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【新サクラ大戦座談会】新サクラ≒スター・ウォーズEP7説

弊サークル夜話.zipでは、幻のC98新刊として、サクラ大戦評論本『〈サクラ大戦の遊び方〉がわかる本』を刊行しています。

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今回は同書の特集「賛否激突!『新サクラ大戦』クロスレビュー」より、『新サクラ大戦』の全話レビュー座談会の一部を掲載します。


出席者紹介:

長門裕介(長):倫理学者。早稲田大学 人間科学部 非常勤講師。『フィルカル』『ユリイカ』などにも寄稿。

新野安(新):評論サークル夜話.zip同人。『〈サクラ大戦の遊び方〉がわかる本』編集。『ユリイカ』『マンガ論争』などにも寄稿。

ひかけん(ひ):評論サークル夜話.zip同人。『〈サクラ大戦の遊び方〉がわかる本』編集。

ゆきこ(ゆ):評論サークル夜話.zipの編集協力者。今回は聞き役として参加。

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 僕とひかけんは後追い世代なんですけど、長門さんは初代サクラがほぼリアルタイムですよね。まずは当時の印象をお聞きできればと思います。その後、各自が大雑把に新サクラの感想を言っていきましょうか。

 僕の感覚では当時すでに、サクラ大戦ってエッジが効いている作品ではなかった気がしていて。初代のすぐ後に『FFⅦ』(一九九七)が出てて、サクラ2のちょっと後に『メタルギアソリッド』(一九九八)が出てて、神ゲーみたいなものがいっぱい出てた時代の中で、神完成度という扱いではやっぱりなかった。でも、なんでサクラ大戦みんな意外と好きなのかといったら、当時の作品としては例外的に、健全な感じがあった。健全さってどういうことかっていうと、ダークな感じに時代が傾きつつあったんです。『FFⅦ』もそうだし……。

 『エヴァンゲリオン』(一九九五)、『攻殻機動隊』(映画版一九九五)。

 『ゼノギアス』(一九九八)、『ポリスノーツ』(一九九四)、『リンダキューブ』(一九九五)、『moon』(一九九七)とか、ハードだったりダークだったり、ホラー系とかが流行ってた時代の中で、例外的に健全な雰囲気というか。勧善懲悪とかダサいじゃん、みたいな気持ちになってた気がしてて、オタクが。みんなもう黒いシャツ着ようよみたいな。

 新野さん黒Tしか着ないですよね。

 うるさい。

 世紀末みたいな雰囲気が漂っていた中で、ほっと一息つくような感じっていうのが。こんな普通の作品いいんだ、というのが驚きでした。
 僕は一貫してすみれが好きで。悪いなあっていうか。今回もみんなはもらってないのに、自分だけこっそりおもちゃもらっちゃった人みたいな感じなんですよね〜。

 ……?

 『新サクラ大戦』の話ですか?

 すみれ推しじゃない人に、ごめん俺だけ得してる、っていう。
 あと『新サクラ大戦』はやってるとき、ずっと頭の中に、スター・ウォーズ エピソードⅦっていうのが……。

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『スター・ウォーズ フォースの覚醒』(2015)ポスター

 そう! 僕もその話しようと思ったんですよ。

 エピソードⅦ観てるときに、製作陣に念波みたいなのを送ってたんだけど、まったく同じ内容の念波を今回のスタッフにも送ってました。その内容については後ほど。あと推しはクラリスです。

 『新サクラ大戦』、僕は面白かったです。しばらくナンバリングタイトルがなかった年月に合わせて、華撃団がみんないなくなった設定があって、思い入れやすかった。ヒロインについては自分もクラリスがかなり好きで。『新サクラ大戦』はぱっと見の印象が、どのキャラにもあまり裏切られないじゃないですか。クラリスはそこまでポエム書くんだ!?みたいな驚きがあった。

 『新サクラ大戦』をやってたときに思ったのは、サクラ大戦って家族とかに近くて、一緒に人生を刻むみたいなところがある。多分この後も舞台とかアニメとか小説も含めて、作品と一緒に生きていくものなので、それを客観的に評価することに意味があるのか?って思ったりしました。家族に星◯つとかつけないじゃないですか。そういうつもりでいくと、愛着が持てるというか、一緒に生きていこうという気持ちにはなってます。特にキャラクター。一番の推しは白秋さんなんだけど、推しづらい事情がね。

