読書感想文(123)金子みすゞ『金子みすゞ童謡全集⑤ さみしい王女・上』

はじめに

こんにちは、笛の人です。
読んでくださってありがとうございます。

今回は金子みすゞ全集の5巻目です。
結構前から毎日少しずつ読み進めています。

感想

今回も素敵な作品がたくさんありましたので、いくつか紹介します。

白い帽子


白い帽子、
あったかい帽子、
惜しい帽子。

でも、もういいの、
失くしたものは、
失くしたものよ。

けれど、帽子よ、
お願いだから、
溝やなんぞに落ちないで、
どこぞの、高い木の枝に、
ちょいとしなよくかかってね、
私みたいに、不器っちょで、
よう巣をかけぬかわいそな鳥の、
あったかい、いい巣になっておやり。

白い帽子、
毛糸の帽子。

P136

相変わらず温かいなぁと思います。
最後の一節から帽子を大切に思う気持ちも伝わってくるのですが、そんな大切な帽子が誰かの役に立ってほしいと願う、優しい考えです。
この流れだと自画自賛のようになってしまいますが、実は私は似たような経験があります。
以前ショッピングモールで服を買って回っていた時、ふと途中で買った服の袋を失くしていることに気づきました。
手あたり次第に探し、落とし物センターにも届けを出しましたが、結局見つかりませんでした。
合計1万円分くらい買っていたので、痛い出費です。
しかし、見つからなかったとしたら誰かが持って行ってしまったのだろうか、と思いました。それはつまり、落とし物の服を持って行ってしまうような人が、服を手に入れたということです。
どのような人なのかはわかりませんが、そんなに困っている人に服をプレゼントしたのだと考えると、それほど悪い気はしませんでした。
こういう時、自分にとっては損をしたように考えてしまいがちですが、その分得をした人もいます。私自身はこの損を受け入れられるだけの余裕があり、その分余裕が無い人が得をしたのだとすれば、それはそんなに悪くないことのような気もします。勿論、ショックを和らげる為にそういう物語を創ったのかもしれませんが。
失くしたものは、帰ってこないなら帰ってきません。その分、誰かが得をしていたらいいなと思います。

梨の芯


梨の芯はすてるもの、だから
芯まで食べる子、けちんぼよ。

梨の芯はすてるもの、だけど
そこらへほうる子、ずるい子よ。

梨の芯はすてるもの、だから
芥箱へ入れる子、お悧巧よ。

そこらへすてた梨の芯、
蟻がやんやら、ひいてゆく。
「ずるい子ちゃん、ありがとよ。」

芥箱へいれた梨の芯、
芥取爺さん、取りに来て、
だまってごろごろひいてゆく。

P166

今回一番いいなと思ったのはこれです。
最初の「けちんぼよ」「ずるい子よ」は大人にそう言われたのかなぁと思っていましたが、読み進めると、子供の視点で「けちんぼ」ということでした。
ずるい子の方が役に立っている。良いことってなんだろう?
そんな素朴な疑問を読者が感じられる素敵な詩です。
でも私は、蟻は「ありがとよ」なんて言っていない気がします。蟻は蟻で生きるのに必死で、多分「お、ラッキー」くらいに思って、ずるい子の事なんて眼中に無い気がします。
それでも、ずるい子は、蟻の役に立っています。
世の中、そういうことも、たくさんあるんじゃないかなぁと思いました。

 身長百七十センチの私は、いつも百五十センチくらいの目の高さで物を見ている。
 みすゞはちがう。
げんげを見ればげんげの高さで、かたばみを見るとかたばみの高さで、蟻を見ると蟻の目の高さで見ている。
 もっといえば、みすゞはげんげを見るとげんげに、かたばみを見るとかたばみに、蟻を見ると蟻になっている。

P178,179

これは巻末にある矢崎節夫さんの解説「みすゞ体験」からの引用です。
とても的確であり、みすゞ作品の良さがよくわかります。
この境地は、そういえば岡潔のエッセイの中でも言及されており、例としては松尾芭蕉や禅僧の和歌が挙げられていました。
この視点を私は大事にしたいのだと思います。

おわりに

この全集は全六巻なので次で最後となります。シリーズの終わりはいつもなんだか寂しい気持ちがします。

このnoteは今日2本目です。
普段は1日1本なのですが、諸事情あって今回は2本です。明日も恐らく2本です。
時間が無いので詳しくは明日のnoteで。

ということで、最後まで読んでくださってありがとうございました。


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