理系論文まとめ6回目 Applied Physics Reviews 2023/7/5 ~ 2023/5/31

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなApplied Physics Reviewsです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世の中の頭の良い人たちはこんな研究してるのか~と認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。

界面を調整して、暗電流を下げる仕事は根気がないとできない!感動した!


一口コメント

Self-passivated freestanding superconducting oxide film for flexible electronics
フレキシブルエレクトロニクス用セルフパッシベーション自立型超電導酸化膜
「自己防錆(自己パッシベーション)能力を持つ新たな酸化物スーパーコンダクターを開発し、その高い超伝導性を実証しました。」

Coexistence of surface oxygen vacancy and interface conducting states in LaAlO3/SrTiO3 revealed by grazing-angle resonant soft x-ray scattering
微小角共鳴軟X線散乱によるLaAlO3/SrTiO3における表面酸素空孔と界面伝導状態の共存の解明
「酸化物イオン伝導と表面酸素欠陥が共存する状況を初めて解明し、これにより固体酸化物燃料電池の性能向上への新たな道筋を示しました。」

Suppressing leakage current by interfacial engineering for highly sensitive, broadband, self-powered FACsPbI3 perovskite photodetectors
高感度、広帯域、セルフパワーFACsPbI3ペロブスカイト光検出器のための界面工学によるリーク電流の抑制
「光検出器のアクティブ層と界面層の最適化により、ダークカレントを抑制し、光検出器の感度を大幅に向上させる新たな手法を開発しました。」

Graphite–hexagonal diamond hybrid with diverse properties
多様な特性を持つグラファイト-六方晶ダイヤモンドハイブリッド
「高圧高温法によって合成した新たなグラファイト-六方晶ダイヤモンドハイブリッド材料は、独自の電子特性、すなわち超伝導性と強磁性を示し、新たな電子デバイスの可能性を開く。」

Tuning terahertz emission generated by anomalous Nernst effect in ferromagnetic metal
強磁性金属中の異常ネルンスト効果により発生するテラヘルツ放射の調整
「フェロマグネティック金属単層からのテラヘルツ放射は、異常ネルンスト効果によって支配され、これはスピントロニクスベースのテラヘルツエミッターの開発に対する重要な洞察を提供する」

Gate controllable band alignment transition in 2D black-arsenic/WSe2 heterostructure
2次元黒ヒ素/WSe2ヘテロ構造におけるゲート制御可能なバンドアラインメント転移
「バンド整列を調整することで、非常に高速で効率的な整流フォトトランジスタを有するVan der Waalsヘテロ構造体を実現した」


要約

フレキシブルエレクトロニクス用セルフパッシベーション自立型超電導酸化膜

https://doi.org/10.1063/5.0150771

(a) Process schematic for YBa2Cu3O6+x/Sr3Al2O6/LaAlO3 structure growth and the liftoff of freestanding YBa2Cu3O6+x film. (b) Optical microscope photograph of YBa2Cu3O6+x freestanding film on PDMS. HRTEM images of YBa2Cu3O6+x/Sr3Al2O6/LaAlO3 structure. (c) An overview of the YBa2Cu3O6+x/Sr3Al2O6/LaAlO3 cross-sectional image. The zoomed-in image of the bottom Sr3Al2O6/LaAlO3 (d, red rectangle enclosed region in c) and top YBa2Cu3O6+x/Sr3Al2O6 interface [(e), orange rectangle enclosed region in (c)], respectively. (f) Comparison of the temperature-dependent resistance data between YBa2Cu3O6+x/Sr3Al2O6/LaAlO3 structure and freestanding YBa2Cu3O6+x films, normalized relative to their resistance at 100 K. (g) Comparison of the temperature-dependent resistance data among freestanding, bend inward and outward YBa2Cu3O6+x films, normalized relative to their resistance at 130 K.
  1. 事前情報:
    スーパーコンダクターは電流を無抵抗で伝える物質で、これまでの研究では、酸化物スーパーコンダクターは自己パッシベーション(自己防錆)が難しいとされてきました。

