【映画】Lラッセ・ハルストレム
スウェーデンの監督さんです。
北欧の映画ってとても新鮮に見えるのですが
この監督さんはその冷たい風が吹く中での希望、あたたかい人の交流を描きます。
1
「マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ」
「回収されないことをわかって宇宙へ送られたライカ犬より僕はマシだ」
少年イングマルはことあるごとにライカ犬のことを考える。イングマルは普通のやんちゃな少年なのですが心の中でじっと我慢していることがあります。イングマルのママは病気でいつもベッドの上で本を読んでいます。イングマルが兄のエルクと喧嘩したりして騒ぐのも叱られてばかりで聞いてほしい話もママはすぐに疲れてしまい聞いてくれません。それでもイングマルはライカ犬のことを考えて寂しさを我慢するのです。
母の病状は悪化し、イングマルとエルクは家で騒ぐのが母の体に障るとふたりはそれぞれ預けられることに。イングマルは田舎に住むグンネルおじさんのところに行くことになります。
怒られてばかりのイングマルでしたが田舎はのんびりしていてグンネルおじさんの元でたくさんの子どもたちや風変わりな村人たちに囲まれてのびのびと暮らします。
イングマルには可愛がっていた犬がいました。
シッカンという名の犬で実家にいた時からいつも一緒でしたが離れ離れになってしまいました。イングマルはシッカンのことをいつも思い出します。グンネルおじさんにシッカンはどうしているのか、家に電話してとお願いするけれどグンネルおじさんは空返事。
その後、ママを亡くしてしまったシッカン。じっと泣かずにいましたがシッカンも亡くなっていたことを知らされ、グンネルおじさんと作った東屋にイングマルは立て籠ってしまうのです。
グンネルおじさんが鍵を壊して東屋に入るとイングマルが毛布の中で泣いていました。
「シッカンが死んだのは僕のせいじゃない。シッカンに伝えなくちゃ」
幼い少年にとって母親にそのままの自分を受け入れてもらえないことは一大事だと思います。それなのに母親の状況を小さな自分が受け入れなければならない。理解することでさえできないままに母を亡くしてしまうのです。じっと宇宙に送られたライカ犬と自分を比べてまだマシだと言い聞かせるイングマルですが、心の中ではそっとママのそばで騒いで叱られたこと、悪戯ばかりして泣かせてしまったことを思い出しては自分を責めていたことがわかるイングマルの言葉でした。
イングマルの厳しい環境を、グンネルおじさんをはじめとする田舎の個性的でユーモア溢れる人々がなぐさめます。見ているこちらもイングマルの笑顔が見たい、と見守ってしまう作品です。
2
「ショコラ」
北風に吹かれてフランスのある田舎町にマントで身を包んだ一組の母娘がやってくるところから物語は始まります。
ヴィアンヌは娘のアヌークを連れてチョコレートの魅力をこの村でも広めようと店を始めます。村人は慎ましく信心深い人たちですが他所からきた者には簡単には心を許さずなかなか打ち解けようとはしません。それもひとり親で私生児のアヌークを連れて歩き自由に振る舞うヴィアンヌに興味を持つけれど周囲の目を気にしてなかなか店に足を踏み入れる客はいません。
しかし、実は夫のDVに耐えてきたジョセフィーヌを始めとして娘との折り合いが悪く孫となかなか会うことのできないアルマンド、心に寂しさや辛さをそっとしまいこんでいた人々が甘い香りに誘われるように徐々に店にやってくるようになります。
ヴィアンヌは少しずつ村人に受け入れられてゆきますが、ある日、ジプシーの家族が川に流れ着きます。村人はジプシーを差別して関わらぬように過ごしますがヴィアンヌは分け隔てなく声を掛け、チョコレートを提供します。
ジュリエット・ヴィノシュの色鮮やかな服が可愛らしく、北欧の風と村人の冷めたようなモノクロの世界に色を差すようです。
ジプシーとして登場するジョニー・デップも登場し、とてもかっこいいです。
ヴィアンヌやジプシーが現れたことで村が戸惑いながらもどう変化していくのか見ていくのも面白いです。
なによりも姿カタチも可愛らしいショコラの甘さやホットチョコレートの温もりを視覚だけのはずなのに五感で感じているような気持ちになる、とても素敵な作品なのです。
3
「ギルバート・グレイプ」
こちらは家にまつわる家族の物語。
ギルバートは母と姉妹、弟の5人で一つ屋根の下暮らしていました。父が自殺してしまいそれ以降家を出なくなった母は規格外に太ってしまい外にも出られず、一番下の弟アーニーは知的障害を持ち一瞬たりとも目が離せない。スーパーマーケットで働きながら家族を支えます。
すべては家族のために。家族を愛していてもアーニーは手が掛かるしこちらの気持ちも解してくれない。巨大化する母親を覗きにやってくる近所のいたずらっ子たち。やり切れない気持ちをギルバートは心に押し込めて日々を過ごしてきました。
そんなある日、トレーラーハウスで祖母と旅する女の子、ベッキーが村にやってきます。
ギルバートとベッキーは少しずつ仲良くなりアーニーも含めて楽しく時間を過ごすようになります。
ギルバートはベッキーが現れて純粋な恋心と旅するベッキーへの憧れを抱くことで日々の生活での不満を吹き出してしまいます。そしてアーニーを放置してベッキーと大きな夕焼けをぼんやりと見るのです。
家族想いがゆえに素直な気持ちを押し込めて奉仕してしまう青年ギルバート。スーパーに通ってくる人妻に手を出され浮気に加担したりする生活の中で出会った眩しいぐらいに自由なベッキーの存在にギルバートは素直な気持ちを見出していきます。家族は均衡を崩しますが、またその絆を再確認して形を変えて歩み始めるのです。
この作品では何と言っても若いジョニー・デップとさらに若いレオナルド・ディカプリオの共演が見どころです。容姿の美しさが人気の先行となっているようなディカプリオですが、この作品を見ると役者としての力量を感じます。
そして母親です。父親が自殺してしまうという悲しい過去を持ち家と共に時を止め、太り続けてしまうのですが、ある時アーニーが厄介ごとを起こしてしまいます。愛するアーニーをその手で助けるため、母親は父が死んでから7年、初めて家を出る決意をします。
家族はその姿を恥ずかしくも思いながらも誇りにも思う。複雑な様子を見せるのにも共感してしまいます。
しみじみととても素敵な作品です。
当時の映画パンフレットに今は亡き淀川長治さんがコメントを寄せているのが忘れられません。
一見地味に見えますがとても良質で生きる上での渋みをしっかり表現する粒揃いの名作ばかりです。
ラッセ・ハルストレム監督。ぜひ。
お読みいただきありがとうございました。