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subaruphoto2002
雨
会社員
「雨にうんざりする
今日も雨、明日も雨
明後日もきっと降るだろう
靴は濡れるし一日暗い
週末のテニスはキャンセルときた
梅雨どきに楽しみなどひとつもないよ」
苗
「つまんで、挿されて
わたしはいま泥水の上
濁った田水はやがて澄んで
空を移す鏡となる
とめどなく降り注ぐ雨
わたしはそれがたまらなく嬉しい」
店主
「不機嫌そうな人も
そうでない人もみな
ひとしく足元を濡らしている
コーヒーを入れるとほら
店内に香りが染み渡る
雨の日はなおさらさ、いいね」
ダム
「降り注げ、降り注げ
俺の上にたんと降れ
昨年の干ばつでは
俺は丸裸にされた
あれほどの屈辱もない
さあ休むなひたすらに降れ」
幼児
は、ひたすらに踊る
水たまりの上を楽しげに跳ねる
踏み抜く水のやわらかさに
押し上げられ飛び出す水しぶきに
軽やかな歓声をあげる
雨
「わたしははじめ、
どこにいたか?
気づけば雲であり
気づけば氷塊であり
気づけば地上に降り注いだ
しかめっつらをする男
波紋せわしない田面
濡れた靴、傘、コーヒーの香り
傲慢なダムと、
はしゃぐ幼児
(ふんと鼻息ひとつ)
わたしは誰にも等しいさ
誰にも等しい
気づけば雲であり
気づけば氷塊
そして地上に降り注ぐ
わたしは誰にも等しいさ
誰にも等しい
(ふんと鼻息ひとつ)
*おわり
おともの音楽:John Batiste, ”ADULTHOOD”
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