全盲の写真家西尾憲一によるポートレートセッション『魂を撮る』
常々思っていることがある。
語弊を恐れずにいうと 表現と排泄は似ている。
みんなと同じものを食べる。
しかし消化されたのちに排出されるものは、完全なるオリジナルであるという意味において。
そしてそれが自分の内側で起こりながらも、大部分は意思や意図が及ばない無意識下で行われるという意味においても。
目の前にあるものを写真に残すのは「カメラ」という大量生産の機械だ。
しかし撮る人が異なれば全く異なる写真が出来上がる。
つまり表現は写真家の体内を駆け巡ったのちに、オリジナルの形で排出されるのだ。
そこまで考えて、気づいたことがあった。
表現の極めて本質的な部分が表現者の無意識下で作られるのであるならば、当然 写真という芸術は晴眼者だけのものではないはずなのだ。
視力があるかどうかよりもずっと大切なことが、表現には大きく影響しているのだから。
正直に告白すると、全盲の写真家というタイトルに始めは私も驚いたし、いささか混乱もした。
しかしこの本は写真を撮るということの本質について思考する機会を与えてくれた。
さて、西尾氏が撮るポートレートについて語りたい。
西尾氏のポートレートが放つ魅力は、無意識の中に潜んでいたものと、無意識から浮かび上がってくるものの存在だと感じた。
それはカメラマンと被写体の間の空気かもしれない。これもコントロールしきれない、オリジナルの作用だ。
撮る側と撮られる側に意図的に働く要素が少ないからこそ写る「ありのまま」が、私たちを強く惹きつけるのかもしれない。
被写体の強さや優しさ、極めて人間的な部分が見えてくるようなポートレートだった。
もしも私が被写体となったならば、これまでに得てきた温かい気持ちや芯のようなものをポートレートの中に見つけることができるだろうか。
そう考えたら、ホンモノの私に出会うような緊張感を覚えた。
西尾憲一氏のポートレート写真も見応えがあるが、本書の著者 岩崎由岐子氏の豊かな感性と温かみを感じる知性的な文章も秀逸だ。
素晴らしいポートレートと文章の両方を味わえる、珠玉の一冊と言えるだろう。
この本はPODという形態で発売されている書籍で、まず書店ではお目にかかれない。
POD(Print On Demand)とは、注文に応じた部数を印刷・製本する出版形態。
楽天ブックスなどのプラットフォームを通じて販売されることが多いのが特徴だ。
個人でも手軽に出版できるのが特徴だが、その分出版物は玉石混交ともいえる。
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