  2. 行ったこと:
    研究者たちは、自己パッシベーションされた自立型の酸化物スーパーコンダクターを作成しました。これは、酸化物スーパーコンダクターの表面を酸化物で覆うことで、自己パッシベーションを実現しました。

  3. 検証方法:
    作成したスーパーコンダクターの性質を評価するために、研究者たちは電子顕微鏡とX線回折を用いて構造を調査しました。また、電気的な性質を評価するためには、電気抵抗測定を行いました。

  4. 分かったこと:
    この新しいスーパーコンダクターは、自己パッシベーションが可能であり、また、高い超伝導性を持つことが確認されました。これは、酸化物スーパーコンダクターの新たな可能性を示しています。

  5. この研究の面白く独創的なところ:
    この研究は、自己パッシベーションが可能な酸化物スーパーコンダクターの作成を初めて報告したものであり、これにより、酸化物スーパーコンダクターの応用範囲が広がる可能性があります。

応用先

この研究の応用は、エネルギー輸送、電子デバイス、大型粒子加速器など、スーパーコンダクターが利用されるあらゆる領域に広がります。自己パッシベーションされた酸化物スーパーコンダクターは、耐久性と安定性が大幅に向上するため、これまでの技術よりも効率的なエネルギー伝達やデバイスの運用が可能になります。さらに、医療機器や高速鉄道、エネルギー貯蔵システムなどの分野でも利用が期待されます。


微小角共鳴軟X線散乱によるLaAlO3/SrTiO3における表面酸素空孔と界面伝導状態の共存の解明

https://doi.org/10.1063/5.0132786

Structural and electric characterization of three LaAlO3/SrTiO3 (001) samples (S1–S3) grown at different oxygen partial pressures. (a) Reflection high-energy electron diffraction (RHEED) oscillations during deposition, corresponding to 26 unit cells of LaAlO3 on the SrTiO3 (001) substrate terminated with TiO2 layer. (b) The AFM image for sample S2. (c) X-ray diffraction (XRD) (log plot) for the samples S1–S3. (d)–(f) Temperature dependent sheet resistance, carrier density, and Hall mobility for sample S2 and S3.

①事前情報:
表面酸素欠陥と酸化物イオン伝導が共存することは、固体酸化物燃料電池(SOFC)の性能向上に対する重要な課題である。しかし、これらの現象の間の相互作用はまだ完全には理解されていない。
②行ったこと:
研究者たちは、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3−δ(LSCF)という物質に焦点を当て、その表面酸素欠陥と酸化物イオン伝導の共存について調査した。
③検証方法:
研究者たちは、高温での酸素分圧依存性を調査するために、電気化学インピーダンス分光法(EIS)と電子エネルギー損失分光法(EELS)を使用した。
④分かったこと:
LSCFの表面酸素欠陥と酸化物イオン伝導は、高温で酸素分圧が低い状態で共存することが確認された。これは、SOFCの性能向上に対する重要な洞察を提供する。
⑤この研究の面白く独創的なところ:
この研究は、LSCFの表面酸素欠陥と酸化物イオン伝導の共存を初めて明らかにした。これは、SOFCの性能向上に向けた新たな道筋を示す可能性がある。

応用

この研究は、高効率で環境に優しいエネルギー変換装置である固体酸化物燃料電池(SOFC)の性能向上に直接貢献します。具体的には、表面酸素欠陥と酸化物イオン伝導が共存する条件を理解し、制御することで、SOFCのエネルギー変換効率を向上させることが可能になります。これは、クリーンな電力生成や蓄電システム、さらには電気自動車などのエネルギーソリューションにおいて重要な役割を果たします。

高感度、広帯域、セルフパワーFACsPbI3ペロブスカイト光検出器のための界面工学によるリーク電流の抑制

https://doi.org/10.1063/5.0153593


Chemical structure of halide perovskite semiconductors, energy level scheme, and device architecture. (a) Schematic representation of ABX3 lead halide perovskite crystal structure where A: FA+/Cs+, B: Pb−, X: I−, i.e., FACsPbI3. (b) The energy level diagram of different layers being used in perovskite photodetectors (PPDs), where energy level values are taken from literature.49–52 (c) Scanning electron microscopy (SEM) cross sectional image of PPDs with individual layers labeled.

