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ティファニーブルー#2

海に繋がった橋の下では潮風が吹いている。
5月の上旬の夜はまだ寒い。時計の針は18時52分をさしている。飲み会の集合時間8分前だがまだ誰も来ない。
―――山下のあいつ幹事だろ…
山下に誘われた飲み会に参加するメンバーの名前はLINEグループで見たが、顔が一致していない。正直山下が早く来ないときつい。僕が知っていることは、今日の飲み会に参加する男女は6人で比率は2:2。僕と山下を除いた男性は同じ経済学部の同期で山下の友達らしい。女性3人で知らされていることは文学部であることだけだ。しかし、まぁ。誰もいない中やることもないので川を眺めることにした。

「私、この川の潮の香りと水の動きが結構好き。あと、ウミネコもいいよね~。水かきしてる姿がかわいい」

下を向いていたせいで、人が近づいているのに全く気付かなかった。しまったと思いながら顔を上げると、セミロングの女性が立っていた。もしや、いや。もしやしなくても僕が知っているあの人だ。

「え、あみさんですか?」
「ん、私の名前知ってるの?」
「あ、いやぁ…えっと、そう。同じ講義を受けていてこの前教授に名前呼ばれてたのを聞いて!親戚の子と名前が同じだったから覚えてたんですよ~~」
自分でもよくわかる見事な焦り方と嘘だ。それにしてもなぜ、あみさんが今僕の目の前にいるんだろうか。今日の飲み会には参加しないはず…
「そっか。実は友達が熱出して頼まれたから穴埋めで出ることになっちゃって。」そう言って首を少し傾げ、微笑んだ。水色のピアスが揺れた。

「たけるとあみちゃーん!!!ごめんこっち~!!!」
橋の反対側から山下の大きな声が響いた。近くには参加者らしい4名がいる。

安堵と同時に潮の香りがした。



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