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「過信」のススメ~「ベーシックトラスト」とエリクソン8つの「心理社会的発達課題」~


自己肯定感が低い日本人


日本人の自己肯定感は世界の中で圧倒的に低いと言われています。

統計でもこのことが浮き彫りになっています。


以下、独立行政法人 国立青少年教育振興機構が実施した、日本・米国・中国・韓国の高校生を対象とした「自分について」の調査結果です。


独立行政法人 国立青少年教育振興機構「高校生の生活と意識に関する調査」「9.自分について」(平成27年度調査)より

日本の高校生は、「自分はだめな人間だと思うことがある」という質問に対して、72.5%が「とてもそう思う」「まあそう思う」と回答。


これは同じ質問に対する答え、中国(56.4%)、アメリカ(45.1%)、 韓国(35.2%)の高校生と比べと突出して高い割合となっています。


また、日本の高校生は、「私は人並みの能力がある」「自分は、体力には自信がある」「自分は、勉強 が得意な方だ」 「自分の希望はいつか叶うと思う」という問いに対して、 「とてもそう思う」 「まあそう思う」と回答した者の割合が4か国中で最も低い数値となっています。


日本の高校生の多くは「自分はだめな人間だと思うことがある」ようです。

これは高校生に限ったことではないかもしれません。


日本人全体に言えることではないでしょうか。

自己肯定感が低い、つまり、「自信が持てない」ことをにつながっているように思います。


二種類の「自信」


それでは「自信」とはなんでしょうか。


「自信」には、「根拠のある自信」と「根拠のない自信」の二種類があると言われています。


「根拠のある自信」


「根拠のある自信」とは、自分に関する何らかの属性や能力や成果などを元に自信を持つようなことです。


例えば、頭脳。「学年で一番」「東大出身」など。

そして金銭。「年収1000万円だから」。

または、スポーツ。「全国大会に出場」。

など。


このような事柄を背景とした「自信」のことを指します。


「根拠のない自信」


そしてもう一つの自信は「根拠のない自信」です。


特になんの事柄も背景とせずに、「未来は明るい」「努力は必ず報われる」「人は信じるに足るものである」・・・というような気持ちを持てる「自信」です。

ぱっと聞くと「ない」よりは「ある」方が良いように思えます。

多くの人は「根拠のある自信」の方が良いと思うのかもしれません。


実は弱い「根拠のある自信」


「根拠のある自信」は、一見、強いように思えます。

しかし、「根拠がある」が故に、実は弱いとも言えます。


なぜならば、その根拠が崩れてしまえば、簡単につぶれてしまうことがあるからです。


例えば「東大出身」の人は、そこにハーバード大学出身の人が来れば、自信を失ってしまいます。

「年収1000万円」というのが自信の背景にある人は、「年収1億円」の人が来れば、同じように自信を失ってしまう可能性が高いからです。


根拠があるが故、その根拠が崩れてしまうことで「自信」を失ってしまうことがあるのです。


「根拠のない自信」は強い


一方で「根拠のない自信」は、「根拠がない」が故に、強いとも言えます。


どんなことがあっても、崩れることなく安定して「自信」があるからです。


そもそも根拠がないのだから、崩される心配もありません。


では、なぜ、根拠がないのに自信があるのでしょうか。

不思議ですよね。


ベーシックトラストとは?


ベーシックトラストという言葉はご存知でしょうか。


ベーシックトラストは、英語で「basic trust」、「基本的信頼」と訳されています。


自分自身は、かけがいの無い愛されている存在であり、なにか障害あってもきっと乗り切っていけると想う感情のことです。


条件付き承認とは無関係に、無条件で自分はOKだと思えるということです。

つまり、自分の存在そのもののを肯定する力です。


この感情が欠けていると、ネガティブ感情に常に囚われ行動が阻害され、新しいことに挑戦できなくなったりします。


そして、心理学用語では、人を信頼できる能力(基礎的人間関係)という意味となります。

人間関係にも影響してしまう、それが「ベーシックトラスト」です。


8つの「心理社会的発達課題」


この「ベーシックトラスト」を提唱した心理学者がエリクソンという人物。

本名はエリク・ホーンブルガー・エリクソン(英語: Erik Homburger Erikson)。


アメリカ合衆国の発達心理学者で、「アイデンティティ」(自我同一性)の概念を提唱し、米国で最も影響力のあった精神分析家の一人です。


エリク・エリクソンは「発達課題」を提唱しています。


人生を8段階に区分し、それぞれに発達課題と心理社会的危機(psychosocial crisis)、重要な対人関係、心理社会的様式が設定されています。


以下、「エリクソンの心理社会的発達理論」です。


「エリクソンの心理社会的発達理論」


第1段階:乳児期(0歳~1歳半)

