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論文まとめ138回目 Nature 2023/10/25~

  1. 宇宙での重元素生成の様子を目撃

  2. TMPRSS2は、人間のコロナウイルスHKU1の受容体として機能

  3. スーパーコンダクティングナノワイヤを使用した革新的な400,000ピクセルの単一光子カメラの開発

  4. 全固体リチウムバッテリーの効率と安全性を高めるための新しい界面設計

  5. 双対反芳香族性を持つ炭素の新しい形態、cyclo[16]carbonの合成と特性評価

  6. 胎児の脳の発育を詳細にマッピングした大規模研究。

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなNatureです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

Heavy element production in a compact object merger observed by JWST
JWSTによって観測されたコンパクトオブジェクト合体における重元素の生成
「二つの巨大な星(中性子星やブラックホール)が合体すると、一瞬の光(ガンマ線バースト)が放たれ、その中には我々の日常にも存在する重元素が作られる。今回の研究は、そんな天文学の現場を捉えたものである。」

TMPRSS2 is a functional receptor for human coronavirus HKU1
TMPRSS2は、人間のコロナウイルスHKU1の機能的な受容体である
「コロナウイルスは携帯電話にパスコードが必要なように、私たちの体の細胞に入るための「パスコード」が必要です。この研究では、HKU1というコロナウイルスがTMPRSS2という「パスコード」を使って細胞に入ることを発見しました。」

A superconducting nanowire single-photon camera with 400,000 pixels
400,000ピクセルを持つ超伝導ナノワイヤ単一光子カメラ
「これまでの技術よりも20倍多いピクセル数を持つカメラを作成しました。これは、都市の人口が突然20倍に増加するようなもので、それだけの詳細を捉えることができます。」

Interface design for all-solid-state lithium batteries
全固体リチウムバッテリーのための界面設計
「リチウムバッテリーの「成長の問題」を防ぐための新しい防御壁を設計し、より効率的に電気を保存・放出することができるようにしました。」

On-surface synthesis of a doubly anti-aromatic carbon allotrope
二重反芳香族炭素の表面上合成
「芳香族性は化学の世界で特別な安定性を持つとされていますが、この研究ではその反対、双対反芳香族性を持つ炭素の新しい形態を作り出しました。それは、芳香族性の限界を探る新しいモデルとして注目されています。」

Normative spatiotemporal fetal brain maturation with satisfactory development at 2 years
健康な胎児の脳の成熟と2歳時の適切な発展に関する時間的・空間的規範
「「胎児の脳がどのように成長し発達するのか」を、超音波を使ってハイテクな3Dマップで詳しく調査しました。この研究は、健康な赤ちゃんがどのように脳を発達させるのかの基準となる情報を提供しています。」


要約

JWSTによって観測されたコンパクトオブジェクト合体における重元素の生成

この研究では、コンパクトオブジェクト(中性子星やブラックホール)の合体によるガンマ線バーストGRB 230307AをJames Webb Space Telescopeで観測。その結果、合体現象で重元素が生成されることが示された。

事前情報
中性子星やブラックホールの合体は、ガンマ線バースト、重力波の源、そして重元素合成の場として知られている。

行ったこと
ガンマ線バーストGRB 230307Aの観測を行い、その光の中に含まれる元素についての情報を収集した。

検証方法
James Webb Space Telescopeの中赤外線イメージングと分光法を使用して、バースト後の29日と61日に観測を行った。

分かったこと
バーストGRB 230307Aは、コンパクトオブジェクトの合体に関連する長持ちするガンマ線バーストの一つで、テルル(原子質量A=130)の放射線が観測された。また、ランタニドの生成により、主に中赤外線で光を放っていることも確認された。

この研究の面白く独創的なところ
特定のガンマ線バーストの中で、具体的な元素(テルル)の存在を明らかにし、これがコンパクトオブジェクトの合体によるものであることを示唆した点。

