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短編小説 「雨の日」

初投稿です。

僕はキーワードを「2つ」設定してそこから物語を考えてます。その2つは広辞苑を適当なページを開き、乱数を振ってその番号にある言葉を抜き出しているので、完全にランダム引きです。

今回は、

「季節」
1年を規則的に繰り返したもの。ふつう温帯では気温により春・夏・秋・冬の四季に、熱帯では、降水量により乾季と雨季に分ける。シーズン。

「ドリップ」
コーヒーの淹れ方のひとつ。ネルやろ紙の上にコーヒーの粉をのせ、湯を少しずつ注ぎ、こしだす。

です。

タイトルは【雨の日】

6月の中旬頃、西日本では梅雨入りが叫ばれているなかで雨が降ったりやんだり浮かばない天気が続いた。
浮かない天気につられるように僕も同じような表情をしているのだろう。
IT関係の営業部に就職し、社会人として迎える2回目の季節がやってきた。やる気に満ちていた1年前の自分が今目の前にいたらなんて言葉をかけるのかな

いや、声などかけずにそのまま通り過ぎるだろうな。

そんなことを思いながら、ふらっと目に入った喫茶店に入った。
木造の作りをしている古いがどこか居心地の良さを感じるそんなお店だった。
「コーヒーのホットをひとつください」
「かしこまりました」
カウンターの席に座り、マスターらしき人が返事をした。白いワイシャツに茶色のベストでピシッとしたおしゃれな格好だった。年齢は、70歳ぐらいなのだろう。
「いまドリップ中なんで少しばかり待っててもらえますかな」

ポタッ…ポタッ…

ドリップの音と同時に雨が降ってきたらしい。

「降ってきちゃったか。傘持ってきてないや。」
今日の天気予報では曇り。お天気お姉さんの予報は外れた。女の勘が働くのは人間関係の時だけらしい。折り畳みの傘を持っている人はよほどできた社会人か今日雨が降ることを予想していた超能力者ぐらいだろう。

雨は嫌いだ。服が濡れたらじとっと肌に張り付く感じが気持ち悪いし、気分まで憂鬱になってくる。髪の毛も湿気を帯びてなんだか自分の髪の毛ではないようなそんな気すらしてくる。雨は天からの恵みだって昔の人は言ったけれど、時代は変わってるんだ。天気だって現代に合わせてくれてもいいじゃないか。
時代においてかれてるぞ?いいのか天気。なんて誰も考えないようなことを考えてしまうぐらい雨は嫌いだ。

「雨はお嫌いですか?」
ドリップしているコーヒーが半分くらい溜まり、カップを用意しながらそうつぶやいた。
なんで分かったんだろう。このマスターは妖怪かエスパーだ。この人はきっと今日の雨を予想してたに違いない。天気予報士への転職を勧めよう。

「どうしてですか?」
「雨が降ってきた瞬間、首の角度が鋭角になったもんですから」
本物のエスパーだ。

「そうですね。雨はなんだか好きになれなくて・・」
将棋の対局で負けを認め、投了を宣言したような気分だった。

「まあ、雨もそんなに悪いもんじゃあないですよ」
小鳥のさえずりのような優しい声で続けた。

「雨ってのはねエ、神様が『今日は落ち込んでもいい日』っていうのを作ってくれてるんですよ。世の中は落ち込んでる暇があったら切り替えて次の行動をしなさいっていうでしょ?でも人間そんなうまくできてないからさ、どこかで落ち込まないと切り替えなんてできないわけさ。今のあなたみたいにね。」

「えっ・・・」
思わず、声が出てしまった。

「だから神様は雨を降らせて、誰が泣いても気にならないようにしてあげてるのさ。雨が降る理屈なんてもんは頭が良い学者さんたちが解明してくれた事実でしょ?そんなつまらない事実よりも違った意味を付けた方が私みたいな人は理解しやすいんですよ」

「ふうん、そういうもんですかね」
私にはマスターの言葉がすうっと入ってきた。雨が降る原理なんてものは既に知っているが、雨のことが嫌いな私にとっては嫌いになれない理由として置いておきたいと思ったから。
マスターが話を終えた後すぐに聞き覚えのある音が携帯から聞こえてきた
「あっ、、上司から電話だ・・・」
不機嫌そうなまま、電話に出た。内容はよく覚えていない、というより聞く気がなかった。とにかく早く帰ってこいってことだろう。コーヒーぐらい飲ませてくれよ。

「すいません、会社の戻らないといけないので代金だけおいておきますね。」
「いいえ、お代は結構ですよ。それよりも良かったですね。」
「えっ?」
本当に心を読まれてるのかと思ってしまうほど的確な言葉に思わず聞き返した。
「雨、上がったみたいですよ。またお待ちしています。」

店から一歩外に出ると、雨は上がったが未だ曇り空でとてもじゃないが気分が晴れるような天気ではなかった。しかし、私の気分は少しだけ違った。どうしてだろう。
雨が止んだからかな。

結局あのマスターは何者なんだろう。私の中ではエスパーか天気予報士だと思っている。
会社へ戻りながら、次に雨が降る日のことを私はぼんやりと考えていた。

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