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会社員
「雨にうんざりする
 今日も雨、明日も雨
 明後日もきっと降るだろう
 靴は濡れるし一日暗い
 週末のテニスはキャンセルときた
 梅雨どきに楽しみなどひとつもないよ」


「つまんで、挿されて
 わたしはいま泥水の上
 濁った田水はやがて澄んで
 空を移す鏡となる
 とめどなく降り注ぐ雨
 わたしはそれがたまらなく嬉しい」

店主
「不機嫌そうな人も
 そうでない人もみな
 ひとしく足元を濡らしている
 コーヒーを入れるとほら
 店内に香りが染み渡る
 雨の日はなおさらさ、いいね」

ダム
「降り注げ、降り注げ
 俺の上にたんと降れ
 昨年の干ばつでは
 俺は丸裸にされた
 あれほどの屈辱もない
 さあ休むなひたすらに降れ」

幼児
は、ひたすらに踊る
水たまりの上を楽しげに跳ねる
踏み抜く水のやわらかさに
押し上げられ飛び出す水しぶきに
軽やかな歓声をあげる


「わたしははじめ、
 どこにいたか?
 気づけば雲であり
 気づけば氷塊であり
 気づけば地上に降り注いだ
 しかめっつらをする男
 波紋せわしない田面
 濡れた靴、傘、コーヒーの香り
 傲慢なダムと、
 はしゃぐ幼児

(ふんと鼻息ひとつ)

 わたしは誰にも等しいさ
 誰にも等しい
 気づけば雲であり
 気づけば氷塊
 そして地上に降り注ぐ
 わたしは誰にも等しいさ
 誰にも等しい

(ふんと鼻息ひとつ)

*おわり


おともの音楽:John Batiste, ”ADULTHOOD”

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