読書感想文(377)釈徹宗『維摩経;空と慈悲の物語』(NHK「100分 de 名著」ブックス)


はじめに

こんにちは、笛の人です。
読んでくださってありがとうございます。

今回は仏教関連書籍です。
最近は仏教の勉強をしたくて、月に一冊以上仏教関係の本を読むことを目標にしています。
先日本屋さんに行ったときにこの本を見つけ、法華経の本を読んだ時に『維摩経』には女性差別を諫める場面があると書かれていたのを思い出したことがきっかけでこの本を手に取りました。

感想

とてもわかりやすくてよかったです。
本文もぜひ読んでみたいと思いました。

『維摩経』は物語としても面白く、維摩という在家信者が菩薩たちに教えを説きます。
こういう既存の権力?に囚われない考え方もいいなと思います。でも、それが各宗派の根本経典にならなかった理由なのかもしれません。
それにしても、維摩のお見舞いに行く役割を皆で押し付け合うのはちょっとひどいのではないかと思いました。
また、作者が『維摩経』の中心は慈悲と空であると筆者が述べていますが、この慈悲が私の課題であると思いました。
私は最近、他人にとって善いことをすることを目指していますが、まだ衆生全体を思いやる心を自然と持つことができていません。また、そもそも目の前にいる相手に対してですら、相手の心に寄り添えていないこともあります。
衆生が病んでいるから私も病んだのだ、という親が子を思うような大悲を私も持ちたいと思いました。

印象に残ったのは、天女と舎利弗の話です。
天女が華をまくと、菩薩たちには華がつかずにすり抜けますが、弟子たちには華がくっついてしまいます。華のようなきらびやかなものは出家者にふさわしくないとして、弟子たちは華を振り払おうとします。
そこで天女が尋ねます。
「あなたたちはなぜ華を振り払おうとするのですか?」
弟子たちは答えます。
「華は出家者にふさわしくないからです」
すると天女が説きます。
「ふさわしいとかふさわしくないとか、そんな風に「こうあるべきだ」と分別しているから、あなたたちには華がくっつくのです。そういう分別から離れるのが仏法でしょう。だから菩薩様たちには華がくっつかないのです」
ということで、華がくっつくというのは「こうあるべき」という枠組みに執着する心のメタファーだったのです。
さらに、舎利弗は天女に尋ねます。
「あなたはそれほど深く仏教を理解しているのに、なぜ男の姿にならないのですか?」
これは当時、男性しか成仏できないと考えられていたため、女性が成仏するには変成男子の必要があるとされたためです。『法華経』においても、龍女は男性に変身してから成仏します。
天女は答えます。
「あらゆる存在は完成体ではなく、本質など幻にすぎないのに、なぜあなたは男性や女性という表面上の枠組みにこだわっているのでしょう?」
これも先ほどと同じように、舎利弗が既成の枠組みで物事を見ていることを指摘しているのです。
そして天女は神通力で舎利弗を女性の姿に変えてしまい、天女は男性である舎利弗の姿に変身します。
この経験によって、舎利弗は「目に見えているものは現れたものに過ぎず、本質とは無関係であった」と気づきます。
これは仏教で「三大」=「体(本体・本性)・相(体から現れて可視化された現象や形態)・用(現象が作用し合って生じる働き)」と呼ばれるもののうち、「相」にとらわれてはいけないということを説いています。
尚、私が服装にあまりこだわらないのはこれに近いです。ただ、そのことに囚われ過ぎるあまり、あえて無難な服に執着するのもまた違うなあと気づきました。自分に限らず、服装は「体」から生じた「相」であるという考えを持てるようになりたいです。

もうひとつ、孫引きになりますが、この本で紹介されていた『中阿含経』の中にある『阿梨咤経』の一節が印象に残りました。
『阿梨咤経』で釈迦は「私の教えは川を渡る(欲望に流されず、安寧な世界へ到達する)ための筏のようなものである。向こう岸に渡ったら筏を捨ててよい」と言っています。
つまり、悟りに至ったら仏教の教えは捨てて良いことになりますので、仏教はあくまでも悟りに至るための手段に過ぎないことになります。
これは『法華経』で強調される「方便」や、仏教が様々な宗派に分かれつつも一つの仏教足りえたこと、開発的仏教が許容されたことの根拠となるのではないかと思いました。