この研究のアプリケーション
宇宙全体での重元素生成の過程やメカニズムを理解するための一つの手がかりとして、今後の天文学や宇宙物理学の研究に役立つ可能性がある。


TMPRSS2は、人間のコロナウイルスHKU1の機能的な受容体である

コロナウイルスHKU1がTMPRSS2を受容体として使用し、この受容体を介して細胞融合と感染を引き起こすことが確認されました。

事前情報
世界中で循環している四つの人間のコロナウイルス(HKU1, 229E, NL63, OC43)は、細胞の受容体に結合した後、TMPRSS2やendosomal cathepsinsによって細胞融合の準備がされます。しかし、HKU1とOC43のたんぱく質受容体はまだ不明でした。

行ったこと
研究者たちはHKU1のスパイクタンパク質がTMPRSS2を受容体として使用することを確認しました。

検証方法
TMPRSS2を使用してHKU1スパイク媒介の細胞融合と擬似ウイルス感染を誘発し、TMPRSS2の相互作用を調べました。

分かったこと

TMPRSS2はHKU1のスパイクタンパク質の受容体として機能し、細胞融合と擬似ウイルス感染を誘発します。また、新しく設計されたanti-TMPRSS2ナノボディはHKU1のスパイクのTMPRSS2への結合や融合、擬似ウイルス感染を強力に阻害することが確認されました。

この研究の面白く独創的なところ
コロナウイルスHKU1の受容体がTMPRSS2であることを初めて明らかにしたこと、そしてこの知識を利用してウイルス感染を阻害する新しいナノボディを設計した点です。

この研究のアプリケーション
この研究の結果から開発された新しいナノボディは、HKU1ウイルスの感染を阻害する治療薬としての応用が期待されます。


400,000ピクセルを持つ超伝導ナノワイヤ単一光子カメラ


超伝導検出器は50年以上にわたり、様々なアプリケーションで非常に微弱な電磁信号を検出するための高感度と速度を提供してきました。しかし、これまでの最大のデモンストレーションは20,000ピクセルを超えることはありませんでした。この研究では、これまでの技術を大きく上回る400,000ピクセルの超伝導ナノワイヤ単一光子検出器カメラを報告しています。

事前情報
超伝導検出器は、非常に低い温度で動作し、余分なノイズをほとんど発生させないため、さまざまな科学的研究に適しています。しかしながら、大規模な超伝導カメラは存在しておらず、これまでの最大は20,000ピクセルでした。

行ったこと
超伝導ナノワイヤ単一光子検出器(SNSPDs)を使用して、400,000ピクセルのカメラを開発しました。

検証方法
4×2.5mmの領域に400,000ピクセルのSNSPDカメラを構築し、5×5-μmの解像度での性能を検証しました。

分かったこと
新しいカメラは、370nmおよび635nmの波長で量子効率が1となり、1.1×10^5 cpsのカウントレートを持ち、全体で0.13 cpsのダークカウントレートを示しました。

この研究の面白く独創的なところ
これまでの技術を大きく上回る400,000ピクセルという、大幅なピクセル数の増加を達成しました。これにより、より高解像度での画像取得が可能となります。

この研究のアプリケーション
新しいカメラは、宇宙の初期のマッピング、量子計算、通信など、電磁スペクトルの広い範囲でのほぼ100%の検出効率を持つ大型の超伝導カメラの道を開くものとなります。


全固体リチウムバッテリーのための界面設計

研究者たちは、全固体リチウムバッテリーの問題を解決するために、異なる界面の設計を行いました。これにより、バッテリーの性能と安全性が向上しています。

事前情報
全固体リチウム金属バッテリーは、低いスタック圧力での高エネルギー運転が難しく、リチウムアノードのリチウム樹状結晶成長とカソードの高界面抵抗が主な問題となっていました。

行ったこと
リチウム/Li6PS5Cl界面にMg16Bi84層を設計してリチウム樹状結晶の成長を抑制し、NMC811カソードにF豊富な界面を設計して界面抵抗を減少させました。