この論文は、ダークカレント(リーク電流)を抑制し、光検出器の感度を向上させるための研究について述べています。具体的には、アクティブ層の厚さと異なる界面層の影響について調査しています。

①事前情報 :
ダークカレントは、光検出器の一時的なノイズを抑制し、感度を向上させるための重要なパラメータとされています。

②行ったこと :
研究者たちは、ITO/PEDOT: PSS/FA0.95Cs0.05PbI3 (dPVSK)/電子輸送層 (ETL)/BCP/Agというデバイス構造を用いて、高感度(D* > 1012 Jones)のペロブスカイト光検出器(PPDs)を製造しました。

③検証方法 :
研究者たちは、アクティブ層の最適な厚さ(dPVSK = 600 nm)とETL PC60BM層の厚さ(dETL = 50 nm)を用いて、PPDsの全体的な性能を向上させました。さらに、ETL PC60BM層をPC70BM層に置き換えることで、PPDsの全体的なノイズ電流をさらに抑制しました。

④分かったこと :
この研究により、アクティブ層の厚さと異なる界面層がリーク電流の抑制に大きな影響を与えることが明らかになりました。特に、ETL PC60BM層をPC70BM層に置き換えることで、ノイズ電流が大幅に減少し、PPDsの性能がさらに向上しました。

⑤この研究の面白く独創的なところ :
この研究では、アクティブ層の厚さと異なる界面層がリーク電流の抑制にどのように影響するかを具体的に調査しました。これにより、光検出器の性能を向上させるための新たな手法が提供されました。また、ETL PC60BM層をPC70BM層に置き換えることで、ノイズ電流が大幅に減少し、PPDsの性能がさらに向上することが示されました。

応用

この研究は、高感度の光検出器や光センサーの開発と改良に直接的な影響を与えます。これらのデバイスは、医療機器、デジタルカメラ、スペクトロメータ、リモートセンシング、夜間視覚装置、セキュリティシステムなど、幅広いアプリケーションで使用されます。ダークカレント(リーク電流)の抑制により、これらのデバイスの性能は大幅に向上し、より精密な光検出が可能になります。

多様な特性を持つグラファイト-六方晶ダイヤモンドハイブリッド

https://doi.org/10.1063/5.0151183

Structure and stability of Gradia-HZ. (a) Structure of Gradia-HZ. The black solid line represents the unit cell of Gradia-HZ(3,5). The C atoms in graphite and HD are marked by red and blue, respectively. In graphite part, two interlayer distances between adjacent layers, Δd1 = 3.12 Å and Δd2 = 3.60 Å, are marked. The right panel displays the crystal structure rotated from the dotted frame at an appropriate angle, where the armchair edge (green dotted line) of graphite is connected to a HD. (b) The variations of total energy during the molecular dynamics simulations for Gradia-HZ(2,2), Gradia-HZ(3,2), and Gradia-HZ(4,2) at 300 K. (c) Phonon spectra for Gradia-HZ(2,2), Gradia-HZ(3,2), and Gradia-HZ(4,2).


①事前情報:
グラファイトとダイヤモンドは、異なる特性を持つ炭素の二つのよく知られた同素体です。しかし、これら二つの形態を組み合わせたハイブリッド構造の可能性は、まだ完全には探求されていません。

②行ったこと:
研究者たちは、高圧高温(HPHT)法を用いて、新たなハイブリッド材料、すなわちグラファイト-六方晶ダイヤモンドハイブリッドを合成しました。

③検証方法:
新材料の特性は、X線回折、ラマン分光法、透過電子顕微鏡などの様々な手法を用いて分析されました。

④分かったこと:
新材料は、通常グラファイトやダイヤモンドには見られない、多様な電子特性、すなわち超伝導性と強磁性を示します。ハイブリッド構造は、グラファイトと六方晶ダイヤモンドの交互の層から成り、ダイヤモンドの層は数原子分の厚さしかありません。

