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第5回「アウルフターネス妖精事件とは何だったのか」連載|謎多きアイスランド 妖精と民俗文化ルポ(小川周佑)

旅ライター小川周佑氏による連載「謎多きアイスランド 妖精と民俗文化ルポ」。今回は第5回目の記事です。



たとえ起こった事実が一つでも、それに対する解釈、感想が当事者間や、外野の人間の間でも全く異なるケースというのは我々の日常にも数多く存在する。

レストランに入って1500円のパスタを注文したとして、それを高いと捉える人もいれば安いと捉える人もいるし、品質の割にこんなに安いと捉える人もいれば、もっと美味しいパスタがもっと安く食べれる店を知ってる、と言い出す人もいるだろう。そして「これが1500円なんて高すぎる!」とXとかに投稿した日には、何も関係のない人間から「そうだそうだ!」と金切声を上げながら同調する声や、「これに難癖つけるなんてあなたの品性がおかしいんじゃない?」と何やらわかったようなことを物申す人が出てきて事態が紛糾する…なんてことはテーマの手を替え品を替え何回も何回も繰り返されてきた。

この連載の第1回の記事でも紹介し、『ロンリープラネット』にも掲載されていた、アウルフターネス−ガルバザイルの新道路建設における「妖精事件」は、まさにその様相を呈していた。まずもってそもそも事件が起こった年度からして解釈が分かれているらしく、「ロンリープラネット」では2014年と記載されていた事件は、実際には2013年に起こっていたという。

「国際的ニュース」となっただけあって、インターネットにも今でも当時の多くの記事が残っている。

https://www.theguardian.com/world/2013/dec/22/elf-lobby-iceland-road-project

当時の英文報道はいろいろあるが、全てを列挙しても混乱するだけなので、それらの記事を読む限りは「共通した事実」と思われる事件の時系列をここに記す――。

アイスランド妖精事件

レイキャヴィーク中心地から南西2km ほどに存在する半島アウルフターネスは、美しい溶岩台地・ガウルガフロインを抱えていたが、2013年、レイキャヴィク近郊のガルザバイルと半島を結ぶ新道路建設のため、溶岩台地の一部が破壊されることに。これに対して地元の市民団体・フロイナヴィニール(英名:フレンズ・オブ・ラヴァ「溶岩の友」) が抗議した。さらに、道路の計画上には「妖精の教会」が存在し、新道路建設はこの「妖精の教会」を破壊してしまい、妖精の安寧な生活を損ねるとして、団体の構成員が現場で座り込みなどの抗議活動をした。結果25人の逮捕者が出る騒ぎとなった。

これをもう少し整理すると、少なくとも
・アウルフターネス半島に美しい溶岩台地があったこと
・新道路建設のためにそれが破壊されてしまうこと
・それに対して市民団体が抗議したこと
・「妖精の教会」が破壊されそうになり、それに対しても抗議が起きたこと
・最終的に25人もの逮捕者が出たこと

はどの記事を読んでも事実に思える。
「ロンリープラネット」には、「妖精の家」と紹介されていたが、インターネット上の記事を見る限り道路の計画上に存在していたのは「妖精の教会」であることは間違いのないようだ。

ただ、解釈が分かれるのが、「地元の市民団体は、何のために抗議し、逮捕されたか」というところだ。
記事によっては、「妖精擁護の側に立つ圧力団体がアイスランドの道路工事プロジェクトを阻止」なんてセンセーショナルな見出しをつけているのもあるし、それに対抗するような形で「アイスランド人によると、『妖精擁護の側に立つ圧力団体』というのはでっち上げだ」なんて見出しの記事も出ていたりする。

やはり、アイスランドの人たちとしては、「妖精を信じてる」なんて思われたくない節があるのだろうか? それともマグヌスが言っていた「実際に妖精を観たことがなくても、どんなアイスランド人でもこういった目撃談を知っている」という話は眉唾物で、あの雑居ビルの中の小さな教室の中だけで通用するルール、言説だったのだろうか?

その真相を確かめるには実際の当事者に話を聞いてみるしかない。

妖精事件の当事者は何を語るのか

日本からfacebookのメッセンジャー経由でコンタクトを取り、連絡が取れたのは以下の人たちだった。

・Tinna Þorvalds Önnudóttir(ティナ・ソルヴァルズ・エンヌドッティル(1985~) 「フレンズ・オブ・ラヴァ」のメンバー
・Gunnar Örvarsson((グンナル・エルヴァルソン)(1967~) 「フレンズ・オブ・ラヴァ」のメンバー。アイスランド到着後、ティナに紹介してもらう
・Gunnsteinn Ólafsson(グンステイン・オーラフソン)(1962~) 「フレンズ・オブ・ラヴァ」前委員長
・G. Pétur Matthíasson(G.ぺトゥル・マシアソン)(1960~)アイスランド交通局広報担当局長

今回は「抗議をした側」「抗議をされた側」双方の話を聞くことにした。一方的な立場からだと、どうしても事件に対する印象や意見は傾いてしまいがちだと思われるし、対立する両方の話を聞くことで思いもよらぬ事実や共通項が見出せるかもしれないと思ったからだ。

マグヌスの教室を出て、ついに現実の「妖精の生きる世界」に足を踏み入れることになる。そこにはどんな事実が待っているのか。(第6回「妖精事件:当事者の環境保護団体メンバーに聞く」に続く)



文/小川周佑(写真家・ライター)



過去連載記事
第1回「日本語文献がほとんどない“アイスランドの妖精”に興味を持った理由」
第2回「いざレイキャビクへ 妖精学校なるものに入学してみた」
・第3回「ティンカーベルとは程遠い!?アイスランドの妖精目撃談」
・第4回「妖精学校校長に聞く:なぜあなたは妖精を信じるのか?」


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