべき人」がいないからなのです。
確かに、怠惰を自覚して自分をダメだと思うのは、他人の目を気にしてしまっている気がします。
現代はインターネットによって良くも悪くも多くの人がどこでも繋がる時代です。また、何かと競争させられる社会でもあります。
そういう点から、現代の問題を考え直すきっかけにもなるのではないかと思います。

おわりに

初めて読んだ時はそれほど面白く感じなかったのですが、今回は色々と考えさせられたのでまた読んでよかったです。
感想が変わっていくのも、再読する面白さですね。

というわけで、最後まで読んでくださってありがとうございました。

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