【希望】・・・「基本的信頼」(ベーシックトラスト) vs. 「不信」


第2段階:幼児前期(1歳半~3歳)

【意思】・・・「自律性」 vs. 「恥、疑惑」


第3段階:幼児後期(3歳~6歳)

【目的】・・・「積極性」 vs. 「罪悪感」


第4段階:児童期(6歳~13歳)

【有能感】・・・「勤勉性」 vs. 「劣等感」


第5段階:青年期(13歳~22歳)

【忠誠心】・・・「同一性」 vs. 「同一性の拡散」


第6段階:初期成年期(22歳~40歳)

【愛】・・・「親密性」 vs. 「孤独」


第7段階:成年期(40歳~65歳)

【世話】・・・「生殖」 vs. 「自己没頭」


第8段階:成熟期(65歳~)

【賢さ】・・・「自己統合」 vs. 「絶望」

各段階に「vs.」、対軸を設定しています。

左側がプラスの力、右側がマイナスの力です。



エリク・エリクソンは、人間の心の中には、常にプラスとマイナスのように拮抗するチカラが存在すると考えたようです。

「vs.」という表記はそのためかもしれません。


例えば、第1段階:乳児期(0歳~1歳半)における【希望】は「基本的信頼」(ベーシックトラスト) vs. 「不信」のバランス結果で決まります。


乳児期において、「基本的信頼」(ベーシックトラスト)は【希望】につながるのですね。


エリク・エリクソンの生い立ち


そもそもエリク・エリクソンは、なぜ、「発達課題」という理論に行き着いたのでしょうか。

それは、エリク・エリクソン自身の生い立ちに、その背景がありました。


1902年、エリク・エリクソンはドイツ帝国のフランクフルトに生まれます。

母は、カーラ・アブラハムセン(Karla Abrahamsen)という、コペンハーゲンのデンマーク人の資産家令嬢でした。


しかし、父親は定かではありませんでした。

自分の父がわからなかったのです。


また、孤独感も味わいます。

デンマークの血筋をもつエリク・エリクソンは、北欧系の身体的特徴が強かったため、ユダヤ系社会やユダヤ教の教会で差別を受けます。


一方、ドイツ人コミュニティからはユダヤ人であるという理由で差別を受け、二重の差別を受けて育ちました。


つまり、血筋、コミュニティ、いずれからも孤独を感じる生い立ちでした。


父親が不明な上、ユダヤ人、ドイツ人いずれのコミュニティからも外され、自らのアイデンティティを確立できない幼少期を過ごしたのです。


エリク・エリクソンは、自らのアイデンティティを確立できなかった生い立ち自体から、「発達課題」という理論に行き着いたのかもしれません。


「心の拠点」


エリク・エリクソンは、この「発達課題」の成功や失敗は、次の段階の達成に大きく影響を与えると提唱しています。


つまり、第1段階(乳児期)で課題をクリアできなかった場合、第2段階、第3段階・・・、と影響を及ぼしてしまうことです。


このような意味合いでも、ベーシックトラスト(基本的信頼)は、すべての発達段階で基礎的、そして最も重要な要素と言えるのかもしれません。


では、ベーシックトラスト(基本的信頼)は、具体的にどのように形成するのでしょうか。


ベーシックトラストは主に幼児期に形成されます。


例えば、母親は乳幼児が泣けば抱っこします。

乳幼児は、いつも見守ってもらえている。

スキンシップを取り声をかけてもらえる。


安心感を得ることができます。

このような場合、プラスが上回ります。


肯定感、安心感が乳児期の「ベーシックトラスト」(基本的信頼)につながります。


つまり、親からの「無償の愛」が「心の拠点」を創り上げる、と言えるのかもしれません。


無条件に「人間は信用できる存在だ」と認知することができるでしょう。


そして、その他人・人間そのものを信用できる力となり、「自分の存在そのもののも肯定する力」も得られるのかもしれません。


「ベーシックトラスト」リカバリー方法例


しかし、乳幼児期に「ベーシックトラスト」(基本的信頼)がなかった場合、どうすればいいのでしょうか。


