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企業の人格を捉えるためのブランド・アーキタイプ:導入編

企業やブランドを12種類の「人格」になぞらえるフレームワークである「ブランド・アーキタイプ」。平たくいえば、対象を人物に例えることでより包括的にそのブランドが持つ印象や特徴をポジショニングするための手法です。最近ではウェブ記事も多く散見され、特にグローバル大企業やto C向けの事例を引き合いに語られることが多いこの手法ですが、この記事では一般的な意味について、続編となる「実践編」ではto Bのプロジェクトにおいての有用性と利用法について紹介します。

ブランド・アーキタイプの一般的な意味

アメリカの著名なマーケティングコンサルタントであるマーガレット・マークと、英文学博士のキャロル・S.ピアソンにより20年ほど前に提唱され、80年代の米国広告業界で使われていた「ブランド・パーソナリティ」という概念を、心理学の大家であるユングが提唱したアーキタイプという概念と結びつけることでより普遍的に活用できるようにしたものです。大企業をクライアントに持つ欧米のコンサルティング会社やPR会社等によりブランディング戦略構築の一環として取り入れられており、日本では以下の書籍が翻訳されています。

ブランド・アーキタイプ戦略 THE HERO AND THE OUTLAW 驚異的価値を生み出す心理学的アプローチ
マーガレット・マーク (著), キャロル・S・ピアソン (著), 千葉 敏生 (翻訳)

この本の中にも紹介されていますが、世界のさまざまな神話の中には本質的な人間の欲求に応える優れた物語のパターンが偏在しているといいます。情緒的で定性的なブランドの特性は、それらの性質から曖昧な議論になりがちですが、定性的かつ客観的な観点からも裏打ちされたブランド・アーキタイプという「型」を用いることで、社内外、立場、時代を超えた議論がしやすくなります。

「人格」という言葉が、ブランド・アーキタイプにとっての大きなポイントです。ブランドパーパスやフィロソフィーにおける「発言者・発信者(ブランド自体)」の輪郭を描き出すことで、「発言・発信(メッセージ)」の背景がより深く洞察できると考えられます。さらに、そのブランドの「人格」は、消費者にとっての「意味」を表します。モノに溢れた現在、消費者にとっての「意味」とは、そのブランドが消費者にとってどのような存在価値を有しているか、ということを表し、多くの選択肢の中から選ぶための拠り所となります。

書籍では、ブランドの「意味」をマネジメントするシステムは存在しなかったと説かれています。ディレクターやクリエイターの主観、ワークショップで突発的に発見された「ひらめき」に依拠するなど、論拠に乏しいものが多く存在していた中で、これがはじめて提唱された「意味管理システム」であるともいわれています。

これまでマーケティングにおけるイノベーター理論では、消費者が5つに分類され、感度の高いアーリーアダプターからマジョリティへとブランドやモノが拡がっていくとされていましたが、SNSなど情報摂取が変化したことにより消費者は特定の指向性でより細分化(トライブ化)しています。そのため、最も大事なことは、そのブランドを愛用するトライブのアーキタイプと照らし合わせながら、そのブランド自身のアーキタイプを見定めていくこと、といえます。

12のアーキタイプ

それぞれのアーキタイプが示す「人格」が与える「意味」は、消費者の「動機」の基になります。12種類のアーキタイプは、根源的なそれぞれの「動機」に帰属しており、以下のように人間の根源的な欲求に基づく4象限にまとめられます。

「安定/制御」= 安心感を抱く
「帰属/楽しみ」= 愛情やコミュニティを手に入れる
「支配/リスク」= 成功する・成し遂げる
「自立/自己実現」= 幸せを見つける

それぞれのアーキタイプの役割と意味

安定/制御 = 安心感を抱く

01 創造者(Creator) :新しいものを作り出す
02 援助者 (Care giver):他者を助ける
03 統治者 (Ruler):統制力を発揮する

帰属/楽しみ = 愛情やコミュニティを手に入れる

04 道化師(Jetseter):楽しむ
05 一般大衆 (Every man):ありのままでいい
06 恋人 (Lovers):愛を見つけ、与える

支配/リスク = 成功する・成し遂げる

07 英雄 (Hero):勇敢に行動する
08 無法者 (Outlaw):ルールを破る
09 魔術師 (Magician):生まれ変わりを促す

自立/自己実現 = 幸せを見つけられる

10 幼子 (Innnocent):信じる心を保つ・取り戻す
11 探検家 (Explorer):自立を保つ
12 賢者 (Sage):世界を理解する

“12 archetypes”で画像検索してみると、大企業を例に分類した例を見つけることができます。例えば、探検家(Explorer)なら、アウトドアブランドであるThe North Face、創造者(Creator)としてはイノベーティブな製品を生み出すアイデンティティを確立しているApple、一般大衆 (Every man)としては手に届く商品を豊富に提供し安心感を与えるイメージのIKEAなどを例に挙げるとイメージが湧きやすいのではないでしょうか。自社と競合他社を振り分けてみるだけでも興味深い作業になります。それぞれのアーキタイプの具体的な性質についてご興味があればぜひ書籍を読んでみてください。

ここでポイントなのは、この12型にきっちりと当てはめる必要はない、ということです。もちろん、その純度が100%に近づくほど、輪郭がくっきりとした求心力のある強いブランドと言えますが、多くのブランドはいくつかの類型の特性を内包しているものです。例えば第一想起される特性(プライマリーアーキタイプ)は道化師ですが、そこには第二想起される特性(セカンダリーアーキタイプ)として援助者の要素も20%ぐらい含まれていそうだ、といった具合です。このように、12型を基本としながらも、ブランドが持つ特性をそれぞれの性質に照らし合わせることで、より深く捉えることができるようになります。

次の記事では、実践編としてどのように利用するかについて事例を交えながら説明していきます。

*実践編は2024年4月23日時点未公開

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