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プロレス英文読解教室デスティーノ後編

こんにちは。札幌で英語講師をしているアラといいます。

さて、前回の続きですが、まずは英文を見てみましょう。

①While the rest of NJPW workers returned to Japan, ②Naito remained in North America, returning to Mexico and CMLL for a tour, ③during which he continued teaming with La Sombra as part of his Los Ingobernables stable.
Tetsuya Naito(Wikipedia)

①などの番号は僕がつけています。前回は②まで訳を考えました。

「新日本プロレスの職員の(残り)全員が日本に戻った一方で、内藤選手は、巡業のためにメキシコとCMLLに戻り、北米に残った。」

ここで訂正です。物事が起きた順番を考えると、「北米に残った後にメキシコに戻った」と考えるのが自然ですよね。なのに上の訳だと「メキシコに戻って、北米に残った」となっていてちょっと前後関係が混乱した文になっていると思います。といっても、Bushi選手のマスクをかぶった異常にガタイのいいオジサンが突如現れた時ほどの混乱ではないですが。

ということで、以下のように訳してみましょう。

「新日本プロレスの職員の(残り)全員が日本に戻った一方で、内藤選手は北米に残り、巡業のためにメキシコとCMLLに戻った。」

としてみます。ただこの場合、「remained」という過去形の動詞の訳が「残り」という過去の意味合いを持たない日本語になってしまいます。同様に「戻った」という、動作の完了を感じさせる日本語を使って、「returning」という時間に関する情報を持たない表現を訳してしまっています。

これは日本語と英語が別言語であるという、どうしようもない現実によるものです。この二つの言語の間には本来何の関係もないのです。だから、あっちを立てればこちらが立たず、ということがしょっちゅう起こります。新日とUWFが対抗戦をすることはあっても、G馬場対A猪木があり得なかったのと同じです。世には、言語同士根っこではつながっている、という感覚というか信念が根強くあると思いますが、実際にはそう都合よくいきません。すべての言語に共通するとされる普遍文法も、めちゃくちゃ抽象度を高めないと成立しないもので、言語学習に直接役に立つものではないでしょう。

閑話休題。基本的には日本語として理解しやすい訳が優れた訳ですね。ただ、大学受験でこの文の和訳問題が出題されると、returningが分詞構文であることを示さないといけない! と少なくとも受験生は思うものです。そして大学側は絶対に採点基準を示しません。となれば、この場合の落とし所は、最初の訳「新日本プロレスの職員の(残り)全員が日本に戻った一方で、内藤選手は、巡業のためにメキシコとCMLLに戻り、北米に残った。」になるだろうと思います。

振り返りで1,000語を超えてしまったので急いで③の部分にいきましょう。

③during which he continued teaming with La Sombra as part of his Los Ingobernables stable.

during whichが出てきました。今回のメインです。これは前置詞の後ろに関係代名詞が続いている表現です。多くの高校生がつまづく表現ですが、前回の分詞構文同様、これもまず訳を当てるという手で大丈夫です。ちゃんと読めます。

during Aで、「Aの間、Aの間中」ですね。Aには出来事が入ります。「30分」のような時間の量は入らないので注意しましょう。時間の量を使いたい場合はforを使うんでした。

whichは関係代名詞です。関係代名詞ってなんだよ、という人は「代名詞」というところに注目してみましょう。代名詞は「名詞の代わり」ということですね。「Bushiはからあげをあげた。内藤はそれを食べた。」と言ったときの「それ」が代名詞です。「それ」が「からあげ」を言い換えています。関係代名詞というのは、「それ」のように名詞を言い換えつつ「内藤はそれを食べた」という文をまるごと修飾語(物事を詳しく説明する言葉)に変えてしまう表現です。日本語の「Bushiは内藤が食べたからあげをあげた。」という文では、「内藤が食べた」が「からあげ」を修飾していますね。「内藤が食べた」という文を使って、「からあげ」という名詞を詳しく説明しているわけです。このように名詞を修飾する文のことを関係節とか形容詞節とかいいます。日本語では関係節を作るために関係代名詞は必要ないのですが(「Bushiは内藤が食べたからあげをあげた。」ではもともとあった「それ」が消えていますよね。)、英語で同様の文を作るのには絶対に必要です。"Bushi fried some Kara-age which Naito ate." (このwhichは省略可能ですが、関係代名詞が必要ないわけではありません。省略した場合でもゼロ関係詞が用いられている、と考えるのです。)

