見出し画像

論文まとめ122回目 Nature(科学) 2023/10/4~

  1. 新しいがん免疫療法のための酵素阻害剤の発見

  2. 希少変異と血漿タンパク質の関連性の解明

  3. コロナウイルスのスパイクタンパク質がどのようにして開くのかのメカニズムの解明

  4. 昆虫の飛行モードの進化とそのメカニズムの解明

  5. 世界の両生類の危機

  6. 量子電磁力学の厳格なテスト

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなNatureです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

The PTPN2/PTPN1 inhibitor ABBV-CLS-484 unleashes potent anti-tumour immunityPTPN2/PTPN1
阻害剤ABBV-CLS-484が強力な抗腫瘍免疫を引き起こす
「がん治療の新しいアプローチとして、体内の免疫システムを活性化させてがん細胞を攻撃する方法が研究されています。この研究では、がん治療に有望な新しい薬物を発見し、その効果を実験的に確認しました。」

Rare variant associations with plasma protein levels in the UK Biobank
UKバイオバンクにおける血漿タンパク質レベルと希少変異の関連性
「私たちの血液中のタンパク質は、健康状態や病気のリスクを示す指標となることがあります。この研究では、これらのタンパク質の量に影響を与える希少な遺伝子変異を特定し、それがどのように健康や病気に関連しているかを探求しました。」

Sialoglycan binding triggers spike opening in a human coronavirus
ヒトコロナウイルスにおけるシアログリカン結合によるスパイクの開放
「コロナウイルスが私たちの体内に侵入するためには、ウイルスの表面にある「スパイク」と呼ばれる部分が細胞にくっつく必要があります。この研究では、そのスパイクがどのように「開いて」細胞にくっつくのか、そのメカニズムを詳しく調べました。」

Bridging two insect flight modes in evolution, physiology and robophysics
進化、生理学、ロボフィジックスにおける2つの昆虫飛行モードの橋渡し
「昆虫が飛ぶためには、翼を動かす筋肉が必要です。しかし、昆虫には2つの異なる飛行モードがあり、それぞれのモードで筋肉が動く仕組みが異なります。この研究では、これらの飛行モードがどのように進化し、どのように機能するのかを詳しく調査しました。」

Ongoing declines for the world’s amphibians in the face of emerging threats
新たな脅威の中での世界の両生類の継続的な減少
「両生類は、カエルやサンショウウオなど、私たちがよく知っている生物を含むグループです。しかし、これらの生物は絶滅の危機に瀕しており、その原因や背景を理解することが非常に重要です。この研究は、両生類の絶滅リスクを詳しく調査し、その原因や今後の予測を明らかにしています。」

Stringent test of QED with hydrogen-like tin
水素様スズを用いたQEDの厳格なテスト
「量子電磁力学(QED)は、電荷と電磁場の間の相互作用を説明する理論です。この研究では、特定のイオンを使用してQEDの正確さをテストし、その結果を理論的予測と比較しました。」


要約

PTPN2/PTPN1阻害剤ABBV-CLS-484が強力な抗腫瘍免疫を引き起こす

新しい薬物ABBV-CLS-484は、がん治療における免疫応答を強化するための酵素阻害剤として発見されました。この薬物は、がん細胞や免疫細胞の中での特定の酵素の活動を阻害することで、がんに対する体の免疫反応を強化します。
事前情報
免疫チェックポイント阻害は、一部のがん患者に効果的ですが、多くの患者は現在の免疫療法に耐性を持っています。新しい治療法のアプローチが必要です。

行ったこと
新しい薬物ABBV-CLS-484の発見とその特性の評価を行いました。この薬物は、PTPN2とPTPN1という酵素の活性部位を阻害するものです。

検証方法
ABBV-CLS-484の効果を、細胞内での反応の増幅、さまざまな免疫細胞の活性化と機能、およびマウスのがんモデルにおける抗腫瘍免疫の生成に関して評価しました。

分かったこと
ABBV-CLS-484は、免疫細胞の活性化と機能を増強し、PD-1ブロックに耐性を持つマウスのがんモデルで強力な抗腫瘍免疫を生成します。この薬物は、腫瘍の微環境を炎症させ、JAK-STATシグナリングを強化することで、免疫細胞の機能を向上させます。

