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Vol.10 出版社の思いと作者の思い~その接点と際にあるもの~

 出版不況のこの時代、新人が世にでるハードルはかなり高い、というのが実情。だからこそ、みな、こういった賞を足がかりとして出版を実現させたいと考え、賞に応募する訳ですよね。
 
 一方、出版社としては、賞の開催は才能ある新人を発掘する場になるというメリットがあります。しかし、何の実績もない新人を売り出すというのは、出版社にとっては大きな賭け。数多くの作品の中から、いったいどれを大賞に選ぶのか。とても難しい判断になると思います。でも、だからこそ、自らの見る目を鍛え、原石を見極める力を磨くことが、真の編集者の仕事であると私は考えています。
 
 しかし、現実的には、中身や内容うんぬんよりも「売れるかどうか」が基準となっているケースの方が多いのが実情でしょう。出版社も商売ですから、それもある意味、仕方のないことかと思います。
 実際、絵本出版賞の提携出版社である、みらいパブリッシング社のHPでも、企画出版(=全費用を出版社が持つ)の条件として、「SNSのフォロワーが1万人以上いる」、「自分のコミュニティを持っている(オンラインサロン、Youtubeチャンネル、セミナーやスクールの開催、大学教授歴任など)」、「自分で自ら100冊以上売る見込みがある」の3条件をすべて満たすこと、と明記しています。つまり、それ以外の作品に関しては、費用負担や販売協力が必要、ということです。
 私はこれを目にした時、「こんなことをハッキリ書くなんてすごいな」と思いました。だって、「うちは中身 < 商売 の出版社ですよ」と宣言しているも同然ですから。
 
 出版賞の話に戻すと、では、大賞、審査員特別賞の2作品とそれ以外の作品とは、実際、作品自体の内容やレベルにどれほどの差があるのか、というのが1つの大きなポイントになるでしょう。この賞の審査員達が選んだものが、世間的にも必ず評価されるとは限らない訳で、主催者側は「甲乙つけがたく、みんなに賞をあげたかった」等と簡単に言いますが、片や無料で出版、片や100万前後の費用がかかる、というのは、応募者にとってはかなり大きな差になります。
 
 私が一時はその気になりかけたものの、その後、この出版社に強い抵抗を覚えた理由はここ。このかなり大きな金額差をサラッとかわして、明るい未来ばかりを提示したり、実際にはかなりの費用を負担して本を出した人を「絵本作家になるまでの道のり」といったサクセス・ストーリーに仕立てて宣伝に利用していたことでした。
 本を出した人達が、「絶対に絵本作家になる」とか「絵本作家になりたい」という表現をやたらと使っていたのも気になった。だって、自分でお金を出して、実際には完全に赤字にもかかわらず、本を作っただけで「絵本作家になった」と言えるのでしょうか?
 
 それでもいい、とにかく自分の作品を本にしたい、という人にとっては、ここから出版するメリットはあると思います。世間的には「受賞作として“出版化推薦”されて本になった」と言えるし、一応、「絵本出版賞から生まれた作品」として、まとめて宣伝もしてくれますから。そして、もしその本が売れれば、次につながるチャンスもあるかもしれません。ある意味、自分への投資ですね。
 でも一方で、内情を知っている人達には、「ああ、あれだけのお金払って本にした人なのね」とクールに見られてしまうということは認識しておいた方がいいと思います。


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