関係代名詞の使い方には厳密なルールがありますが、それは置いておきましょう。今は、関係代名詞whichが「人以外のもの」を言い換えていることを抑えておきましょう。人以外のものを指すとき、日本語で最もニュートラルな代名詞は「それ」になると思います。なのでこのwhichを「それ」と訳します。

これをduring AのAに投げっぱなしジャーマンのごとくブチ込みます。すると「それの間」とか「その間中」と訳せますね。これを前段までの訳にくっつけてみましょう。

「新日本プロレスの職員の(残り)全員が日本に戻った一方で、内藤選手は北米に残り、巡業のためにメキシコとCMLLに戻った。その間中」

となります。もう意味が分かりますよね。内藤選手がメキシコにいる間中、ということです。あとはもう普通の文です。

③during which he continued teaming with La Sombra as part of his Los Ingobernables stable.

「彼はラ・ソンブラ選手とチームを組み続けた、彼のロス・インゴベルナブレスの一員として。」

as part of Aで「Aの一部として、Aの一環として」、stableは「同業者の集まり」という意味で、日本の相撲部屋を指すこともあるようですが、今回は訳さなくても良さそうですね。それでも訳してみると「ロス・インゴベルナブレスという集団」とかになるでしょう。プロレスのことを全く知らない人に向けた文であれば訳した方がいいですね。

「彼」が二回でてきていますが、最初の彼が内藤選手、2回目の彼がラ・ソンブラ選手ですね。

ではまとめましょう。

While the rest of NJPW workers returned to Japan, Naito remained in North America, returning to Mexico and CMLL for a tour, during which he continued teaming with La Sombra as part of his Los Ingobernables stable.

「新日本プロレスの職員の(残り)全員が日本に戻った一方で、内藤選手は北米に残り、巡業のためにメキシコとCMLLに戻った。その間中彼は、ラ・ソンブラ選手のロス・インゴベルナブレスの一員として、彼とチームを組み続けた。」

と、なりました。「まず訳を当てる」という読み方がとても大切です。理屈から入ってしまうと、文を行ったり来たりしなくてはならずスピードが落ちます。そしてスピードが落ちると、なぜか精度も落ちるのです。余計なことを考えてしまうせいかもしれません。もちろん細かい文法の知識も大事です。そもそもそれがないと、関係詞や各種の構文に訳を当てることができないですからね。

訳を当てることにためらいを感じる人もいるかもしれません。英語は英語で理解しろ、と教育の現場で言われることもあります。しかし、英語を英語で理解しているってことをどうやって確かめるんでしょう? はっきり言ってしまうと、そんな方法は存在しません。そんな素敵な方法があるなら、大学受験も英検もTOEICも、今のような形にはなっていないでしょう。というかあらゆる人間活動が様変わりするはずです。だってその方法を使えば人の考えがわかるってことなんですから。

プロレスも外国語もトレーニングが大事です。「悩みながらたどり着いた結論は、やはりトレーニングしかない。」アントニオ猪木さんの言葉です。プロレスのド迫力の技、華麗な技、どれも長年のトレーニングの末のものですよね。ここで効率の良さや正解にばかりこだわると、逆に遠回りになると思います。

ということで、訳というのは自分の理解度を知るための道具でもあるので、おそれずバンバンやっていきましょう。何より英文の意味が掴めるので、手応えもあり、意欲も湧いてきますよ。そして複雑な文の場合、できれば身近な先生に訳の添削をお願いできるといいですね。添削は結構時間も手間もかかるので、あまり一気に大量にお願いしないよう配慮があると、スムーズに引き受けてもらえるかもしれません。

それでは次回の「プロレス英文読解教室」でまたお会いしましょう。

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