この研究の面白く独創的なところ
これまで「ドラッグ化が難しい」とされていた酵素の活性部位をターゲットとした新しい薬物を発見し、がん免疫療法におけるその有効性を示しました。
この研究のアプリケーション
この研究で発見された薬物は、がん免疫療法の新しいアプローチとして、進行した固形腫瘍を持つ患者での臨床試験が進行中です。



UKバイオバンクにおける血漿タンパク質レベルと希少変異の関連性

https://www.astrazeneca.com/media-centre/press-releases/2023/astrazeneca-research-reveals-unique-associations-between-rare-changes-in-genes-and-plasma-proteins-that-could-improve-drug-discovery.html

UKバイオバンクの参加者からのデータを使用して、希少な遺伝子変異が血漿中のタンパク質の量にどのように影響するかを調査しました。この研究は、希少変異がタンパク質の量に大きな影響を与えること、およびこれらの変異が病気のリスクや治療のターゲットとしての価値を持つ可能性があることを示しています。

事前情報
人間のゲノムとタンパク質の研究の統合は、病気のメカニズムの解明や治療のターゲットの発見に役立ちます。しかし、これまでの研究は一般的な変異に焦点を当てていたため、希少変異の影響はあまり知られていませんでした。

行ったこと
49,736人のUKバイオバンク参加者のエクソームシーケンスデータと2,923種類の血漿タンパク質のレベルを分析しました。

検証方法
変異レベルと遺伝子レベルの関連テストを使用して、アレル頻度スペクトル全体でpQTLをマッピングしました。

分かったこと
希少な遺伝子変異は血漿タンパク質の量に大きな影響を与えます。STAB1とSTAB2という遺伝子は、多くのタンパク質と関連していることが判明しました。また、TET2-CHという変異とFLT3タンパク質のレベルの増加との関連も明らかにされました。

この研究の面白く独創的なところ
これまでの研究ではあまり注目されてこなかった希少変異の影響を大規模なサンプルで詳細に調査し、その結果を公開リソースとして提供しています。

この研究のアプリケーション
この研究の結果は、病気の早期診断や治療のターゲットの発見、さらには新しい治療法の開発に役立つ可能性があります。



ヒトコロナウイルスにおけるシアログリカン結合によるスパイクの開放

コロナウイルスのスパイクタンパク質は、ウイルスが宿主の細胞に侵入する際のキーとなる部分です。この研究では、特定の受容体と結合することでスパイクタンパク質がどのように構造を変えるのかを詳しく調査しました。

事前情報
コロナウイルスのスパイクタンパク質は、ウイルスが宿主の細胞に侵入するための主要な部分であり、これを標的とする中和抗体のターゲットとなります。これまでの研究では、スパイクタンパク質の開閉のメカニズムが完全には解明されていませんでした。

行ったこと
コロナウイルスHKU1のスパイクタンパク質が、シアログリカンという特定の受容体と結合した際の構造変化を詳しく調査しました。

検証方法
低温電子顕微鏡と分子動力学シミュレーションを使用して、スパイクタンパク質の構造変化を詳しく観察しました。

分かったこと
シアログリカンという受容体と結合することで、スパイクタンパク質は特定の部分が開く構造変化を起こします。この変化は、他の部分との相互作用によって引き起こされるもので、ウイルスが宿主の細胞に侵入するための準備として行われることが示唆されました。

この研究の面白く独創的なところ
これまでの研究では観察されていなかった、特定の受容体との結合によるスパイクタンパク質の詳細な構造変化を明らかにしました。

この研究のアプリケーション
この研究の知見は、コロナウイルスの感染メカニズムの理解を深めるだけでなく、新しい治療法やワクチンの開発にも役立つ可能性があります。



進化、生理学、ロボフィジックスにおける2つの昆虫飛行モードの橋渡し

昆虫の飛行モードの進化とその生理学的・物理学的メカニズムを調査し、2つの異なる飛行モードが同じ動的な原理に基づいていることを明らかにしました。

事前情報
昆虫は飛行の進化の中で、2つの異なる飛行モードを繰り返し遷移してきました。一部の昆虫は、各翼打ちごとに筋肉を神経的に活性化するのに対し、多くの昆虫は神経活性化と非同期の飛行筋肉を進化させました。

