読書感想文(148)石田衣良『4TEEN』

はじめに

こんにちは、笛の人です。
読んでくださってありがとうございます。

今回は初めて石田衣良さんの小説を読みました。有名なので知ってはいたものの、これまで読む機会がありませんでした。
今回読んだきっかけは、4月から担当する現代文の授業で石田衣良さんの随筆を扱うからです。できる限り理解を深めるために、という口実で、気になりつつ読めていなかった作品を読むことにしました。
全然知らなかったのですが、直木賞を受賞しているので読んだことがある方も多いかもしれません。
小学生の頃は直木賞の存在すら知らなかったので、そういう所にもジェネレーションギャップは表れるのかもしれないなぁと思いました。

感想

面白かったのですが、多分まだこの作品を消化しきれていないように思います。というのも、これまで読んだことがある直木賞受賞作に比べて、あまりインパクトを感じなかったからです。
インパクトがあるから良いというわけではないのですが、初読でインパクトがある作品はやはり心に残ります。一方で、インパクトの強いものが蔓延する現代では、逆に繊細なものに対する感受性が衰えがちであるように思います。
この小説はどちらかというと何気ないような青春の日常を綴ったものなので、そこを上手く拾えなかったのかなぁと思います。
とはいえ、自分の中学生時代を振り返りながら、同じようなことを考えていたなぁと懐かしく感じたり、これはきっともう少し上の世代の人にはしっくりくるんだろうなぁと思ったりもしました。

短編を集めたものだけあって、それぞれのお話にあまり繋がりが感じられなかったことが少し残念でした。恋人ができたりとか、変なクラスメイトとか、他の所にも影響してきそうなのになぁ、と。
でも思い出って案外そういうものなのでしょうか?意識しないと思い出せない、けれど確かに胸の内にある何気ない日常は、思い出の中では個々の事象として独立しているのかもしれません。

また初めて読んだだけあって、文体が特徴的だなぁと思いました。何がどうかはわからないのですが、固有名詞が多くて情景描写が具体的なので、東京に住んでいる人はより一層この作品に入り込めるのではないかと思いました。
残念ながら私は地名や都市の位置関係がわからないのでぼんやりと想像するしかできませんでしたが、リアルさは伝わってきました。

ここからはいつも通り引用もしながら考えたことを書いていきます。

 ユズルやぼくみたいな中学生だけでなく、誰にだってなんでもできると思いこむときがある。もちろん、そんな思いこみは間違っていて、現実の地面に急降下してクラッシュしちゃうんだけど、その瞬間はほんとうになんでもできるって感じがするのだ。
  そういうのは、まったく悪くない感じだ。単純な思いこみでもかん違いでも、ニュートンの法則よりもっと強く自分のことを信じていられるのだから。

P106,107

大人が忘れてしまいがちなことではないかなと思いました。
普遍的法則よりも強い自信。大人は色々と知りすぎてしまっているから、余計なブレーキをかけてしまいます。
いつまでも若くいる為の条件の一つなのではないかと思います。

「不思議なのは、みんなにどれほど悪くいわれても、ぼくにはそれがぜんぜん悪いことに感じられないってことなんだ。だって男の人を好きになるのは、ぼくが生まれてからしたことのなかで一番いいことなんだよ。心の深いどこかでぼくはわかってる。みんなが間違っていて、人を好きになるぼくのほうがただしいんだ。男とか女とかじゃなくて、人を好きになること。幼稚園のころも月島中学にはいっても、これから大人になっておじいちゃんになっても、それは絶対変わらないと思うんだ。誰かを好きになるのは、とても素敵なことだ。それに男とか女とか関係あるのかなって」

P201

これはゲイのクラスメイトのお話でした。クラスメイトは最初冷やかしていたものの、その後の収まり方は割と理想的なのではないかと思いました。
私はあまりこの辺りのことに詳しくはないので、これから勉強していきたいです。

なんだってそうだけど、ものごとの始まりにはなにか不思議なエネルギーがある。そういうのはだいたい期待はずれに終わることが多いのだけど、それでもつぎになにかを始めるときにはまた同じときめきを感じるのだ。

P252

これはわかるなぁと思いました。
一番初めに思いついたのは学校の授業用ノートです。ノートが新しくなった時はいつも字をきれいに書くのですが、2ページ、3ページと進むごとに雑になって、5ページ目くらいにはいつも通りなんですよね笑
私はこれを活かして、色々な事を始めることでモチベーションを維持するようにしています。やることを転々と変えることで常に楽しむことができます。

「ぼくが怖いのは、変わることだ。みんなが変わってしまって、今日ここにこうして四人でいるときの気もちを、いつか忘れてしまうことなんだ。ぼくたちはみんな年を取り、大人になっていくだろう。世のなかにでて、あれこれねじ曲げられて、こうしていることをバカにするときがくるかもしれない。あれは中学生の遊びだった。なにも知らないガキだった。でも、そんなときこそ、今の気もちを思いだそう。変わっていいことがあれば、変わらない方がいいことだってある」

P317,318

これも共感できるし、いいなぁと思いました。
中学生と大人では密度が違うかもしれませんが、これからも思い出を意識することで強く心に刻んでいきたいです。
そしてバカなりに懸命だった子供心をいつまでも忘れずにいたいです。

おわりに

文章は読みやすかったので、一日で一気に読み終えました。
石田衣良さんは恋愛小説を多く書いているイメージがあるので、またいつか他の作品も読んでみたいです。

ということで、最後まで読んでくださってありがとうございました。


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