AV鑑賞会 3話

 大学が始まったころは律儀に毎日学校に通い、毎日一生懸命に授業を受けていたのだが、1ヶ月も経つと学校をサボるのが当たり前になりつつあった。
「ああ暇やな」と彼があくびをしながら呟いた。「学校に行く?」「今日の授業出席とるけど」と僕もあくびをしながら答えた。彼のあくびがうつった。学校の授業は5回までの欠席が許されているのだが、僕らは5月が始まったばかりだというのにもうすでに2回も欠席していた。「まだいいや」と無気力な彼が答える。僕らは世間が言うところの五月病だったのだろう。「彼女欲しいなあ」とあぐらをかきながら彼は大きな伸びをした。そして急に立ち上がり、
「AV観よう」と僕を見下ろしながら言った。
「なんで?」僕は彼を見上げながら答える。
「AVって普通一人で見るものやん?」と彼は右口角を上げながら左に若干首を傾けてどや顔を作った。
「だから何だよ」僕は呆れた。午前十時というのに彼は何を言っているのだろうか。
 さっきまでのけだるい感じはどこにいった。首をかしげながら彼に目をやると
「これは新たな興奮を味わえるかもしれないな」とニヤニヤしながら彼はパジャマを脱いでいた。


 僕たちの住むアパートから徒歩5分程の距離にあるTSUTAYAのDVDコーナにはDVDのラベルを隠し、家族で見たい映画などと短いコピーのみが書かれているものもあり様々な工夫が施されていた。最近は動画配信サービスの影響でDVDを借りる人が減少しているというニュースを思い出す。
「今日はそっちじゃないだろう」と彼は両手を広げたマークに18歳未満立入禁止と書かれた暖簾の前に僕を連れ出した。
「東急ハンズのマークに似てない?」と僕が聞くと
「東急ハンズは手の甲やろ」と彼は東急ハンズのポーズを真似て言う。そして行きつけの定食屋に入るように暖簾をくぐった。


 暖簾の中は同系色のDVDが辺り一面に広がっており、暖簾の外と中ではまるで別世界だった。ところどころに小さなモニターがあり、サンプル動画が流れている。初めて入った僕にはあまりにも新鮮で立ちすくんでしまった。それに比べ彼は「東京はやっぱり品ぞろえがいいな」と次から次へとDVDを手に取り、物色している。
「なんかいいのあった?」と僕が横から声をかけると「お前は?」と逆に聞き返されてしまった。「ええ~、これかな?」と僕は近くにあった適当なDVDを手に取った。
“八十路で初撮り” やってしまった。
「お前・・・」彼は絶句した。
「いや、違う。たまたま手に取ったのがこれで」と僕は慌てて弁解する。
「人は見かけによらないもんだな」
「いや、本当に誤解だ。」
「お前の超えたハードル、俺には棒高跳びでも飛び越えれんわ」彼は軽蔑の目で静かに呟いた。そして、僕からそっと離れ、また一人で物色を始めた。


 八十路というと80歳だろう。このDVDはいったいどんな人が借りるのだろうか。やはり年を重ねるにつれ対象年齢も上がっていくのだろうか。性欲というのはいつまでもなくなることはないのか。現在、わが国は医療の発展などにより、人生100年時代と謳われている。となると九十路、百十路というDVDも発売される日が来るかもしれない。そのころにはVRで見るのが主流となっているのだろうか。
 “何考えているんだ俺・・・”と冷静になり、そっとDVDを棚に戻した。


「師匠、今日はこれで勘弁してください。」と彼が後ろから若い女優さんのDVDを申し訳なさそうに差し出した。
「この子はいくつだね?」と僕は冗談っぽく聞く。
「20歳です。」
「まあ、よかろう。」そして僕らはレジに向かった。
「ここは師匠が」と彼がDVDを渡してきたので僕が
「いや、ここは君が」と拒むと「チッ」と舌打ちをして
「お前の性癖バラしてやる。」と言いながら彼は足早にレジに並んだ。


 家につくなり彼は「ではでは」と言いながら早速DVDを再生した。机にはジンジャーエールとポップコーンが置いてある。彼はAVを何だと思っているのだろうか。
 AVはインタビューから始まった。「今回、どうして出演をOKしてくれたの?」「男性とするのが好きなんです。」と女優さんが恥じらいながら答えるのを彼はなるほどといった表情でしきりにうなずいている。そしていくつかの質問を終え、ついに絡みのシーンが始まった。僕らはそれを固唾をのんで見入った。次第に映像は過激になってきて僕はなんとなく恥ずかしくなり画面から目をそらしてしまっていた。すると彼がそんな僕を見て
「お前、股間でキャンプするなよ」とニヤニヤしながら言ってきた。
「は?どういうこと?」と僕が眉間にしわを寄せ聞くと、
「テント張ってんじゃねーよ」と彼は笑った。そんな彼の股間を見ると僕より立派なテントを張っていたため
「お前は家族でキャンプしてんのな」と笑った。画面の女優さんの声がさらに大きくなり、ピークに達した。そして幸せそうな顔でAVは終わった。すると彼も立ち上がり「さて、俺も満足しますか」と呟き、トイレに向かった。
「ちゃんとテントはたたんで来いよ」と僕が声をかけると
「最後はキャンプファイヤーや」と彼は背を向けたまま右手を挙げた。


意味が分からなかった。一人になると急に喪失感が押し寄せてきて僕は天井を見上げ「明日は学校に行こう・・・」と呟いていた。すると、カタカタカタとトイレットペーパーの音がなった。あまりにも早いキャンプファイヤーだった。「マッチでキャンプファイヤーしたんか」と言おうと彼が出てくるのを待ち構えていると、彼はトイレから出で来るなりものすごい低いトーンで
「明日は学校に行こうな」と言った。AVを二人で見ると学校に行きたくなるらしい。

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