最後に、読みながらとったメモをコピペして載せておきます。

5ヴィマラキールティ・ニルデーシャ・スートラ
9二項対立のワナから離脱しろ、「言語ゲームからおりろ」そして「もう一度参加せよ」
17維摩という在家信者が釈迦や仏弟子、菩薩を問答バトルで言い負かす
18出家者のほうが在家よりレベルが高いと思われがちだが、維摩経は逆→根本経典にならなかった理由?
22,23初期仏教において、在家信者は輪廻の中でより良い場所を目指す→生天思想
26中阿含経(ニカーヤ)の中の『阿梨咤経』(ありたきょう)で釈迦は「私の教えは川を渡るための筏のようなものである(欲望に流されず、安寧な世界へ到達する)。向こう岸に渡ったら筏を捨ててよい」と言っている
→開発的仏教の根拠足りうるか
→内部に自己否定を設定、脱構築装置
27大乗仏教の核・テーマは初期中期後期と変遷していく
・菩薩道
→出家も在家も菩薩(悟りを求める者)である。自分の修行と利他行がひとつ
・空
→元は存在の欠如を表すが、大乗では全てのものは関係性によって成立していて、実在するものはどこにもない
・他者性と社会性
31この世界が佛の国、みんなが他の人々を救いたいと願っているから
36ものごとの本質を見る「智慧」と眼の前にいる他者に対してたった一人の我が子のように寄り添う「慈悲」
54 舎利弗や目蓮
55自己分析と他者観察
56持律第一の優婆離はシュードラ(最下層)出身
58十大弟子一覧
60弥勒菩薩の授記も否定、之はちょっと違う気がする

見舞いを断られ続ける維摩、嫌われ過ぎて笑う

62形態は本質ではない、確かに
62持世菩薩は魔王に騙されかけたときに助けられたから見舞いに行かない→???
☆63教えを説くのは出家者だけの専売特許ではなく、一般の在家信者も教えを積極的に説いていいのだ
64 維摩は善悪等の思い込み(枠組み)を揺さぶる、悪魔の代弁者的な?
65文殊菩薩が仕方なく行くことになる→「この二人の対談奈良素晴らしい教えが聞けるに違いない!」皆でついて行く→70仏教が目指す2つの実践である、の智慧の象徴と慈悲の象徴が一つに
67克服すべき3つの煩悩・三毒「貪欲(有愛)」「瞋恚しんに(怒り)」「愚痴(痴)」→愛が有は貪欲
68衆生病むが故に我は病む=慈悲
70大悲=衆生全体に向けた慈悲
☆72大乗寺院の三尊、①釈迦如来悟り、普賢菩薩慈悲、文殊菩薩智慧、②阿弥陀如来悟り、勢至菩薩智慧、観音菩薩慈悲、③薬師如来悟り、日光菩薩智慧、月光(がっこう)菩薩慈悲、④密教では大日如来悟り、金剛界曼荼羅智慧、胎蔵曼荼羅慈悲
81無分別智は自分のフィルターを通さない
84無常を説いても我が身を嫌悪するように解いてはならない云々、自分の苦悩を自覚して他者の苦悩とシンクロさせていく
86空にこだわり過ぎるのも執着、空病
93,94華が張り付くのは執着のメタファー、こうあるべきという分別
95舎利弗「天女は何故仏教を理解しているのに、男性に変わらないのか?」
天女「なんで性別にこだわるの?」
舎利弗女体化、天女は舎利弗に変身
96「三大」=「体(本体・本性)・相(体から現れて可視化された現象や形態)・用(現象が作用し合って生じる働き)」
99金子みすゞの詩 「私はそれに気がついた それも私のせいじゃない」
103,104空の実践と縁起の実践
113 維摩一黙、維摩の一黙、雷のごとし
116出家だけが仏道ではない
116維摩は異世界人(妙喜国、東にある阿閦による仏国土)
118法供養品、経典を読み、教えをしっかり理解し、実践し、他者へ伝える
法四依①義に依りて語に依らず②智に依りて識に依らず③法に依りて人に依らず④了義経に依りて不了義経に依らず
137初期仏教の「空」は「存在しない」の意?ここにあるものだけに集中せよ?
140,141説一切有部は構成要素自体は存在する→ダンマパダに近い
143,144縁起思想の再構築。原因→結果の一方通行から相互依存の動的な関係と捉えるようになる
152スッタニパータの第四章→論争してはならない

おわりに

今回初めて『維摩経』に触れてみましたが、とても面白かったので、もっと深く学びたいと思いました。
今のところ、少し勉強できたのは『ダンマパダ』『法華経』『般若心経』『維摩経』くらいです。一応『華厳経』も入門書を読みましたが、これは正直全然理解できませんでした。鈴木大拙は華厳経を重視していたようなので、いつか理解できるようになるために勉強を続けたいと思います。
次は何を学ぶか迷っているのですが、源信の『往生要集』を読めば、平安文学の読解に役立つかなあと思ったり。でもそれで言えば『三宝絵』でしょうか。
次に本屋さんに行ったときにときめいた本を選ぼうと思います。

また、今回初めてパソコンでnoteを書いてみました。
タイピング練習の一環ですが、思っていた以上に時間がかかってしまいました。
パソコンでnoteを書けるようになれば、家でスマホの電源をオフにできるので、生活がより良くなると思うのですが、先は長そうです。
今年が終わる頃には、パソコンでサクサクと書けるようになっていたらいいなと思うので、無理のない範囲で続けようと思います。

ということで、最後まで読んでくださってありがとうございました。



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