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モーパッサン『脂肪の塊(ブール・ド・スュイフ)』

おはようございます。
毎日編み物をしながら暮らしているアランアミです。

昨日の編み物🧶

ミニマフラーが完成しました。
詳細は明日の記事で〜

今年は月に1冊、古典や名作を読もうというキャンペーンを実施しています。

1月はミヒャエル・エンデの『モモ』を読みました。

2月はモーパッサンの『脂肪の塊(ブール・ド・スュイフ)』を読んでみました。

表題の『脂肪の塊』と『ロンドリ姉妹』は中編で他にも短編8作が収録された単行本です。

まだ全部は読めていないけれど、お目当ての『脂肪の塊』は読み終わりましたので、感想を綴ってみたいと思います。

いつもより長めの記事になってしまいました。
(一部に加筆修正をしました。2022/02/28 7:50)

『脂肪の塊』はこんな話


19世紀のフランス文学作品です。
普仏戦争の敗北でプロイセン軍に占拠されたルーアンという町から抜け出し、馬車でディエップに向かう男女とその数日間が描かれています。

タイトルの「脂肪の塊(ブール・ド・スュイフ)」はヒロインの娼婦の愛称です。翻訳の「脂肪の塊」から連想するような醜悪な容姿ではなく、でっぷりと太ってはいるけれど、肉惑的な「みずみずしい容姿」をしていて、「なんとも色っぽく、客から引っ張りだこ」のチャーミングな女性として描かれていると巻末の解説で訳者は説明しています。
原文では「脂肪のボール」くらいのニュアンスらしいです。
「塊」と聞くとゴツゴツしていて整っていないイメージを私は持ちますが「ボール」なら丸々としているのかなと想像します。
翻訳者の方も改変して『ブール・ド・スュイフ』にしたかったそうですが、すでに日本では『脂肪の塊』で親しまれているので併記することで落ち着いたようです。

そういえば同じモーパッサンの作品で『女の一生』も原題には“女の”という部分はないけれど、日本ではそちらの訳で親しまれているので新訳も同じようにしていたと思います。

『星の王子さま』も原題を直訳すると『小さな王子』なので小説のタイトルの翻訳は意訳で親しまれています。

話がちょっと脱線しました。

そんなヒロインが出てくる作品を読んでまず最初に感じたのは人間のエゴイズムって容赦ないという、なんだろう…「うわぁ…」と絶句してしまう感じ。

でも違う部分でも印象に残った場面があるので引用させてください。

エゴイズムも人間の本質だけど、お互い様精神も人間らしさだと思いたい

最初に目についたプロイセン兵は、じゃがいもの皮をむいていた。その先では、二人目の兵士が店先を掃除していた。かと思うと、目の下までひげに覆われた兵士が、泣きわめく子どもを抱き、なんとかなだめようと膝の上であやしている。夫を招集された太った百姓女たちが、やるべき仕事を従順な戦勝者たちに身振りで指図していた。薪を割ったり、パンをスープに浸したり、コーヒーを挽いたりする仕事で、なかには、泊まっている家の身体のきかない老婆の下着を洗濯してやっている者もいた。
『脂肪の塊/ロンドリ姉妹〜モーパッサン傑作選〜』

これは中継地から出発する予定の朝に馬車の準備が整っていないことを不思議に思った男性たちが御者を探しに町の広場に行った際に目にした光景です。

驚いた伯爵は司祭館から出てきた教会の用務員に尋ねると、年配の用務員は次のように答えました。

「ああ、あの連中は悪さをするわけじゃないんでね。それに、どうもプロイセン人じゃないみたいだよ。どこだかよくわからんが、もっと遠くのほうから来たんじゃないかな。みんな国もとに女房や子どもを残してきてきているんだ。だから、やつらにしても面白く思ってやしないよ。戦争なんてな!国に残された者は、きっとみんな泣いているだろう。ひどい目に遭っているのはわれわればかりじゃない、やつらだって同じことさ。今のところ、ここじゃあそれほど困ってはいないね。連中は迷惑になることはしないし、まるで自分の家にいるみたいに働いてくれるからね。だって、そうでしょう、お互い貧乏人どうしなんだから、助け合わなくちゃ……戦争をやらかすのは、いつだってお偉方なんだよ」
『脂肪の塊/ロンドリ姉妹〜モーパッサン傑作選〜』


ちょっと長いけれど、どこも端折ることができなくて、そのまま引用しました。

この町の人たちは戦争の勝者と敗者というカテゴリーではなく同じ場所、同じ時間を過ごす相手として関係を築いています。

物語の出だしの部分で馬車に乗り合わせた男女を社会的に分ければ貴族・ブルジョワ・聖職者そして娼婦となるけれど、馬車がなかなか目的地に着かず、みんな同じ「腹ペコの人達」になったときに食料を振る舞ってくれたのは娼婦である「ブール・ド・スュイフ」でした。

けれど、中継地からようやく再出発した馬車の中ではどうでしょう。

身分や肩書きが上だと言われている人ほど自分のことしか考えていないんだなと思ったのでした。

この作品を知ったのは7年前くらいです。
確か白泉社が出している『ふらんす』という月刊誌の原文で読んで楽しもうというコーナーで取り上げられていました。
その時に最初の馬車のシーンを少し読んだきりだったのですが、ようやく全部読めました。
原文じゃないよ、日本語よ。

たまたまなんだけど、今、このタイミングで読んだことに少し意味があるのかなと思ってしまいます。戦争とか、占領とか、ね。

モーパッサンはこの中編がヒットしたことにより役所勤めを辞めて、文筆業に専念することにしたそうです。

当時の様子は分からないけれど、確かにぐっと引き込まれる作品です。他の作品も読んでみたいとその時代の人たちも思ったのでしょう。

私はKindle Unlimitedで読みました。
フランス文学とは縁がないという人にも読んで欲しいなぁと思うお話です。


ではでは、良い1日を〜

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