読書感想文(54)秋葉四郎『短歌入門;実作ポイント助言』

はじめに

こんにちは、笛の人です。
読んでくださってありがとうございます。

今回はまた短歌の本を読みました。
こうして一つのことについて集中的に学ぶのは良いことなのかもしれません。
一方で、寄り道をたくさんしながら思わぬところで色んなものが結びつくのが好きなので難しいところです。

感想

ものすごく為になりました。
ふんわりとそれっぽいことを言うのではなく、確かな信念に基づいた歌論がありました。
素人の私からすると共感できるところもできないところもありましたが、歌人の感性に触れることができたように思います。

共感できなかったポイントとしては、恐らく短歌を芸術かつ崇高なものと捉えていたところです。私は掛詞などの言葉遊びや語感の良いもの、上手いこと言っているものが好みです。
しかし、そのようなものを正岡子規が「ダメだ」と言ったのが現代短歌の流れなので、私の現代短歌に対する理解が無いのはそこに理由があるのでしょう。私はとりわけ和泉式部の和歌をたくさん読んできたので……。『万葉集』にも面白いと思う歌はあるけれど、『古今和歌集』の方がどちらかといえば好きなのです。

例えば使い古された表現というのが良くないものとされていました。和歌の世界では「桜→散る」のような定型があって、そこから生まれる良さがあるように思います。一つの歌が共通の世界観を生み出すというのは素敵なことのように私は思いますが、いかがでしょうか。
現代短歌では例えば俵万智さんの「寒いねと」の歌などはそのような位置づけになり得るのではないでしょうか。ある冬の日に「寒いね」と言ってみたら、お互いにこの歌を思い浮かべるということはあり得ると思います。
そういう新しい世界観を作っていくというのも面白いのかなと思いますが、どうなのでしょうか。一首ごとの作品を芸術として捉えると、やはり意見が食い違うように思われますが……。

また、短歌を作者と結びつけて考えることが多いように思いました。確かに実際に即したという点ではよくわかるのですが、私はむしろ作者と切り離して楽しめる短歌の方が良いように感じます。短歌から作者が想像されるのは良いですが、作者から短歌の解釈に想像の余地を与えるのは、それこそ短歌という芸術作品としては邪道なのではないかと思いました。言葉の芸術なのだから言葉で表したまへ、というところでしょうか。この考え方は純粋芸術を良しとする価値観が私の中にあるのかもしれません。複数の要素があればより複雑で奥行きのある作品になることは当然なのですが、要素が増えるとその分短歌という要素の割合が減ってしまうような気がします。
この辺り、職業としての歌人や有名な歌人と、凡人の違いのようにも思われます。確かに和泉式部の歌を鑑賞する時は和泉式部という人物像を踏まえて鑑賞することが多いように思われます。一方でよみ人しらずの歌でも良い歌というのはあると思います。
しかるに、まず短歌が独立して良いものであり、その上に作者像があれば奥行きが生まれる、という順番が良いのかなと思います。
まあこの本は初めから「本気で短歌を学ぶ人」 を対象としているので、歌人としての自分を意識する必要を説いているのだとは思います。
以上、素人の感想ですが、歌人の方はどのようにお考えなのでしょうか。

この本では推敲例がたくさんあり、確かに良くなるものが多く、わかりやすくて面白かったです。
逆にわかりにくかったところは、品性がある・卑しいなどの感覚的な部分です。これはもう読む・詠む経験を積むしかないのかもしれませんが、素人には理解しづらいところでした。

まとめとしては、歌人の考え方が少しわかったので面白かったです。
歌人は各々歌論を持つべしという主張があり、自分の短歌観を見つめ直すきっかけにもなりました。
まだわからないところも多いので、また読み返したいと思います。
色んな歌集も読んでみたいです。

おわりに

そういえば昔、大学の先輩に連れられて歌合に参加したことがあるのですが、その時に判事の方に「ここをこう直した方がより良い」と言われました。個人的にはそこを変えると良さが無くなると思ったのですが、確かに別の良さが出てくるなとも思いました。しかしそこを直した場合でも、この本の著者が良しとする短歌観にはそぐわないと思うので、むしろ直さない方が良いのではないか、と思いました。
どのような歌が良いのかというのは、ある程度の基準(例えば文法ミスなど)はあるでしょうが、個人の感性に依るところも大きいように感じます。そして感性というのは時代にも左右されるものです。
様々な短歌と短歌観に触れつつ、自分なりの歌論を考え、改めていきたいなと思いました。

というわけで、最後まで読んでくださってありがとうございました。
短歌については本当にど素人なので、歌人の方はコメントなどいただけるととても嬉しいです(もちろんそれ以外の方も)。

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