PENTAX 17という選択。
世は、まさに大フルサイズミラーレス時代。
フルサイズミラーレスじゃなければカメラじゃないとでもいうまでには、各社力を入れまくっている。
そんな時代にフルサイズでもなければデジタルでもない、そんなカメラが世に生み出された。
そう、PENTAX 17(イチナナ)である。
2年前ほどに発表された「フィルムカメラプロジェクト」の記念すべき第1作目のカメラだ。フィルムカメラプロジェクトについては下記を参照してほしい。
簡単に言えば、後継者問題や価格高騰によって失われつつあるフィルムという文化と技術を改めて継承し、次世代に繋いでいこうという取り組みだ。
そんな経緯で生まれたPENTAX 17。こんな時代に新作フィルムカメラを作るプロジェクトなんて、ビジネス的な観点からも正気の沙汰ではない。
となれば、様子見や試作機的な立ち位置であるのだろうなというのが私の予想であった。
が、その予想は嬉しい方向に大きく外れた。
レンズ交換式でないコンパクトハーフカメラと侮ることなかれ。作り込みも完成度も機能性も、一切ぬかることのない気合の入った1台として登場した。これまでの技術の粋を結集させた、まさにPENTAXの誇る技術のアベンジャーズのようなカメラに仕上がっている。
このデジタルカメラ時代に、PENTAX 17という選択肢もアリなんじゃないか…?
そう思わせてくれるカメラだと私は感じた。
なんといっても見た目がよい
まず、何といっても見た目がよい。
真正面から見たときはなかなか昨今のミラーレス機にはない独特な形状をしている。ボディーにファインダーが埋め込まれたかのような見た目だ。そしてもちろんハーフサイズカメラなのでファインダーは縦位置。
ハーフサイズカメラは35mm伴、デジカメで言うフルサイズの撮像範囲を縦に半分に割って写るカメラなので、横位置で撮ると縦の写真、縦位置で撮ると横の写真になる。ここも少し特殊なところかもしれない。
昨今のカメラではなかなか見ない、マイナスねじもよい味を出している。
そして、なんといっても軍幹部。イチナナの一番カッコいい面だと個人的には思っている。どうであろうこの武骨さ。ダイアルに巻き上げレバーに巻き戻しクランク。そしてペンタックスのロゴ。このぎちっとつまった感じは嫌いな男の子はいないんじゃないでしょうか(笑)
本体のチタンカラーや巻き戻しクランクは「PENTAX LX」を参考に
巻き上げレバーは「auto110」を参考に
レンズは「ESPIO MINI」を参考に
などなど、これまでのPENTAXの技術の粋を全てかき集めて作られている。
それだけにやはり、この機種にかけるPENTAXさんの並々ならぬ思いが、ボディをみているだけでも垣間見える。
操作に関する割り切りの良さ
これは見方を変えれば注意点とも言えるがイチナナは絞りやシャッタスピードを数値で細かく調整をすることができない。
低速シャッターモード、ボケモードなど、モードダイアルである程度の調整ができるだけ。
フォーカスもゾーンフォーカスを採用しており、遠景、3人、2人、1人、テーブルフォトなど、シーンに応じて直感的に調整できるだけである。
だが、この割り切りの良さが、とても軽快な使用感を生んでいる。
このカメラはあえて細かい設定をできなくさせることで、とにかく楽しくラフにとらせることに集中させている。
細かいことは気にせず、AUTOモードで撮れ!!というメッセージが聞こえるカメラである。
AUTOモードはフォーカス位置・絞りが固定され、シャッタースピードも自動で判断してくれる。(AUTOモードの場合は最短撮影距離は1m)
まさに少し性能の良い写ルンです。的な使い方ができるモードだ。
これが非常に楽しい。ハーフということもあり、36枚撮りなら72枚もとれるので、フィルムの残量も頭によぎることなく、ストレスフリーでおっ!と思った時にカメラを向けて撮ることができる。ファインダーを覗く必要もあまりない。
これだけ気軽にスナップできるフィルムカメラは現在ではなかなかないだろう。それこそ、写ルンです。くらいだ。
テーブルフォトなどを撮りたい場合は「Pモード」にすることで自分で任意にゾーンフォーカス位置を選択することができる。
開放で撮りたいときはボケモードにすれば良いし、夜に撮るなら低速シャッターモードにするだけ。
考えることが非常にシンプルで脳内の処理能力をカメラ以外のところに向けることができる。
これが本当に良いのだ。
昨今のデジタルカメラは、機能が全部盛りで何でもできる。動画も写真も色も何でも調整し放題だ。
大変便利だが、悪く言えば煩雑であるなと感じる。できることが多いがゆえに迷いが生じやすい。いろんな数字も表示されるし、純粋に「撮る」ということだけに意識を持って行きにくい。
こうした割り切りの良いカメラはなかなか昨今は見られなかった。「便利で何でもできなければスマホに負けて売れない」というメーカーの不安もあるのだろうか、どんどんどん機能がモリモリになっていく。
しかし、果たしてそうだろうか。こういう撮ることだけにシンプルに向き合える、撮ることの楽しさを見出させてくれるカメラであれば、スマホにも負けないんじゃないか?と思う。(そもそも、便利さで戦うならスマホに勝るものはない)
そういう意味でもイチナナは現代では非常に稀有で面白い立ち位置のカメラだなと感じる。
難しいことはいらない。とにかく撮って楽しんで、友達や家族と写真を共有して、思い出に残して…そんな写真本来の豊かな体験を思い出させてくれるのが、イチナナである。
フィルムの装填も非常にシンプル。どこかにひっかけたり、穴に通したりみたいなことはない。裏蓋を開け、オレンジマークの位置までフィルムを引き伸ばし、蓋を閉めればOKだ。
魅惑のトリプレットレンズ
最後に、肝心の写りをご紹介して終わりにしたい。
イチナナのレンズはありがちなプラスチックレンズではなく、きちんとガラス製であるところも素晴らしい点。3枚構成のトリプレットと呼ばれるレンズ構成だ。
焦点距離は換算37mm。おおよそ、40mmレンズで撮っているような感覚で撮れる。
9枚の絞りバネも内蔵しており、抜かりない。
非常にシャープでゴースト等も抑えられており、驚くほどクリアな描写をしてくれる。
カビが生えていたり曇っているレンズのボヤッとした「エモさ」を求めている人には合わないかもしれないが、超優秀な写りをするのでこのカメラをメインに据えることすら考えられる優秀な写りをしてくれる。
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