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光線を描き続けた男・飯塚定雄氏死去

 つい先日『帰ってきたウルトラマン』郷秀樹役の団時朗さんが他界されたばかり。特撮界隈の訃報が続くのは非常に残念だが、こと飯塚定雄氏に関しては話題の取り上げられ方に今までと違うものを感じる。先の団時朗氏といった主演俳優、昨年他界された特技監督・中野昭慶氏と違い、氏は本当に一人のスタッフだ。ずっと裏方として活動されてきた、そんな人物である。

 「ウルトラマンのスペシウム光線を描いた男」という経歴からして、飯塚氏は紛れもなく日本特撮技術に多大な貢献をしたと分かる。もちろん氏の仕事は光線の作画だけに限らない。本編と特撮を繋ぐ鍵となる合成シーンなどもそうだ。例えばビルや山の向こうに怪獣がいる、という場面ならその境目は分かりやすいだろう。専門用語ではこれを「マスクを切る(※必要となる部分以外を隠すこと。後でその映像同士を合成する)と呼ぶが、カットの都合(人やモノが動くなど)によってはそのマスクを切る境目が移動してしまう。つまりフィルムの一コマごとにマスクを変えなくてはならない。しかもフィルムの映像を参考にして、一つずつ位置合わせをしながらだ。その手間隙たるや想像が付かない。

 これは光線についても同じで、ゴジラが放射熱線、キングギドラが引力光線を放った際、口の位置が動いたらそれに合わせて光線のアニメーション(作画)もしなくてはならない。有名な逸話として、ウルトラマンがスペシウム光線を放つ際に「あのポーズ」を取るのは、後で光線作画がしやすいように「少しでもブレない体勢を考えた結果」てのがある。これは数年前に『チコちゃんに叱られる!』でも紹介され、監督の飯島敏宏氏と共に飯塚氏も紹介されていた。金曜夜のゴールデンタイムに特撮界のレジェントと呼べる方の姿を観られたのは、一ファンとして非常に感慨深いものがあった。

『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』より
木を切り裂きながら放たれる光線。まさに職人技な名シーン

 そして映像処理のデジタル化が進んだ昨今でもなお飯塚氏はその腕を奮い続けた。80代でペンタブを使いこなし、各種テレビ特撮作品でヒーローや怪獣、宇宙人達の放つ光線をダイナミックに描いてみせたりと、本当に精力的である。デジタル化を一切否定せず、かつてのフィルム時代と違い、画像がその場でどんどん完成していくのがすぐ分かって良い、と氏は語る。「道具が変わったら自分の時代は終わったって人もいるけど、俺は違うんだよ、貪欲だから」。その上でこんな言葉も残している。

 「(自分達は)当たり前のことをその時代に沿って、出来る範囲で100%こなそうとしてただけ。だから、若いヤツに言うんだけど、コンピューターになって俺たちが出来なかったことが、お前らは簡単に出来るんだから、イメージを膨らませろって。
『飯塚さん、フィルムじゃ出来なかったでしょ、ざまあみろ』って言ってみろって

『光線を描き続けた男・飯塚定雄』より抜粋
『宇宙からのメッセージ』より。エフェクトは飯塚氏が担当した
六つ又の戦闘機から光線を放つという、凝ったカットが山ほどある
高速で動く宇宙船に光線を加える、まさに職人技

 しかし、氏に関しては一つだけ惜しいと思える話がある。1970年代に入って飯塚氏は円谷プロの元スタッフらと共に「デン・フィルムエフェクト」を創設し、代表として就任。「とにかく技術を提供したい。ウチに頼めばやってくれるという、ひとつの信頼を作りたかった」という信念のもと、TVや映画、CMに至るまで、映像技術が必要なあらゆる媒体からその仕事を請け負った。70~80年代のTV特撮作品を鑑賞時にこの社名を何度観たことか。
 だが飯塚氏は80年代に会社を畳んでしまう。先に記した通り、フィルムでの合成シーンを作る際は一コマずつにそれぞれ処理が必要となる。それを何十カットも行う場合は手間暇がかかるため、その管理にコンピューターを導入し作業のデジタル化を試みたのだ。しかしいざ導入となった際、プログラムに重大なミスが発覚して使い物にならないと発覚し、合成技術のデジタル化計画は泡と消えてしまう。これにより氏は億近い負債を抱えたうえ、一方でフィルムを用いないビデオによる合成技術も進化しつつあったため、それを機にデン・フィルムエフェクトの解散を決意したそうである。

 惜しい。もし導入が成功していたら、一体どんな映像が観られたのだろうか。そしてデン・フィルムエフェクトが今もなお存在していたら、氏はどのような立場にあられたのか。現場の第一線で活躍しつつも「日本特撮における映像技術のレジェンド」として後輩の育成をされていたような歴史が、そして未来があったように思えてならない。その上でこう言っていたはずだ。
「技術者として、想像力を膨らませろ。そして、俺を越えてみせろ」
と。

 飯塚氏が描いたあの光線の美しさは、永遠のものです。
 ご冥福をお祈りします。

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