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論文まとめ135回目 Nature 2023/10/18~

  1. 英国の病院でのSARS-CoV-2の伝播の規模と影響を明らかにする。

  2. 新しい化学的相互作用を利用して、高効率・高安定のペロブスカイト太陽電池を開発

  3. 新しい抗ウイルスシグナル「SAM-AMP」の発見とそのCRISPRシステムにおける役割の解明

  4. 量子コンピュータ上でのノイズの影響を考慮した量子情報のテレポーテーションとエンタングルメントの実験的検証

  5. 新型ウイルス治療で脳腫瘍の治療効果を向上

  6. 前立腺がんの治療抵抗性を逆転させるための新しいアプローチ

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなNatureです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

The burden and dynamics of hospital-acquired SARS-CoV-2 in England 英国の病院で取得したSARS-CoV-2の負担と動態
「病院内でのコロナウイルスの伝播は、コミュニティ全体の感染拡大に大きな影響を与える可能性がある。」

Anion–π interactions suppress phase impurities in FAPbI3 solar cells
アニオン-π相互作用によるFAPbI3太陽電池の相不純物の抑制
「「食材の組み合わせを工夫することで、よりおいしい料理を作る」のように、特定の化学的相互作用を利用して、より効率的な太陽電池を作成しました。」

Antiviral type III CRISPR signalling via conjugation of ATP and SAM
ATPとSAMの結合を介した抗ウイルス型III CRISPRシグナリング
「体内の警察(CRISPR)が新しい通信手段(SAM-AMP)を使って、侵入者(ウイルス)を検出し、排除する方法を発見しました。」

Measurement-induced entanglement and teleportation on a noisy quantum processor
ノイジーな量子プロセッサ上での測定誘起エンタングルメントとテレポーテーション
「量子コンピュータ上で、ノイズの中でも特定の量子情報を「テレポート」することができるかを実験的に調べました。結果、ノイズがあっても情報のテレポートは可能で、しかもその方法を使うと、量子コンピュータの限界を知る手助けになることがわかりました。」

Clinical trial links oncolytic immunoactivation to survival in glioblastoma
新型ウイルス治療が脳腫瘍の生存率向上と関連
「脳腫瘍の治療に、特定のウイルスを使って免疫反応を活性化させ、腫瘍を攻撃させる新しいアプローチが試みられました。」

Targeting myeloid chemotaxis to reverse prostate cancer therapy resistance

前立腺がんの治療抵抗性を逆転させるための骨髄性細胞の化学誘導の標的化
「前立腺がんの治療に抵抗性を持つ患者に対して、特定の細胞の動きを阻止することで、治療の効果を向上させる新しい方法が試みられました。」


要約

英国の病院で取得したSARS-CoV-2の負担と動態

英国の病院でのSARS-CoV-2の伝播の規模と影響を調査。2020年6月から2021年3月の間に95,000から167,000の患者が病院でSARS-CoV-2を取得したと推定されている。

事前情報
MERS-CoVやSARS-CoVの流行時に病院ベースの伝播が主要な役割を果たしたが、SARS-CoV-2に関しては大規模な研究が不足している。

行ったこと
英国の急性病院のデータを使用して、病院内伝播の量、伝播の可能性のある経路、伝播リスクを高める要因を評価し、そのダイナミクスの広がりを調査。

検証方法
145の英国国民保健サービス(NHS)急性病院信託からのデータを使用し、PCR確認感染の発症日と入院日との間隔に基づいてSARS-CoV-2感染の可能性のある源を分類。

分かったこと
病院内でのSARS-CoV-2の伝播は、コミュニティ全体の感染拡大に大きな影響を与える可能性がある。特に、病院の特性や施設の設計が伝播リスクに関連していることが示された。

この研究の面白く独創的なところ
病院とコミュニティのダイナミクスを結びつけるモデルを使用して、病院内の伝播がコミュニティのロックダウン措置の効果にどのように影響するかを探る。

この研究のアプリケーション
病院の感染制御策のターゲティングに直接的な影響を与え、将来の高リスク病原体の伝播を制限するためにより適切に設計された病院の必要性を強調。


