She's very apprehensive

私の知り合いはとっても心配症だ。

心配の種は二人の子供。もともと子供を溺愛していて、まるで「ヘリコプター•ペアレント」の様だから、やめた方がいいと忠告した事がある。
彼女の子供たちはもう、大学生だ。

「もういい歳なんだし、放っておけば良いじゃない?」

でも彼女は聞く耳なんか持ちやしない。正直ドラッグや暴力、犯罪などに手を染めなければ、あとは何をしてもいいじゃないかと思う。子供にだって自由に生きる権利がある。けれど彼女は自分の寂しさから、二人をコントロールすることをやめられずにいる。自分の抱える寂しさがどれだけ大きなものかにも気づけないほど、何かが麻痺しているように私には見えた。

おととい、どうしても話を聞いて欲しいと言うから、一緒にゴルフのラウンドに行くことにした。私の夫は彼女の事が大嫌いなので、「あんまりお人好しすぎるんじゃないよ」と何度も念をおす。その昔、夫は彼女と大喧嘩をした。揚げ足をとる彼女に対し、夫はぶちきれた。公衆の面前でキレる夫も夫だが、そこまで彼女がエスカレートしたことにも驚いた。

解っているよ。
本当は彼女と会って欲しくないんでしょ?

もともと彼女は常に問題を多く抱えがちな人。友だちが多くて社交的で、人好きする私の夫とは全くそりがあわない。しかも頑固すぎて誰かの助言など聞かないクセに、他人への批判や愚痴がやめられない。とにかく「自分の人生は大変」アピールがウザイのだ。幸せになりたいと思わないのだろうか? 一旦全ての人間関係を取っ払い、新しい空気をぶちこんでみたいとか、思ったことないのかなあ。。
いや、彼女から全てのストレスを取り払ってしまったら、誰も相手をしてくれず、余計に病気になるだけだ。

久しぶりの彼女とのラウンドは気持ちよかった。２時間ほど体をみっちり動かした後、クラブハウスでお茶をすることにした。ラウンド中、彼女は一言も愚痴をこぼさなかった。

カフェの席に向かい合わせで腰をおろし、カフェ•ラテを注文した。

「息子さんたち、元気?」

私がそう切り出すと、彼女の目にはみるみるうちに涙が溢れはじめ、体がビクビクと痙攣し出し、下を向いたまま嗚咽されてしまった。

しまった。変なボタンを押してしまった。
きっと何か大変な事が起きたのだろう。。
ドキドキした。

聞くと、上の息子さんが去年婚約者と別れ、そこから少しおかしくなったと教えてくれた。恋人は愛想をつかし、一緒に住んでいたアパートを飛び出した。26歳だというのに息子は未だ大学生で、卒業もできそうもないのが別れの原因。大学をやめて就職するよう勧めると、癇癪を起こし、自殺を繰り返しほのめかしてきたという。

今若い人たちの間では特に、コロナ鬱が流行っている。ドイツだけでなく、たぶんあちこちの国でそうだ。そして精神科はどこもパンク状態。半年前にやっと予約が取れたのに、その精神科の医者との相性が悪く、息子さんの状態はそこから更に悪化した。

お兄ちゃんの悪化を受け、だんなさんは仕事を理由に、家に近寄る事がなくなった。下の息子さんはアパートを借り、実家からそっぽを向いたきり。母親に協力せず、自身の大学生活を満喫している。きっと彼なりに、自分自身がおかしくならないよう必死なんだと私は思った。彼女ができたそうだが、二人揃って実家に遊びに来た事はない。せめて時折顔ぐらい出してくれたら、母親は安心するんじゃないかなあ。そしたらきっと家族はもうちょっと上手くいってたと思う。

だんなさんは外資系で働き、彼女は薬剤師として自分の薬局を持っている。ネットで薬が買える時代だから、薬局の経営は大赤字。だんなさんは給料カットされたが、今まで長男の大学の費用を払ってきた。これからもずっと、払い続けるつもりだろう。

彼女がどうしていつもこんなにコントロールフリークだったのか、ようやくわかった。ずっとずっと、一人きりで闘ってきたんだ。どんなに苦しかっただろうか！表面的なことだけで判断してしまって、本当にごめんね。。

来週もまた、一緒にラウンドに行く約束をした。
私にはそれぐらいしか、できないよ。
何の知恵もない。

これから、もっともっと鬱の人が増えていくのだろう。
そして、その周りの人は、もっともっと振り回されていくに違いない。

自分が振り回されず、しっかりと元気でいること。
干渉しすぎず、境界線を持ちつつ、でもどうやって手を差しのべてあげるのかよいのだろう?
これからの家族のあり方って、どうあるべきなんだろう。家族が、子供が鬱病になったら、家族はどうしたらいいんだろう。。。

何だか母親として、人間として、考えさせられてしまった。

人生って、難しいね。