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考古学はアナログかデジタルか~ 瀬戸古窯の復元焼成から~大人の学びなおし

 冒頭の写真は、1989年に愛知県瀬戸市で撮影した平安時代の穴窯です。正式名称は穴田南第7号窯です。筆者が考古学というものを肌で感じた最初の現場でした。
 その考古学の現状を学ぶ機会がありました。スタートアップ拠点「ナゴヤ イノベーターズ ガレージ」(名古屋市中区栄3)で開講した大人の学び直し「デジタル時代の価値観を考えるリベラル・アーツ講座」の第2クール(全10回)です。
 11月18日の講師は名古屋大学の梶原義実准教授です。この講義で関心を持ったのが、考古学と情報技術との親和性についてです。
 発掘現場で見つかる数千、数万点というおびただしい土器などはすべて寸法を測り、記録として残します。大学では学生に最初にやってもらう基本的な作業ですが、時間も予算もかかるそうです。
 これに対して、コンピュータの自動実測のプログラムを使うと、遺物の実測を手作業から解放することが可能になりそうです。発掘報告書は図面が多くなるので、自動化はコスト面で大きなメリットがあります。また、3次元のレプリカを作って展示したり、人工知能(AI)を活用して物を認証したりするプロジェクトも動いています。考古学にもイノベーションの波が押し寄せているようです。
 梶原先生によると、愛知用水などの開発工事で失われる遺跡を記録するため、名古屋大は1957年から61年にかけて、猿投窯などの窯跡を53基発掘しました。楢崎彰一教授(当時)が調査を主導しました。発掘された灰釉陶器や中世陶磁は、のちに愛知県陶磁資料館(2013年から愛知県陶磁美術館)の設立につながっていきます。
 余談ですが、県立博物館がない都道府県は愛知県と静岡県だそうです。ただ、愛知県は陶磁美術館があることで、古窯や陶磁器の歴史と文化を発信する役割を果たしているようです。
 冒頭の瀬戸の古窯は陶土の採掘場所にあったので、測量直後に取り壊されるはずでした。地元の若手陶芸家を中心に古窯を復元して当時の山茶碗を焼成できないかと手を尽くした結果、市民も一緒になって考古学史上例のない復元焼成の試みが実現できたのでした。
 ふと思い出しました。筆者は当時、楢崎教授に復元焼成について話を伺っていました。「窯自体の調査は多いが、どのように窯がたかれたのか、火加減をどう調整したのかは未解明のまま。興味がある」と。
 アナログ時代の古窯の復元焼成は、「平安の炎 平成によみがえる」として、感動を共感できたのは事実です。一方で、これからの考古学にはデジタル技術が必要になってくるでしょう。
 梶原先生は、土器の分析はAIが得意だが、想像力を持って歴史に位置づけていくのはわれわれの仕事だといいます。アナログとデジタルの生かし方という宿題を与えられたようです。
(2020年11月27日)

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