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薬指の法的効力についての思考 vol.1

『ジュンキョウセイセイコウトウザイ』

いっそ、ぶっ殺してもらえばよかった。

優はそんな物騒なことを考えながら家でひとりカップラーメンを啜る。

殺すまでいかなくても、傷害事件くらい起こしてもらって
愛しの元彼が大怪我して、夫は刑務所にでも入って
わたしは菓子折り持って元彼の家に行って
彼の奥さんに菓子折り投げつけられてビンタとかされて。
土下座とかするのかな。した方がいいのかな。

おー、すげぇ、昼ドラじゃん。

まるで他人事のように考えて、昨晩夫から聞いた話に
思いを巡らせる。

優には精神疾患がある。
相手方がその事実を知った上で、つまり正常な判断ができない状態と
わかっていて、性行為に及んだ場合、
レイプと同等の罪が成立する。

ジュンキョウセイセイコウトウザイ。

呪文みたいだなと優はその話を聞いていた。

そして優が元彼を刑務所にぶち込もうと思えば、
時効が成立する今から10年の間、その権利を行使して
社会的にぶっ飛ばすことができるんだそうだ。

夫が傷害事件や殺人事件を起こさなかったので
実は我が家の方が密かに、刑事的に有利な状況となっている。

…アホくさ。

そんなこといつの間にか調べてる執念深い夫にもうんざりだし
夫があわよくばわたしが元彼を刑務所送りにすることを
期待してそうな空気を感じて辟易した。

夫のこういうところが頼もしいと思うと同時に
いつまでも妻を寝取られた恨みで動き続けてることに
女々しさを感じて本当に嫌だった。

セックスレスの原因を作ったくせに被害者ぶって。

優は、夫にたびたび、ほぼ無理やり性行為に付き合わされていた。
まったく虚しい行為だった。
レイプならお前もやってんだろ。
ジュンキョウセイセイコウトウザイの話を聞きながら
優は婚姻制度ってクソだなと、民法に喧嘩を売っていた。
夫婦間でもレイプは成立するだろうにな。

そしたら夫は『準』すらつかない、強姦罪だ。

婚姻制度に守られながらレイプする男が
精神疾患といえどもお互い好き合ってセックスした
その相手方を何のやましさもなく断罪するのを
滑稽だなと思ったのだ。

「あのときはマジでぶっ殺してもいいとすら思った」

と言った口が、法律の知識を身につけて
わたしの手を使って相手を陥れようとしているのを感じた。
自分の手は汚さずに相手を社会的に殺すような。

夫のこういうところが本当に嫌いだ、と。

だから殴ったり殺したりはお前がやればよかったんだよ。


空になったカップラーメンの容器を雑にゴミ箱に捨てた。
それまでの思考を放り投げるように。


倍にして返すくらいの文章を書くよ!!!!!