行ったこと
昆虫の飛行モードの進化を調査し、2つの飛行モードがどのように進化し、どのように機能するのかを詳しく調査しました。

検証方法
昆虫の系統樹と昆虫の翼の力学モデルを用いて、飛行モードの進化とその動的なメカニズムを再評価しました。

分かったこと
非同期の筋肉活動を持つ昆虫は同期的な先祖から進化したが、これら2つの飛行モードは多くの遷移を経ても異なる戦略として広く考えられてきました。しかし、新しい昆虫の系統樹と昆虫の翼の力学モデルを使用することで、これらの飛行モードが同じ動的原理に基づいていることが明らかになりました。

この研究の面白く独創的なところ
昆虫の2つの異なる飛行モードが、実際には同じ動的原理に基づいていることを初めて明らかにしました。

この研究のアプリケーション
この研究の知見は、昆虫の飛行メカニズムの理解を深めるだけでなく、昆虫の飛行を模倣したロボット技術の開発にも役立つ可能性があります。



新たな脅威の中での世界の両生類の継続的な減少

世界の両生類の絶滅リスクを評価し、40.7%の種が絶滅の危機に瀕していることを明らかにしました。特にサンショウウオや新熱帯地域の両生類が危機的な状況にあり、気候変動や生息地の喪失が主な原因として挙げられています。

事前情報
2004年のグローバル両生類評価では、両生類が最も絶滅の危機に瀕している脊椎動物クラスであることが示されました。主な脅威として、生息地の喪失や劣化、過剰な採取が挙げられていました。

行ったこと
8,011種の両生類の絶滅リスクを再評価し、その結果を報告しました。

検証方法
IUCNの絶滅危惧種リストを使用して、両生類の絶滅リスクを評価しました。また、新たに記載された種や、以前の評価からの変更を考慮して、絶滅リスクのトレンドを分析しました。

分かったこと
両生類は、脊椎動物の中で最も絶滅の危機に瀕しているクラスであり、特にサンショウウオや新熱帯地域の両生類が危機的な状況にあります。気候変動や生息地の喪失が主な原因として挙げられています。

この研究の面白く独創的なところ
2004年の評価から大幅に増加した両生類の種数を考慮し、新たな脅威や背景を詳しく調査した点が挙げられます。

この研究のアプリケーション
この研究の結果は、両生類の保護活動や政策策定のための重要な情報として活用されることが期待されます。


水素様スズを用いたQEDの厳格なテスト

水素様の118Sn49+イオンを使用して、量子電磁力学(QED)の厳格なテストを行いました。このテストは、高い電場強度でのQEDの有効性を評価するもので、その結果は理論的予測と一致しています。

事前情報
QEDは、電荷と電磁場の間の相互作用を説明する理論であり、これまでに多くの実験でテストされてきました。しかし、高い電場強度でのテストは限られています。

行ったこと
水素様の118Sn49+イオンのg因子を高精度で測定し、その結果を理論的予測と比較しました。

検証方法
Heidelberg電子ビームイオントラップ(EBIT)を使用して高い電荷状態のイオンを生成し、ALPHATRAP Penningトラップセットアップでこれらのイオンを捕捉してg因子を測定しました。

分かったこと
水素様の118Sn49+イオンのg因子を高精度で測定することができ、その結果は理論的予測と一致しています。これにより、QEDの厳格なテストが行われました。

この研究の面白く独創的なところ
これまでのQEDのテストと比較して、非常に高い電場強度でのテストを行い、その結果を理論的予測と比較することができた点が挙げられます。

この研究のアプリケーション
この研究の結果は、量子電磁力学の理論的予測の正確さを確認するための基準として使用されることが期待されます。


最後に
本まとめは、フリーで公開されている範囲の情報のみで作成しております。また、理解が不十分な為、内容に不備がある場合もあります。その際は、リンクより本文をご確認することをお勧めいたします。