アニオン-π相互作用によるFAPbI3太陽電池の相不純物の抑制

ペロブスカイト太陽電池の商業化の鍵は、高効率と長期安定性の両方を達成することです。この研究では、アニオン-π相互作用を利用して、ペロブスカイト前駆体の化学的相互作用の範囲を拡大し、高品質で相純度の高い光電変換デバイスを改善する新しい方法を示しています。

事前情報
ペロブスカイト太陽電池は高効率であるが、多様な組成と相のために高品質のフィルムの製造が難しい。

行ったこと
AXとhexafluorobenzene (HFB)の間のアニオン-π相互作用を利用して、反応速度を調節する新しい方法を示しました。

検証方法
この方法を使用して作成されたformamidinium lead halides (FAPbI3)フィルムの欠陥、吸収、相純度を評価し、太陽電池の電力変換効率を測定しました。

分かったこと
アニオン-π相互作用を利用することで、FAPbI3フィルムはより少ない欠陥、赤方偏移した吸収、そして検出可能なナノスケールのδ相なしの高い相純度を示しました。この結果、0.08-cm2デバイスの電力変換効率が26.07%、1-cm2デバイスの効率が24.63%に達しました。

この研究の面白く独創的なところ
従来の方法とは異なり、アニオン-π相互作用を利用してペロブスカイトの反応速度を調節する新しいアプローチを提案しました。これにより、高効率で高純度のペロブスカイト太陽電池を製造することが可能となりました。

この研究のアプリケーション
この研究の方法は、高効率で長期安定性のあるペロブスカイト太陽電池の商業化に向けた大きな一歩となる可能性があります。


ATPとSAMの結合を介した抗ウイルス型III CRISPRシグナリング

CRISPRシステムは細菌の遺伝的要素に対する適応的免疫を提供します。この研究では、Bacteroides fragilisの型III-B CRISPRシステムが、SAM-AMPという新しいセカンドメッセンジャーを生成することでウイルスに対する免疫を提供することを示しています。

事前情報
CRISPRは細菌の遺伝的要素に対する適応的免疫を提供するシステムであり、その中でも型III CRISPRシステムは特に注目されています。

行ったこと
Bacteroides fragilisの型III-B CRISPRシステムをEscherichia coliで発現させ、その機能と反応を詳細に調査しました。

検証方法
Bacteroides fragilisのCRISPRシステムをEscherichia coliで発現させ、SAM-AMPの生成とその効果を実験的に評価しました。

分かったこと
B. fragilisの型III-B CRISPRシステムは、SAM-AMPという新しいセカンドメッセンジャーを生成することで、細胞をウイルスから守ることができます。SAM-AMPは、細胞の膜の完全性を破壊することで細胞を休眠状態にするか、死滅させる可能性があります。

この研究の面白く独創的なところ
SAM-AMPという全く新しいセカンドメッセンジャーの発見と、それがCRISPRシステム内でどのように抗ウイルスシグナリングに機能するかの詳細な解明。

この研究のアプリケーション
この発見は、新しい抗ウイルス治療法や、特定の酵素を標的とする新しい薬物の開発に寄与する可能性があります。さらに、SAMとATPのアナログを利用して、新しい生物活性分子の家族を生成するための道を開く可能性があります。


ノイジーな量子プロセッサ上での測定誘起エンタングルメントとテレポーテーション

この研究では、ノイジーな中間規模の量子プロセッサ上での測定誘起の量子情報フェーズを実験的に検証しました。特に、ノイズの影響を受けやすい現在の量子プロセッサの限界を考慮しながら、最大70個の超伝導量子ビット上でのエンタングルメントとテレポーテーションを実現しました。

事前情報
量子測定は、量子波動関数を「崩壊」させることで、テレポーテーションなどの現象を可能にする特別な役割を持っています。しかし、現在の量子プロセッサでは、ハードウェアの制限や量子測定の確率的な性質のため、このような物理現象の実験的実現が難しいとされていました。

