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Always something there to remind me


今更知らない地に行く気もしない。

僕はこれからもずっとこの町で同じ日々を繰り返していく。

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彼女がもともと僕をそんなに好きじゃないというのはわかってた。それは毎日の彼女の仕草や時々上の空で僕の話を聞いている姿、いつまで経っても僕の好みを覚えてくれなかったとかそこかしこに見えてた。

それでも、彼女は母親と同居の家にいたくなかったし、僕も彼女が必要だから一緒に住んでた。

彼女が僕の部屋に来て以来、僕らの間に人に言えない秘密はおろか、共有できるものはひとつもなかった。愛の言葉を交わすこともなく、冗談言い合って笑い合うこともなく、時間を忘れて語り合うこともなかった。

いつも彼女と一緒にいたかった僕に反して、彼女は好きなものを買い、好きな時間に食べ、好きな仲間と好きな場所へ出かけ、遅くまで帰らず、気がつくと僕の傍で寝息を立てていた。

2ヶ月前のあの日、僕はもっと敏感になるべきだった。実家に帰ってみる、と言った彼女を見送った。でも、彼女は家じゃなく別のアパートに潜り込んだ。

もっと居心地のいいベッドがある場所へ。。

それきり彼女は戻ってこなかった。それから僕は彼女を積極的に探すでもなく、どうしようもなくただただ戻ってこないかな、と一縷の望みを捨てきれず待つだけだった。

たとえ僕が懸命に彼女を探して取り戻そうとしても、彼女は嫌がるだけだったと思った。自由にさせてくれる僕を彼女は気に入ってたんだから。

僕もこれ以上彼女に嫌われたくなかったんだと思う。

一昨日、偶然会った彼女の親友Kから彼女の結婚を聞いた。

あの子も母親も随分結婚を急いでたのよね。で、結局再来週末に決まったみたい。

二週間後?何でそんなに急ぐ必要があったのかな

そんなの理由は一つに決まってるじゃないの

それが本当なら、きっとそいつとは僕の元から去る前から付き合ってたんだな、と理解した。

彼女の結婚相手は僕の全く知らない人だった。というのも、僕らより1回り年上の男だったから。彼女はどこで彼に出会ったんだろう。彼女は彼のどこに魅力を感じたんだろうか。

週末の朝、散歩がてら彼女の実家へ行ってみた。家の前に大きなトラックが止まっていて、引っ越しの最中だった。僕はしばらく傍で荷物がトラックへ運ばれていく様子を見つめていた。ちょっと呆然とした感じで。

家の中では数人の女性の声が聞こえている。ここにいればもしかすると彼女に会えるかな、と期待もしたが、10〜20分ほどしても出てくる気配がないので、僕は踵を返してうちに帰った。

どのみち会っても彼女もバツが悪いだろう。

パン屋に寄り、八百屋で果物を少し買ってアパートに戻った。玄関に友人のCが立っていた。

珍しいなぁ。どうしたのこんな休日の朝に。いつもなら昨晩の酒が抜けなくて寝てる時間だろw。

うん?まあね、ちょっと近くにきたから寄ってみたんだ。

Cと彼女は知り合いで、Cの結婚式で僕らは出会った。

僕とCは部屋に入り、コーヒーを淹れ、僕は買ったパンで遅い朝食にした。

最近どう?家族は元気?

うちは問題ない。世帯を持つと前より遊べなくなるけど、それでも楽しく過ごしてるよ。

同じ年でも、Cの方が僕より独立した人間に見える。互いの近況からCが重々しく切り出した。

彼女のこと、、、聞いた?

うん、今週Kに会ったんだ。彼女が教えてくれたよ。。。彼女、妊娠してるみたいだね。

うん、、彼女はそう言ってる。真偽の程は男の俺たちにはわからないよな。

彼女は嘘は、、つかないよ。。。

そ、そうだよな。その、、相手に会ったことはあるのかい?

