書籍化・WEB版【稀代の悪女、三度目の人生で……】(一章)34

「領主の協力を得るのに1番効果的だった事の1つは魔法師や魔法具師を目指す学生がした事かもしれないわ」
「孤児院に設置してある魔獣避けの魔法具への魔力補填作業と点検?」
「必要ならその修繕もよ」
「作った綿花畑にも設置してたよね」
「あら、忘れてたわ。あれから1年経過して結果的に綿花栽培は成功だったし、今では喜ばれているけれど、当初の綿花栽培で除塩化は懐疑的だったからそうでもなかったのよ。拒否的ではなかったし、疑いつつもそうなったらいいな、と生温かく見守る感じね」

 当時の領主達はかなり憔悴しながら日々の業務にあたっていたから、学生の取り組みどころではなかったのよね。

 この国の各領主には自治権が与えられているわ。申告する利益を元に計算された税金を国に納めていれば、利益は領主の物よ。もちろん領にどう還元するのか采配するのも領主の権限。

 だから逆にこういう災害が起きた時に国から大きく手厚い補償は受けられないの。何かしらの侵略があれば国も動くけれど、そうでないならいくらかの見舞金や税金の免除、数ヶ月だけ騎士や兵士を派遣して大きな治安の悪化や魔獣の出現を防いで貰える程度ね。

 魔獣は森や川、海なんかの自然が近いと定期的に間引きが必要になる。増えすぎると人里に入りこむの。

 特に災害の後は何故だか魔獣が増えやすくなるみたい。そこに何かしらの理由で領内の整備が滞ると魔獣が入りこむのも容易になるわ。魔獣避けの魔法具も壊れているのに気づかない事も増えるし。

 元々孤児院には必ず魔法具の配給と設置を義務づけているのよ。国法ね。けれど塩害地域は財政難でなかなか維持できないのが実情なの。

「魔力を補填するのってコツが必要で誰でもできるわけじゃないわ。一々お金取られるし。だけど学園には魔法師や魔法具師を目指す学生がいるからできる人も多いの」
「人材の有効利用?」
「という名のタダ働き要員よ。ふふふ、悪女らしいでしょう」
「……ノーコメント」

 あらあら? どうして呆れたお顔をされちゃうのかしら?

 これに関しても効率の良い方法を4年生の指導の下に行い、成長記録をつけるの。1年生は適性がありそうな孤児に教えるようにしていて、これにも記録を付けているわ。

 これももちろん奉仕活動の一環よ。

 それに孤児達に適正があれば、彼等の将来の仕事の幅も広がるもの。寂れた土地に嫌気がさして土地を離れる人も多いでしょうけどね。

 そうしない為の法整備や防災までは知らないわ。それは各領主のお仕事よ。

 とまあこれだけでも研究成果がなくても土地を貸す側にメリットができたんじゃないかしら。

 学生は全員学園に貢献する奉仕活動が記録できたし、4年生は下級生の育成成果を実績として残せもした。1年生は4年生を見て最終学年での研究の仕方も学べたわ。

 元経営コンサルタントが目指す、全員がウィン・ウィンの関係ね。

 でもここで1つ見落としてはいけないのは、綿花畑に設置する魔獣避けの魔法具の代金。

 魔法具ってそこそこ高いのよ。もちろん研究用の畑だから自分達で作った物を設置しても問題はないわ。でも材料費が必要でしょ。

 ここでゴムのプレゼンよ。

 ふふふ、説明の順序が逆? いいじゃない。卵が先か鶏が先かってやつよ。現実ではプレゼンはほぼ同時進行でやったもの。

 誰に対してかといえば、生家の家業が服飾関係や製糸関係の学生に対してね。

 彼らの実家はちゃんと飛びついてくれたわ。

 でもゴムを見せるだけじゃピンとこなかったはずなの。それに私の最終的な目標はゴムの。だって便利だけれど、一々全て自分で作るのは面倒だもの。

 そこで登場するのがチラッと先に出した名のある有名ドレスデザイナー。ほら、私が表に出ないようにゴム作りの発案者に仕立て上げた人よ。

 デザイナーは月影という名前以外、性別すらわからないくらい徹底して秘密主義で表に出ない人だから、仕立て上げても問題はないの。

 月影はゴムを使った製品のデザイン画とサンプルも提示したわ。もちろんシュシュもね。

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