検証方法
リチウムのメッキ-ストリッピングサイクル中に、Mg16Bi84からMgがリチウムアノードへと移動し、それを用いてその変換効果を検証しました。

分かったこと
新しい界面設計により、リチウム金属バッテリーのエネルギー密度と充電能力が大幅に向上し、低いスタック圧力でも高い性能を維持することが可能になりました。

この研究の面白く独創的なところ
従来の問題点を克服するための独自の界面設計を行い、それによって全固体リチウム金属バッテリーの効率と安全性の大幅な向上を実現した点。

この研究のアプリケーション
この技術は、電気車両や携帯電子機器など、高性能なリチウムバッテリーを必要とする多くのアプリケーションでの使用が期待されます。


二重反芳香族炭素の表面上合成

この研究では、二重反芳香族性を持つ新しい炭素の形態、cyclo[16]carbonの合成とその特性を調査しました。この新しい炭素形態の電子構造や原子間の関係を調べるために、先進的な顕微鏡技術や量子計算を使用しました。

事前情報
これまでに、多くの炭素の同素体が合成され、技術や材料科学の分野で大きな進歩をもたらしてきました。特に、cyclo[N]carbonsはN個の炭素原子で構成される分子リングで、これまでにいくつかが報告されています。

行ったこと
研究チームは、双対反芳香族性を持つcyclo[16]carbonの合成に成功しました。これは、炭素の新しい形態として注目されるもので、先進的な技術を用いて詳細な特性評価を行いました。

検証方法
cyclo[16]carbonの特性を詳しく調べるために、原子間の関係を観察する原子間力顕微鏡や電子構造を解析する走査型トンネル顕微鏡を使用しました。また、量子計算も行い、理論と実験結果を照らし合わせました。

分かったこと
cyclo[16]carbonは双対反芳香族性を持つことが確認されました。これは、炭素の結合の長さが変動していることから明らかで、理論的な予測とも一致しています。

この研究の面白く独創的なところ
これまでの炭素の同素体とは異なる、双対反芳香族性を持つcyclo[16]carbonの合成と特性評価を行い、芳香族性の限界や特性を探求する新しいアプローチを示しました。

この研究のアプリケーション
cyclo[16]carbonはその高い反応性により、新しい炭素の同素体や先進的な材料の前駆体としての潜在的な応用が期待されます。


健康な胎児の脳の成熟と2歳時の適切な発展に関する時間的・空間的規範


研究チームは、健康な妊婦からのデータを基に、胎児の脳の発達をマッピングするデジタルアトラスを作成しました。このアトラスは、脳の成熟の標準を提供し、早期の発育と2歳時の神経発達を確認します。

事前情報
胎児の脳の発育は、出産後の機能に最適化するために正確なスケジュールに従う必要があります。しかし、健康な妊娠の場合、MRIでの長期追跡調査はほとんど行われていません。

行ったこと
健康な妊婦から取得した超音波のデータを元に、14週から31週の間の胎児の脳の発育をマッピングするデジタルアトラスを作成しました。

検証方法
899の胎児から取得した1,059の高品質な3D超音波脳画像を使用してアトラスを作成し、その結果を1,295の異なる胎児から取得した1,487の3D脳画像で検証しました。

分かったこと
胎児の脳は14週から非対称性が現れ始め、特に20週から26週の間に言語発達と機能的側化に関連する領域で非対称性がピークに達しました。このデータは、MRI画像と構造的に一致していることが確認されました。

この研究の面白く独創的なところ
この研究は、健康な胎児の脳の発達を詳細にマッピングするための大規模な国際的データセットを使用しています。これにより、健康な胎児の脳の発達の標準を提供しています。

この研究のアプリケーション
この研究の結果は、胎児の脳の発達のベンチマークとして役立ち、医師や研究者が正常な脳の発達を評価し、潜在的な問題を早期に特定するための基準として使用することができます。

最後に
本まとめは、フリーで公開されている範囲の情報のみで作成しております。また、理解が不十分な為、内容に不備がある場合もあります。その際は、リンクより本文をご確認することをお勧めいたします。