いや、全く知らない。彼女はうまく隠してたね。僕は本当に実家に帰ったのだとばかり思ってたんだもの。

当時、正直俺らはお前が彼女にどうしてそんなに夢中になるのかがわからなかった。とりわけ美人なわけではないし、頭がいいわけでもない。育ちだって、あの母親の、、だろ。。いずれお前が彼女を捨てるとばかり思ってたんだ。

予想外れでごめんよ。僕が捨てられちゃったよ。。。

あいつに会った時にちゃんと事情をお前に説明するように強く言ったんだ。辛抱強くお前と接していたんだからな、って。

そんなこと、彼女は聞く耳持たなかったろ?いいんだよ、彼女が決めたんだ。それに彼女に言い訳をさせる気はないんだ。

Cは深くうなづいた

別れ際までCは僕を気遣った。いつでも話を聞く、また一緒に飲みに行こう、とかそんな感じで。出会ったきっかけはCだけど、ここまで責任感じなくてもいいのにと思った。

付き合い出したら2人の責任なんだから。


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彼女の結婚は僕の知らないところで進んで行った。そして、その結婚はどこかで破綻したんだと風の噂で知った。

また彼女の気まぐれか?と思ったが、噂では彼女は相手の男に放り出されたんだそうだ。彼女は今度こそ実家に戻って母親と暮らしているという。

今月初旬、僕は彼女の実家に再び足を運んだ。夕暮れ、閉まったドアは夕日で赤く染まっていた。2階の窓をふと見上げると、かすかに窓が開いていて、彼女が遠くを見ていた。

見慣れた顔だった。僕の話をうつろに聞いている時の表情だ。彼女はきっと今何もかも空っぽなんだろう、と感じた。

ほんの数分だった。彼女は僕に気づくこともなく、間も無く窓を閉めてしまった。窓ガラスに夕陽が反射してそれ以上は彼女を見ることができなかった。

結局、彼女は妊娠はしていなかった。嘘でも何でもなく、彼女がそう信じ込んだんだと思う。子供がいるなら、と母親が相手の男に詰め寄って結婚を求めたが、妊娠していないことがわかり、それまで金の無心までしてきた母親を嫌っていた男は、彼女に結婚の中止を求め、彼女を実家に帰したのだという。

それ以来、彼女は家から出て来ず、誰とも会いたがらないのだそうだ。

僕は、この男はもともと彼女を愛してなかったんだな、と思った。そして、彼女は初めて自分が誰かから否定されたショックを知ったんだと思う。

僕は胸が締め付けられたが、僕にここでできることはひとつもない。

同時に、

今一人でいる僕は、彼女と過ごしていた時の僕となんら変わらないんだとあらためて感じた。彼女と一緒でも所詮僕は一人だったんだな、と。

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 今日のお話は、私の「人生の相棒」から言われた言葉をベースに作ってみました。

結婚がもう決まった時点なのにも関わらず、なぜか相棒は私がまだ彼を愛している確信が持てずにいました。私は、一人の年数が多くw、ふと空想の世界に入り込んでぼーっとしちゃうんです。それを相棒は、「元彼のことを思い出してるんだ」と思っていたそうです。(実際は、自分の身長ぐらいのソフトクリームを食べたり大きな鳥の背中に乗って飛行機を追い抜いている自分とかを想像してるに過ぎないのですがw。)

そしてある日、「僕といる時には、頭の中を僕でいっぱいにしてよ!」と懇願されました。言われてることにピンと来なかったので、

「それはできないよぉー、あははのは」

と冗談で返すと相棒はすっかりうなだれてしまったのでした。もちろん、今となっては、彼のいう意味がわかります。そして、空想は別の時間にして彼の話に集中しています。内容はつまらないのですがw、一点に私の目を見つめ話す相棒の愛情が伝わります。愛されること、そしてそれに気づくことは自分の救いになるな、と。

最後まで読んでくださってありがとうございました。




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