親や先生、周囲の人間から否定的な意見しかもらえなかった人。

自分に対して自罰を繰り返す人。


第1段階における「不信」ですね。


他人に、そして自分にも認めることができなくなってしまいます。


この場合、自分で自分を見る視点を変え、育て直すことが重要ではないでしょうか。

視点を変え、自分を育て直す方法。


以下、例です。


【視点を変え、自分を育て直す方法例】


・ありのままの自分を認め、プラスの言葉がけを自分に対してしてあげること


・他者の価値観ではなく、自分の判断で自分の成し遂げたことを認めること


・過去の他人からの評価を自分自身で認め直すこと


・日常の細かなことであっても、できたことを一つ一つ褒めること


・他者に依存せず、自分がどうしたいのか意志を持って行動すること


・成果が伴わない場合も、努力した自分を認めること


など


まずは日常の一歩から。


「自信のなさ=自己否定」は、今まで無意識に繰り返されてきたために癖になっていますから、はじめは意識して変えてあげることが必要です。


しかし、自己否定も単なる「癖」に過ぎません。

意識して繰り返すようになれば、だんだんと自分に対する肯定的な捉え方ができるようになってくるハズです。


好循環に反転できれば、あとはプラスの循環に転進できるのではないでしょうか。


基礎的な部分で否定的な自分を変えられるか。


大きな分岐点ではないでしょうか。


「過信」のススメ


冒頭にあったように、日本の高校生は、「自分はだめな人間だと思うことがある」という回答結果。


周りの評価を気にしすぎる、他人の目を気にする傾向は日本全体にあるのかもしれません。

出る杭を打つ風土も影響しているのではないでしょうか。


組織評価もその一つ。


組織においての評価は、多くの場合、他人による評価です。

組織に従事する場合、その時期によっては良い時期や悪い時期があるかもしれません。


でも、気にしない。


あくまで他人評価軸です。


一つの「参考」にすぎません。


他者の評価を追い続けている限りは、いつまでもその基準で生きることになりませんか。

自分の評価は自分で決められます。


「根拠のない自信」。


世界を変えるベンチャーパワーは、「根拠のない自信」が原動力ではないでしょうか。


新しいことに挑戦する起動力。


失敗をものともしない、その推進力。


「根拠のない自信」が、無尽蔵にチカラを与えてくれるのかもしれません。


日本人は「過信」くらいが丁度良いのではないでしょうか。


最後に


名言を贈ります。


最初にあったのは夢と、そして根拠のない自信だけ。そこからすべてがはじまった。
孫正義



他の誰かと比べて持った自信は、もろい。
中谷彰宏



自信がなくても、自信が持てるところまで頑張るために、やればできると信じ込むしかない。
松岡修造



自分で自分をほめたいと思います。
有森裕子



たいしたことがない技術でも、英語で話されるとすごい技術に聞こえる。自分の研究に自信を持つことが必要だ。
田中耕一(ノーベル化学賞受賞者)



他人の目が気にならなくなったら、人間一人前です。他人がどう思っても、それは自分と関係がないと、自信を持つべきです。
永六輔



若者にとっては間違った自信でも、まず自信を持つことが大切だと思う。若者の欠点を責めず、長所を引き出して、一つでも得意のものを持たせてやる。先輩、上司にとって、それは一つの義務でさえあるかもしれない。
児島仁(NTT元社長)



真に創造的なことを始めようとする際、最も重要なことは、自分自身に対する信頼、つまり自信を持つことである。
稲盛和夫



根拠はどうでもいい。とにかく自分には自信があるんだと考える。そうすると面白いことに、自信を持っている脳の状態ができ上がってしまうのです。
茂木健一郎

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