読書感想文(310)朝井リョウ『正欲』

はじめに

こんにちは、笛の人です。
読んでくださってありがとうございます。

今回は初めて朝井リョウさんの作品を読みました。
きっかけは夜中に「正しいってなんだろう?」と考えこんでしまい、その答えの一つを知りたいと思って真っ先に思いついたのがこの本だったからです。

感想

久々に重たい小説を読んだなぁという感じです。
安易に「正しい」の答えが知りたいと思っていた自分の浅はかさを痛感しました。
「正しい欲」を突き詰めて考えた結果、なんかよくわからないけどすごいものができた!みたいな作品です。
いや、作者にとっては上手く整理できていて私が読めていないだけかもしれませんが……。

一番強烈に印象に残っているのは、マイノリティの中にもマジョリティがあり、近年注目されるのはこのマジョリティのマイノリティに過ぎないのだ、ということです。
たとえばLGBTQなど、これは「正しい」価値観を持てば、差別してはいけないということが、世間的に受け入れられます。しかし、これですらまだまだ偏見があるから、このような運動が盛んなわけです。
しかし、それらよりもさらに、理解されないマイノリティがいるということ。
今回の作品で具体的に言うなら、水に興奮する人。
この点については、正直確かにここまで考えたことがありませんでした。
しかし小児性愛好者については、存在を知りつつもそれほど関心を向けてこなかった気がします。

今回の事件の大きな問題点は、本人達の行動が法律に抵触していることです。
しかし、水に興奮する人は、法律に抵触しない範囲で収めることができたはずなのです。ここが改めてしっくりこないところです。メンバーの一人には小児性愛的な性癖を持っていたようですが、それを法律のラインによって弾かなければならなかったのだと思います。
これは孤独が原因とも言えますし、後に取り調べで黙秘する場面へと繋がるピースでもあります。

私はお互いに「いなくならないから」と相手に伝える佐々木と夏月の関係が尊く感じましたが、無理矢理相手の心にねじ込んでくる八重子には吐き気がしました。八重子の悩みは、やはり「正しい」価値観では守られるものだと思うのです。八重子の周りの世界ではそうでもなかったかもしれないので、敢えて批判しようとは思いませんが、それを他人にも当てはめて考えるのがまさに「正欲」の権化。今書いていてもイライラします。
ただ、この本を読むまでは私もそこまで未知の領域を想像できていなかったので、人のことは言えません。そういう意味では、この本を読んでよかったです。

この本はまだまだ咀嚼して色んなことを考えられそうな気がします。
作者の今後の作品での発展に期待したいです。

おわりに

朝井リョウさんの本は『何者』が気になっているので、そのうち読むと思います。
また『スター』もそのうち読むことになると思います。

ということで、最後まで読んでくださってありがとうございました。


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