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教育について。新井の漫画感想『キーチ!!』『キーチVS』

新井英樹先生の作品、『キーチ!!』『キーチVS』(以下まとめて『キーチ』とする)をLINEマンガで約1週間かけて読み切った。 

キーチ!! (1) (ビッグコミックス) https://www.amazon.co.jp/dp/4091860613/ref=cm_sw_r_cp_api_glc_i_HV1MWCY801ATGP26CE9P

以前自分が影響を受けた漫画について、noteに書いたことがある。

高校生の頃に読んだのがここでも書いた『ザ・ワールド・イズ・マイン』ではなく、『キーチ』だったら。あるいは、『ザ・ワールド・イズ・マイン』の後、続けて『キーチ』を読んでいたら。私はきっと今の私ではない。

政治家を目指していたかもしれない。私塾を立ち上げていたかもしれない。宗教を興した可能性もある。

私は「俺は俺を肯定する」という『ザ・ワールド・イズ・マイン』の言葉を礎に、自分を肯定し続けて生きてきた。

家族もいる私が今すぐに職業を変えたり政治的な行動をするのは正直難しい。しかし、生き方として「真っ当でいろ」の言葉を掲げていくことはできる。「まず自分からがんばる」だ。


あらすじ

【幼児編】染谷輝一は乱暴者の3歳児。幼稚園で年上でさえ殴り、歯を折る。それでも奔放な彼を認める明るく優しい両親の元で普通に暮らしていた。ある日、両親が通り魔に刺され、同時に他界。祖父母の元も飛び出しホームレスに拾われ、山中での一人暮らしなどを経て再び祖父母の元へ帰る。

【小学生編】小学五年生になった輝一は父方の祖父母とともに松本市で暮らす。そこで同級生とともに児童売春を強要されていた同級生を救う。しかしそこには内閣官房長官など、様々な重鎮が絡み、国会前ジャックを行い大ニュースとなる。

ここまでで『キーチ!!」終了。以下、『キーチVS』。

21歳になった輝一はキーチズ・カンパニーを立ち上げ、人助けを続けている。世界にも認められることになった輝一は総理大臣をはじめ、日本と米軍を敵にすることになる。


感想

はっきり言って最初は退何を言いたいかわからない漫画だ。幼稚園児が暴れ、周りが振り回されていく姿はストレスがたまる。両親が死んでしまうところなんて辛すぎて、自分が死んで子どもが残ったらなんて考えてまた憂鬱になり、投げ出そうかとも思った。しかし、輝一が人や出来事から学び徐々に人間らしくなり、また、生来の本物を見抜く目を使って悪を罰する姿が爽快に感じられるようになる。ただ、『キーチVS』に入ってからはその悪が大きすぎて、現実の社会問題も織り交ぜていることからどんどんと深刻になっていく。

この漫画に描かれる日本は、政治家は卑屈でいやらしく、米国におもねり、メディアは権力の奴隷だ。正しくても権力者にとって損になる行動を取ろうとした人は排除される。国民の支持を集め政権交代を成し遂げた者も、その大きな既得権益に屈する。

これって、本当の日本と一緒なんだろうな。

ただ違うことは、この漫画にはキーチがいる。「真っ当でいろ」をスローガンに、困窮している人を助け、権力を蹴飛ばし、世直しを行う。そんなキーチのもとには多くの人が集まる。影響を受け、立ち上がる子どもたちがいる。


しかし現実の日本で、本気で子どものために未来を良くしていこうと行動できている人がどれだけいるだろうか。政治家に、メディアに、教育者に、できているのだろうか。

結局既存の権力を維持して、停滞していっているのが今の日本だと、残念ながら私は思う。教育もそういった本質に触れず、PISAの学力調査で上に行こうとして読解力が大切だとか、日本はICTが遅れているからGIGAスクール構想だとか、教師のバトンだとか、そんなことばっかり言っている。自分で意見を言えるようになろうとちょっとくらい授業の内容を変えたところで大した意味はない。今の社会で役に立つサラリーマンを育成するだけの教育のままだ。

私の母校の東京学芸大学は教員養成の基幹と言って過言ではないだろう。毎年1000人からの入学者がいて、その多くは教員として輩出される。私の所属した初等教育教員養成課程国語科の76人のうち、60人ほどがストレートで教員になった。残りも大学院を経て教員になった者が多数。民間に就職した人間など、私を含めて片手で足りる人数だ。

しかし「大学で教師とはかくあるべき」を学んだ記憶も、友人と意見を交わした記憶もほとんどない。学んだのは「ごんぎつねをどのように読むか」「源氏物語の内容」「自分で詩を作ってみよう」...

学習指導要領の内容を理解する授業はあったが、それで自分はどんな教師になりたいかを考えることなどなかった。とにかく魂が入っていない。

唯一、ある宗教に熱心だった友人とだけ教育についての激論を交わしたことがあり、これは本当に楽しかった。

自分はどうありたいんだ、世の中をどうしていきたいんだ。それを本気で考えるのが、考えさせるのが教育なんじゃないのか。「進路指導はしてますよ」「将来なりたい職業の作文をさせています」なんてバカな意見は聞かない。社会についての必要な情報を与え、生徒の根幹まで深掘り、指導者も共に考えているのか? これが前職、東進ハイスクールの一部の校舎ではできていた。しかし他の予備校や教育系企業、学校の話を聞いても、やっているところは皆無だ。

教師のバトンで愚痴を言うのも、大変な惨状を訴えるのも良いが、心のある教員がいるならば、その魂を継承していってもらいたい。



余談

私がこの作品を読んだのはLINEマンガで、無料区間がとても多い。『キーチ!!」の最終巻だけが有料で、そこだけお金を支払った。

LINEマンガはコメント機能があり、初めてこれを良いと思った。完結している漫画だから、この先どうなるのかというハラハラ感を誰かと共有したり、この人物誰だっけということを確認するのは本来難しい。しかし、各話ごとにコメントがあることで過去の読者と感情を共有できるのだ。マナーが良いのか先のネタバレもほとんどなかった。

Kindle Unlimitedでも読めるが、もし加入していなければ今から読む人にはLINEマンガを薦めたい。私のコメントも時々記載してある。

私だけでなく、この本を学校に置いてほしいという意見が多々あるのがわかってもらえるはずだ。


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(キーチの変遷。右上が幼児、左上が小学生、左下がVSの最初、右下がVSの最後)

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