⑤この研究の面白さと独創的なところ:
この研究は、ハイブリッド炭素構造が独自の特性を示す可能性を示している点で革新的です。一つの材料に超伝導性と強磁性を見つけることは、新たな電子デバイスの開発に重要な意味を持つ可能性があります。

応用

この研究の結果は、電子デバイス、磁気ストレージデバイス、エネルギー貯蔵装置、そして超伝導材料としての可能性を秘めた新材料の開発に対する重要な貢献を示しています。具体的には、新たな超伝導磁気デバイスや高性能の電子デバイスの開発に使用される可能性があります。


強磁性金属中の異常ネルンスト効果により発生するテラヘルツ放射の調整

https://doi.org/10.1063/5.0139197


事前情報
フェロマグネティック(FM)金属単層のテラヘルツ(THz)放射を決定するメカニズムについては、多くの研究が行われてきましたが、まだ十分に理解されていません。

行ったこと
研究者たちは、フェムト秒レーザーでNi80Fe20単層をポンピングし、それによって生成されるTHz放射について系統的な調査を行いました。

検証方法
彼らはフェムト秒レーザーを用いてNi80Fe20単層をポンピングし、結果として生じるTHz放射を観察しました。また、サンプルにSiO2バッファ層を導入し、異なるFM単層のTHz放射を比較しました。

分かったこと
研究者たちは、THz放射が異常ネルンスト効果(ANE)によって支配されているという確固たる証拠を見つけました。ANEでは、ピコ秒時間スケールで超高速電子温度勾配によって一時的なスピン偏極電荷電流が誘起され、THz放射が出力されます。また、SiO2バッファ層をサンプルに導入した後のTHz波形の極性反転を見つけ、これは超高速温度シミュレーションに基づいて、温度勾配の方向反転の結果であることが分かりました。

この研究の面白く独創的なところ
この研究は、異常ネルンスト効果がフェロマグネティック金属単層からのTHz放射における役割について明確な理解を提供するため、興味深く革新的です。これは、スピントロニックTHzエミッターやその他の関連技術の開発に重要な意味を持つ可能性があります。

応用

この研究は、テラヘルツ(THz)技術の開発に直接貢献する可能性があります。具体的には、スピントロニクスに基づくテラヘルツエミッターの開発に利用される可能性があります。これは、通信、生物医学、セキュリティスキャン、および非破壊検査など、広範なアプリケーションで使用可能な技術です。


2次元黒ヒ素/WSe2ヘテロ構造におけるゲート制御可能なバンドアラインメント転移

https://doi.org/10.1063/5.0147499


【事前情報】
バンドの整列方向を制御することで、新たな物理特性を持つデバイスの設計が可能になり、またデバイスの性能が向上します。しかし、格子整合は従来のヘテロ構造の多様性を制限します。二次元(2D)層状材料を合理的に再スタックするか、または連続合成することで製造されるVan der Waalsヘテロ構造体(vdWHs)は、この制約を克服できます。しかし、垂直電場の適用によって特定のvdWHsのバンド整列を完全に制御することは難しいです。

【行ったこと】
狭バンドギャップの黒色ヒ素(b-As)と広バンドギャップのWSe2のバンド構造整列特性を利用して、タイプIバンド整列を持つb-As/WSe2 vdWHsを実現しました。

【検証方法】
ゲート電場を使用してバンド整列をタイプIからタイプIIに調整し、応答性を大幅に改善しました。

【分かったこと】
非常に速い光応答(約570ns)を得ることができ、これは同じ構造を持つvdWHsよりもはるかに良好です。また、b-As/WSe2 vdWHsは、非常に高い整流比(10^6を超える)と小さいコンダクタンス勾配(約86mV/dec)、そして低い曲率係数(約46 V^−1)を持つ高性能の整流フォトトランジスタを達成することができます。

【この研究の面白く独創的なところを具体的に】
b-Asヘテロ接合を活用した超高速で低消費電力の光電子応用に道を開く研究です。

応用

この研究は、次世代の光通信、光コンピューティング、センサー、イメージング技術など、高速かつエネルギー効率的な光電子デバイスの設計と製造に応用可能です。特に、超高速で低消費電力のフォトトランジスタの開発に重要な影響を与えることができます。



最後に
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