 油断がならない。

 ヒロインでいうと初穂だね。一番病んでる感じがして好きなんですけど。

 そう、その話もしたい。初見の推しは初穂だったんだけど、やっぱり推しづらい事情が……。

神山くん、いい男じゃないか 第1話 新たなる風

 神山回という感じの第1話ですが。

 神山くんは最初からすごく好感を持った。いい男じゃないかっていう。こちらとしてはもちろんすごく不安なわけじゃん。大神さんみたいな人じゃないとやだって思ってたけど、彼だったら安心だねみたいな。ベタだけど、降魔が駅に入ってきて、子供助けるところで、いい人だってすぐわかる。

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『新サクラ大戦』第1話より

 神山さんは阿座上洋平さんが演じてて、俺は阿座上さんをまったく知らなくて。それがよかったかもしれない。すでにめちゃめちゃ売れてる人とかが軽くやってたらやだなと思ったけど、神山くんは阿座上さんのキャリアの中で大事な作品になるんじゃないかなと。上手い人だと思うし。

 新しい花組についてはどうですかね?

 これはよくないプレイスタイルなんだけど、これは昔のキャラでいうと誰に相当するんだ?みたいなことを考えちゃうわけじゃないですか。そういう意味では、最初の三人(さくら、初穂、クラリス)に会ったとき、まあそれはあんまり無理に考えるものではないかな、ってすぐに切り替えできた。

 スタッフインタビューだと、あんまり過去のキャラクターとかぶることを恐れすぎると、かえってキワモノになっちゃうから、必要以上に避けることもしなかった、って言われてますね。

注:「『新サクラ大戦』開発者に徹底的に訊く! 「シリーズのキャラは?」「主人公の神山はどんな男?」 など疑問に答えまくるロングインタビュー!」(二〇一九)https://www.famitsu.com/news/201905/03174243.html 2020/3/14閲覧。

 それはのVの反省が……

 多分そう。あかほりさとるが、Ⅴはかぶりを避けようとしてキャラが尖ったって言ってるインタビューもあるんだけど。だから、初穂がカンナとか、アナスタシアが織姫とかマリアとか、なんとなく重ねることはできるわけですよ。でも、カンナよりは初穂はちょっとヤバい暗さがあったりとか……

注:『太正浪漫グラフ』(二〇一一)p.129。

 それは新野の妄想なんじゃないの

 そんなことないよ! なんにせよぴったり重なるわけではなく、面影があるくらいのバランスになってるなと。アナスタシアだって、織姫よりももっとドライだよね。

 織姫って……もっと楽しいやつだった(笑)

 それでいうとあんまり面白い人いないよね新サクラ。冗談を言い続けられそうな人がいない感じ。割とみんな、重くなると重くなりそうだなって人たち。

 トリックスターがいないのかもね。エリカみたいな人がいない。
 あと話は戻りますけど冒頭の冒頭、三都の華撃団全滅!から始まるのは結構ワクワクしました。え、どうすんの!?っていう。で、そこでスター・ウォーズを思い出した。ルーク・スカイウォーカーが消えた!ですよね。
 もう少しスター・ウォーズの話を続けると、今回はエピソードⅦと立ち位置が似ていて、まずスター・ウォーズは、ジョージ・ルーカスの作品だったんですよね。それが、ジョージ・ルーカスの手から離れて、ディズニーで別の人が作ることになった。その結果、高橋ヨシキさんとかがそういう話をしてるんですけど、ジョージ・ルーカスの作品でなくなったとき、じゃあスター・ウォーズらしさってなんなの?ってことになってきて、スター・ウォーズであることを証明しなきゃいけないみたいな責務を抱え込んでしまった。結果として、エピソードⅣ−Ⅵの焼き直しをやることになったんだけど。

注:高橋ヨシキ『スター・ウォーズ 禁断の真実』(二〇一九)、特に『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』の章。

『新サクラ大戦』にも似た印象を持っていて、つまりサクラ大戦も、広井王子とあかほりさとると藤島康介と田中公平のシリーズだった。今回田中公平以外全部消えて、別の人が入ってきて、そこでサクラ大戦らしさってなんなの?ってなる。それで紐育から今回もう一度帝都の話にもどって、大帝国劇場が舞台で、メインヒロインは「さくら」、袴に日本刀、主題歌はゲキテイ、ってところで、みんなが考えるサクラ大戦らしさみたいなのを盛り込まざるを得なくなったのかなと。

 それを引き取って話したいんですけど、さっきエピソードⅦと同じ念波って言ったのは、「気を使ってもらって申し訳ないですね」ってことなんですよ。ほんと気を使っていただいて、ありがとうございます。でもそのせいで自由なクリエイションができてないかもしれない、っていうのを思った。

 ただそれでいうと、ルークだけじゃなくて、三都全滅ってことにしたんで、今回はもう、すみれさん以外が出てこれないのはよかったなと思ったんです。必然的に新しいキャラクターの話が中心になっていくから。

