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おんがくのつくりかた 5

達成する事のエネルギー

音楽クリエイターとして生きている友人たちとの会話の中で、「目指しているうちはまだマシ」という話がよくあがります。私もそう思います。音楽だけで食っていきたい。ようするに、生活に必要な収入の全てを音楽に関するものだけで賄いたいという事です。それは、簡単な事ではありません。要素的には膨大な数の問題をクリアしなければ達成できません。しかし、目標がある分、一つ一つクリアしていく達成感が気持ちよく、のめり込み、気がついたらそうなっていた、という人が多いのです。その課程で大きな決断をしなければならない局面も多々ありますが、実はその決断には大した意味は無く、目標が自然と切り替わります。最初は「音楽で食っていきたい」という目標だったのが「音楽を作りたい」に変わり、それが「より多くの人に音楽を届けたい」と変化します。

目標を達成しようとする力は強く、エネルギーがあります。これには年齢はあまり関係ありません。目標に向かって一つ一つ行動し達成していくプロセスは、夢が現実になっていく面白さも相まって単純に「楽しい」のです。生きがい、というものです。これは、音楽のみならず何にでも言える事でしょう。音楽の場合、ある日を境にその目標が達成される、というような事はありません。必ず曲線的な達成カーブを描きます。階段のようにある日を境に夢が叶うという事はありません。ですので、気がついたらそうなっていた、というものです。達成したという実感に乏しい、というのも、実は高エネルギーを保つのに一役買っています。

大変なのは、それから

「音楽で食っていく」という目標が達成し、実感としてもやってきた後。クリエイターとして幸せな日々を過ごせるか、というとそうではありません。音楽で食っていきたい、と目指す人の多くは「音楽が好き」だから目指すわけですが、そのエネルギーが「目標を達成する」というものであることが多いことがわかってきました。目標の達成自体が目標になってしまうのです。大学に受かること自体が目的になってしまうのと同じ傾向で、実際に食っていけるようになった実感を得ると、途端に創作意欲がコントロールできなくなってしまう大御所さんもよく見かけます。作られる曲は素晴らしく、クオリティは高いものですが、本人は驚く程冷めていて「これがプロって事なんだな」と考えていたのですが、プロにも創作に対しての熱量が高い人と低い人とがいて、仕事の内容はあまり関係ないのだと最近気付いたのです。結果的に作られる楽曲が素晴らしいのですが、それにしては随分と「苦しそう」に見える。そして、極端になると「鬱」を発症してしまいます。これには首を傾げるばかりです。これだけの楽曲が作れていて、知名度もあって、お金もあって、何故鬱に?? と

幸福の訓練

私は2011年3月11日の東日本大震災で多くを失いました。まず実家が流されました。自分が30年近く住んできた世界が跡形もなく消えた。その事自体はまだ私の精神にはさほどダメージを与えていませんが、歳を取ると感傷的になります。夢に見たりすると、あるはずのものが無い事に呆然としてしまいます。あの場所はもう無い。あの人はもういない。そういう感傷に襲われることも今でもたまにあります。しかし、当時もっと大きな問題は「不可解な人間の行動」でした。一度の沢山の出来事が起こったため、整理することが出来ずに壊れかけたこともありました。

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