【ダーリン(仮)闇堕ち防止計画】第17話

「きゅい、きゅい、きゅい」
「あら、お花ちゃん。お昼寝は終わったの?」

 さっきまで竜達が亜空間収納仕様にしている私の影の中で眠っていたお花ちゃん。スモールサイズでピョンと飛び出して、私の胸に飛び込んできたわ。

 はぁ〜、寝起きの甘えん坊さん……可愛いの権化か。 毎回、私の顔がデレデレ崩れちゃう。

「きゅぎゃ」
「ふふふ、そうね。今日は私のお兄様達の為に、お花ちゃんも協力してちょうだいね」
「きゅっぎゃ」

 胸を張るお花ちゃん。可愛らしさが暴力的。ノックダウンしそう。

 新たに考えた今回の余興は、クロちゃんだけの参加じゃないわ。お花ちゃんにも協力をお願いしているの。

 せっかくだもの。S級冒険者として、恥ずかしくない余興を披露してみせる!

 もちろんこの依頼の報酬は、ご祝儀に上乗せよ。家族を危険に晒さない為に籍を抜いたわ。けれど気持ちの上では私が愛してやまない家族だもの。

 籍を抜く時だって、先に伝えておいたわ。お父様とお兄様達には泣かれてしまったけれど。

 だから家族であるお兄様達の人生の門出となる、おめでたいイベントに報酬なんていらない。

 それより今日の結婚式にカインはいるかしら? いる……わよね?

 ここ五年、剣聖の噂は全然聞かない。冒険者として活動もしていないみたい。

 一応、私はカインの後見人。カインが冒険者活動していれば、私には連絡がくるはず。

 もしかして冒険者を辞めたの?

 それに……愛する誰かに出会って結ばれたかしら?

 もちろん頭ではわかっている。きっと……それならそれで、カインと彼の愛する誰かとの幸せを願うだろうなって。

 だってカインが安息の場所を築けたという事ですもの。

 だから五年間、私はカインへの想いを忘れようと努力したのよ。ダーリン(仮)とだって……思わないように……。

 色々な所に行って、心を無にしようとした。パーティーに紛れて、男性との出会いも求めてみた。例の王女に求婚して列をなす王子達を物色してみた事だってあった。

 けれど、どうしてもわすれられなくて……。長い、とってと長い初恋で、嫌になっちゃう。

 それでも彼を探して、想いをもう一度伝えようとまでは出来なかった。

 ただでさえ最後に話したあの時、私はカインダの家族への傷を抉ったわ。その上、これ以上ない直接的な手段で……彼の仲間を断罪したんだもの。

 当事者であるカインの意志を確認すらせず。その後、断罪した三人も、カインの異母兄達や生家が悲惨な末路を辿る事も予想していたのに……。

 カインは彼らの末路を知って胸を痛めたんじゃないかしら? 私を……恨んだかしら?

 しかも勝手にカインの後見人になったし。

 カインの前に私が現れたら、幸せになっていないまでも、きっと落ち着いているはずの心の傷を、また抉ったりしない?

「がうがうがう!」

 思考の迷路に陥りそうになった時、不意にクロちゃんが声を上げた。到着をお知らせしてくれたのね。

 通常サイズの時は、声が野太いわ。うちの竜達はそんな声すらも可愛らしい……好き。

 ここは私が前世で聖女をしていた時の、私の家族達が移り住んだ場所でもある。孤児だった私は孤児院の皆と寝食を共にする中で、家族になった彼らを心から愛していたわ。

 だから冤罪にかけられた私は、真っ先にクロちゃんにお願いした。家族ごと断罪しようとした、あの国の魔の手から逃がしてって。

「ガウガウガウッ」
「ええ、クロちゃん。あれがそうよ」

 上空を幾らか滑空すると視界が開けてきた。クロちゃんが昔、逃がしてくれた私の家族達孤児達の子孫に反応する。

 まず私の目に映ったのは誓いの言葉を終えたらしい、来賓にもみくちゃにされながら祝われている二組の新郎新婦。

「「ミルティア、お帰り!」」

 あら、ここまでお兄様達の声が届いた。風魔法を使って拡声したにしても、相変わらず声が大きいわ。元気そうで何よりね。

 それよりも、聞いていたのと少し違う?

 新郎新婦の家族とごく身近な親族しか参加しない、内々の結婚式じゃなかったの? 広場には、この領内の人達が勢ぞろいしているように見えるわ。

 しかも今日の主役達とその家族以外……武装している、わ、ねえ?

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