読書感想文(277)芥川也寸志『音楽の基礎』

はじめに

こんにちは、笛の人です。
読んでくださってありがとうございます。

この本を読んだきっかけは、平野啓一郎さんの『マチネの終わりに』の中で引用されていたことです。次の一節がとても印象に残っていました。

音楽は静寂の美に対立し、それへの対決から生まれるのであって、音楽の創造とは、静寂の美に対して、音を素材とする新たな美を目指すことのなかにある。

『音楽の基礎』P2

感想

全体的には難しかったです。
私は音楽をみっちりやってきた人間ではないので、経験が伴わないまま知識が入った感じです。
しかし、中には面白いなと思えることもありました。
以下に箇条書きします。

・人間が聴こえるのは20〜2万ヘルツくらい
・楽器の音は変わり目の特徴、そこをカットすると判別できない
・標準音は元々435、後に440、442と徐々に高くなっていく。高い方が大きな会場で響くため。日本のオーケストラでも444にしたりする
・眠る貴族を驚かすためのハイドンの「驚愕交響曲」
・ドレミファソラの由来は聖ヨハネ賛歌
・ドビュッシーが作った基音がわからない「全音音階」
・弦の長さを半分にすると倍音になるなどのピュタゴラス音階。現代使われるのはオクターブを数学的に十二等分した平均律音階、しかしこれは音響学に基づいていないので響きがややきたない、隣り合う音の♯と♭が同じ音になるのは平均律音階
・ショパンの名言「その背後に思想なくして真の音楽はない」
・ドビュッシーが4度の和音(?)を発明

特に印象に残ったのは平均律の話です。
この本の内容を理解しようとする時も、自分がいかに平均律に支配されているかということを思い知りました。

芸術を、たんにある時代のなかで生まれたものと考えるのではなく、逆にある時代を、そしてその時代の内容を形づくるものだと考えるなら、ただ現代という時間の上でつくられたということのみをもって、現代音楽と呼ぶことはできないであろう。

P81

音楽が時代をが作る、という点で真っ先に思いついたのは、ロックでした。
ロックが急速に広まったのは時代がそれを迎え入れる準備ができていた、即ち時代に合っていたともいえるかもしれません。思想の前に感性があるということです。しかし、その感性を思想に昇華し、それを広めたのは紛うことなき音楽であると言えるのではないかと思います。

リズムはあらゆる音楽の出発点であると同時に、あらゆる音楽を支配している。リズムは音楽を生み、リズムを喪失した音楽は死ぬ。この意味において、リズムは音楽の基礎であり、音楽の生命であり、音楽を超えた存在である。

P90

作者はこの部分を繰り返し述べています。かなり強い表現で、印象に残りました。

私たちの内部にある音楽とは、いわばネガティヴの音楽世界であり、作曲する、演奏するという行為は、それをポジティヴな世界におきかえる作業にほかならない。音楽を聞こうとする態度もまた、新たなネガティヴの音楽世界の喚起を期待することであり、作り手→弾き手→聞き手→作り手という循環のなかにこそ音楽の営みがあるということは、遠い昔もいまも変りがない。積極的に聞くという行為、そして聞かないという行為な、つねに創造の世界へつながっている。
この創造的な営みこそ、あらゆる意味で音楽の基礎である。

P206

最後はこのように締め括られます。
音楽というものを物質的なものとして捉えず、作り手や弾き手や聞き手といった関係の中での営みである、ということでしょうか。
まだ私にはよく理解できていないように思われます。

おわりに

感想文は印象に残ったところばかりを引用していますが、全体的には記譜法や和音についてなど、タイトル通り基礎の話が多かったです。ただその基礎のレベルはかなり高かったように思います。
いつか『のだめカンタービレ』などを読めば、もう少しわかるかもしれません。

ということで、最後まで読んでくださってありがとうございました。


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