回想シーンを嫌いすぎ? 第2話 手のひらほどの倖せ

 第2話は、クラリスの過去がよくわからないというか。どんくらい重魔導がクラリスにとってトラウマになっているのか、情報としては知れたけど、キャラクターの厚みには貢献できていないのかなという印象ですね。
 今回は回想シーンを嫌いすぎてる感じがしてて、過去にこういうことがあったって言うときに、口頭で説明するだけだったりするじゃん。別によくない? 回想シーンのムービー流しても。

 僕がそれを感じたのはアナスタシアが裏切って、アナスタシアがなんで夜叉に従ってたのか説明するとき。昔親が戦争で死んでみたいな話をするじゃないですか。それが本当にセリフしかなくて。

 マリアの過去のムービーみたいなのを流せばいいんですよね。なんでああいうのをしないんだろう。

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『サクラ大戦』第3話より。

 今回ボリューム不足っていう声をよく聞いて、僕も食い足りないなっていう思いがあるんですけど、キャラの過去をもっとちゃんと見たい人が多いからなんじゃないかと思うんですよね。第2話だと、クラリスが昔重魔導で事件を起こしたみたいな話が、まあ普通に考えて必要ですよね、作劇上。だからいまいち感情が入りきらない気はしますね。本という一つのモチーフに、破壊と創造っていうクラリスの二面性を込めるのはすごく綺麗なんですけど。

 あと、コミュニケーションモードがこの第2話から出てきますね。『ラブプラス』(二〇〇九)みたいな……。

 僕は『シノビリフレ』(二〇一七)だと思った(笑)。

 コミュニケーションモードの実装によって、各ヒロインの面倒くさい部分が炙り出されたのはすごかった。早く本題入ってくれねえかなあ、なんでこっちが気を回さないといけないんだよ、人の悩みをなんでこんな時間をかけて聞かなきゃなんないんだみたいな……。

 ここだけ飛ばせないんですよね。

 これまでもクリックモードはありましたよね?

 そうなんだけど、今回は距離の概念が存在するっていうのが大きい。一枚絵はそこにキャラが存在するっていうことでしかないわけだけど、今回は喋っていくうちに近づいてくるということが可能になったので。そこが胸キュン。

 やっぱ物理的な距離によってやっぱ本当に、なんか、面倒くせえみたいな感じが。「そっち行ってもいい?」「いいけど……」みたいな(笑)。

 ただちょっと思ったのはね、全体で八話しかなくて、コミュニケーションモードを満遍なくまぶした結果……。

 出てくるのが早い。

 そう。さくらのコミュニケーションモードとか第2話だしね。アナスタシアのコミュニケーションも裏切り発覚前で、中身も神山を色気でごまかしにかかるシーンじゃないですか(笑)。あんまり仲よくなってその結果って感じがしないのは残念だったかなと。

 今回、本当の意味で攻略できるキャラはすごく少ないんじゃないかって気がしますね。

 そうなんですよ。中間報告くらいの感じでエンディングなんだよ、たぶん。全八話だし。

ガールズ&光武 第3話 平和の祭典

 各国の華撃団を見たいみたいな欲望は僕はあって、しかもかなりカリカチュアライズされたお国柄みたいなのが出てると嬉しくなっちゃうじゃないですか(笑)。だからこの華撃団大戦っていう発想自体はいいわけだけど、まさか何話にもわたって引っ張るとは思わなくて。大集結したら、イベント中止になっちゃったみたいなくらいでいいのかなと思ったりして。

 僕はむしろ逆で、華撃団大戦は今までシリーズにまったくなかった要素なので、これが投入されると、新しいものが見られると思ってました。各国の華撃団がごちゃごちゃ集まって戦うのも賑やかだし、華撃団大戦はもっと見たかったですね。今回スポ根みたいな話じゃないですか。弱小チームがいて、キャプテンが入って、少しずつ立て直して、強豪を倒して頂点を目指すみたいな。その構図は結構燃えた。

注:スポ根としての新サクラ大戦という見方は以下の記事を参考にした。「『新サクラ大戦』が継承した『サクラ大戦』らしさとは何なのか? 「モテるが刺されない主人公」と「LIPSの存在意義」をいま考える」(二〇一九)https://news.denfaminicogamer.jp/kikakuthetower/191212b 2020/3/14閲覧。

 3話の途中くらいで、へなちょこ華撃団だという設定はなくなったという風に見ていたんだよね。だってもうアナスタシア来て、クラリスが脚本書いて、みんなやる気出てるんだったら、もう別にへなちょこ感ないだろっていう。弱小が優勝候補を倒していくっていうスポ根設定は活きなかったと思う。