行ったこと
70個の超伝導量子ビットを使用して、量子情報のエンタングルメントとテレポーテーションを実験的に検証しました。特に、ノイズの影響を受けやすい現在の量子プロセッサの限界を考慮しながら、量子情報の異なるフェーズを実現しました。

検証方法
量子情報のエンタングルメントとテレポーテーションを実現するための実験的手法として、空間-時間の双対性マッピングを利用しました。これにより、中間の測定を避け、エンタングルメントのスケーリングから測定誘起のテレポーテーションまで、異なるフェーズの現象をアクセスしました。

分かったこと
量子情報のエンタングルメントとテレポーテーションは、ノイジーな量子プロセッサ上でも実現可能であることが確認されました。また、ノイズが量子情報フェーズの独立したプローブとして機能することが示され、現在のNISQプロセッサの限界を知る手助けになりました。

この研究の面白く独創的なところ
ノイズの中でも特定の量子情報を「テレポート」することができるという点が特に興味深い。また、この方法を使用することで、量子コンピュータの限界を知ることができるという点も独創的である。

この研究のアプリケーション
この研究の結果は、量子コンピュータの開発において、ノイズの影響を考慮しながら、より高度な量子情報処理を実現するための新しい手法やアプローチを提供する可能性があります。


新型ウイルス治療が脳腫瘍の生存率向上と関連

脳腫瘍の患者41人に対して新型のウイルス治療(CAN-3110)を行い、その効果と免疫応答の関連を調査した結果、特定のウイルスに対する抗体を持つ患者で治療効果が高まることが示されました。

事前情報
再発性の脳腫瘍(rGBM)は非常に治療が難しく、免疫療法の効果も限定的でした。これは、腫瘍の周囲の環境が免疫応答を抑制するためです。

行ったこと
41人の再発性脳腫瘍患者に対して、新型のウイルス治療(CAN-3110)を投与し、その効果や安全性、免疫応答の変化を詳細に調査しました。

検証方法
ウイルス治療後の生存率、ウイルスのクリアランス、腫瘍内のT細胞の変化、遺伝子発現の変化などを詳細に分析しました。

分かったこと
HSV1ウイルスに対する抗体を持つ患者で、ウイルス治療後の生存率が向上し、腫瘍内の免疫応答が活性化されることが確認されました。

この研究の面白く独創的なところ
従来の治療法では効果が限定的だった脳腫瘍に対して、新型のウイルスを使用して免疫応答を活性化させることで、治療効果を向上させる新しいアプローチを試みた点。

この研究のアプリケーション
この新型ウイルス治療は、再発性脳腫瘍だけでなく、他の免疫療法に応答しないがん治療にも応用可能であり、今後のがん治療の新たな選択肢となる可能性があります。


前立腺がんの治療抵抗性を逆転させるための骨髄性細胞の化学誘導の標的化

前立腺がんの治療抵抗性を持つ患者において、骨髄性細胞の動きを阻止することで、がんの進行を抑制し、治療の効果を向上させる新しいアプローチが試みられました。

事前情報
がんの進行には炎症が関与しており、特定の血液中の細胞の比率が患者の生存率や治療の効果に関連していることが知られていました。

行ったこと
前立腺がんの治療抵抗性を持つ患者に対して、骨髄性細胞の動きを阻止する薬物を投与し、その効果を評価しました。

検証方法
特定の薬物(AZD5069)と既存の前立腺がんの治療薬(enzalutamide)を組み合わせて投与し、治療の効果や安全性、細胞の変化を詳細に分析しました。

分かったこと
この新しいアプローチは、前立腺がんの治療抵抗性を持つ患者において、治療の効果を向上させることができました。特に、骨髄性細胞の動きを阻止することで、がんの進行を抑制し、治療の効果を向上させることが確認されました。

この研究の面白く独創的なところ
前立腺がんの治療に抵抗性を持つ患者に対して、従来の方法とは異なる新しいアプローチを試み、その効果を実際に確認した点。

この研究のアプリケーション
この新しいアプローチは、前立腺がんだけでなく、他のがんの治療にも応用可能であり、治療抵抗性を持つ患者の治療の新たな選択肢となる可能性があります。


最後に
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