 それは結果的にはそう思います。特訓とかしてほしかったんですよ。

 予算がなくて旧式の三式光武を使っているけど、実はそっちの方が機動性は劣るが出力では負けない、みたいな……。

 『ガールズ&パンツァー』(二〇一二)がそういう感じですね。

 そういうのがあってもよかった。

初穂のエロ絵がつらい 第4話 仮面の下

 この話数が一番サクラ大戦ぽくない? ドタバタがあって、えっ大丈夫か?あざみが傷ついちゃうんじゃないか?みたいな風に心配させるけど、戦闘があって、よかったねって終わるっていう。そういう意味だと2、3話とはちょっと違ったかな。

 僕は4話は、なにもかもめちゃくちゃで好きでした。まずその、夜叉は仮面着けてる、あざみが喋ってた男も仮面着けてる、したがってあざみはスパイって、そんな理屈はないだろ(笑)。

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『新サクラ大戦』第4話より。夜叉とは仮面のデザインも違くない……?

 途中で同情を引くようなあざみの過去が出てくるけど、それも嘘だとわかって煙に巻かれて終わるみたいな。全体としてシュールな感じでまとまってて、あざみのキャラクターにもマッチしてたし、面白かったなと。

 ネタバレするとWLOFって敵組織なわけだけど、単にこの話によって、すげえ間抜けな人たちなんじゃないかという印象がついて。ゼーレみたいな強大な組織とはちょっと違う、ダメな連中が揃ってるんじゃないかみたいな。

 プレジデントGも小物っぽいですしね。

 そうそう。もっとデブとか、鼻毛出てる感じの方がよかった。「がはははは」みたいな(笑)。

 この話数で初穂のコミュニケーションモードがあって。

 問題の。

 僕はねえ、初穂はいつも元気みたいな感じでふるまってるけど、僕の中での初穂はね、いつも元気じゃないからこそ、いつも元気だと言ってる人なんですよ。小説版を読んでも、さくらは何に対しても諦めずに向かってくんだけど、初穂は肝心なときに弱気になってしまう。それで劣等感を蓄積していく。このコミュニケーションモードでも、自分が何者なのかみたいに神山くんに聞いたりしてて、自我がぐらぐらなんですよ。初穂ちゃん、って自分を呼ぶのとかも、自我が弱いからこそ、「初穂ちゃん」という鎧を着ているんじゃないか。

 大丈夫なのかなこの人、みたいな感じあるよね。

 そうそう。ツイッターで、新サクラのエロ絵とかも流れてくるんですけど、初穂の寝取られ絵が本当につらい。やばい恋人にハマって酷い目にあってるみたいなのがシャレにならないところがあって。

 すごい男に依存するタイプに見えるんだよね。

 胸元触ると、隊長だったらいいんだぜみたいなこと言うんだけど、「大丈夫か初穂!?」みたいな。

 不安だよね(笑)。だから比較的クラリスとかは自立してる方じゃないか。

スタァを超えろ! 第5話 さくらの帰郷

 で、引き続き初穂の話なんですが(笑)。たぶん第5話が初穂回ってことだと思うんだけども、実質的に第5話はさくらの話になっていて。初穂ファンとしては悲しい。

 こう、他人に依存してる感じっていうか。友人や男に依存してしまう初穂の性が、話数にも現れてますね(笑)。

 さくらの情緒不安定さが出ているのも第5話ですね。さくらを励まして、よし、実家から連れて帰るぞってところで、突如あんた何もわかってないよ!みたいにまた不機嫌になる。めんどくさすぎるだろう(笑)。

 励ますと逆にキレてくるっていう。なんもお前はわかってない、がんばるとかばっかり言って、みたいな。すげえ生々しい感じのキレ方でしたね。

 あと、桜武がこの話数で出るんですよ。設定上はすごくアガるんです。霊子戦闘機の試作機である桜武に、真宮寺さくらも乗れなかったみたいな設定があって。で「桜武」は、神崎重工が初めて作った霊子甲冑の名前で、それはすみれさんが初めて動かした機体でもあるんですよ。そういう帝撃の歴史みたいなものがあって、そこに天宮さくらが乗ることで、かつてのスタァを超えるのだ、というのはものすごく綺麗だと思うんだけど。じゃあ天宮さくらならなぜ桜武を動かせるかがよくわからないまま動かせちゃうんですよね。いつのまにか真宮寺さくら超えてたみたいな。ちょっと残念かなっていうのはありました。せっかく燃えるシチュエーションなので。

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サンプルはここまで!この続きは『〈サクラ大戦の遊び方〉がわかる本』で!

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