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PEOPLE1の歌詞を読み解く②〜さよならミュージック〜

PEOPLE1の歌詞は意味深で、ちょっと難しい。
彼らは何を歌うのか、それを考察するのがこのシリーズ。詳しくは前回の記事を見てほしい。

前回はシリーズの目的を解説する内容だったが、第2回となる今回から実際に歌詞を解読していく。

今回読み解くのは「さよならミュージック」だ。

2019.12.26にYoutubeで公開された曲で、最初期の作品と言っていいだろう。
(そもそもPEOPLE1自体が最近のバンドなのだが、、、)

”さよならミュージック”は彼らの曲の中でも、かなりわかりやすい。
歌詞は以下の通り。

<さよならミュージック 歌詞全文>
笑い者になる前に 君に別れを告げるよ
街は華やいで 雲一つないこんな夜だから

さよならミュージック 僕はただ君の友達に
さよならミュージック 僕はただ君の友達に

白か黒かの世界じゃ まるで僕は馴染めないのさ
溺れる前に見た海は あんなに美しかったのに

さよならミュージック 僕はただ君の友達に
さよならミュージック 僕はただ君の友達に
なりたかっただけ
なりたかっただけ

さよならミュージック 僕はただあまりにも平凡で
さよならミュージック 僕はただ退屈なヤツだった

さよならミュージック 明日の朝 誰かに聞かれても
さよならミュージック 僕はただ知らないことだと
嘘をついてみせるよ

結論

先に結論から述べる。時間がない人はここだけ抑えてくれれば問題ない。

この曲で歌われていることはひとつ。
自分は音楽にふさわしくないから音楽を諦めます」ということだ。

PEOPLE1の曲からは、"自分は音楽が好きだけど音楽の才能はない"というコンプレックスが随所に見て取れる。

それが最もわかりやすいのが”さよならミュージック”である。
タイトルからして音楽に別れを告げる曲だ。

もっとも、音楽に別れを告げるといいながらも彼らは音楽をリリースしているので、ここでいう”音楽”は"自分が理想とする音楽"と考えるのが良いだろう。

音楽に別れを告げること。
ひいては、自分の夢や理想を諦めること。
この考え方は、"フロップニク"や"ゴースト"や"常夜燈"でも出てくるので抑えておく必要がある。

では、歌詞をより細かく、1行ずつ見てみよう。

分解・分析

ちょっと長くなります。

笑い者になる前に 君に別れを告げるよ

ここで言う「君」とは”音楽”のことだろう。
"さよならミュージック"というタイトルのとおり
「別れを告げる」対象は「ミュージック(=音楽)」だからだ。
そして別れの理由は「笑い者になる」から。

その理由は2通りの考え方ができる。
①自分が笑いものになると君に迷惑がかかるから別れる
②君といると笑いものになるから別れる

おそらくだが②の方が正しい。
①の自分が笑われると君(=音楽)に迷惑がかかるというのは理屈が通らない。
音楽は迷惑を感じたりしない。

逆に②であれば意味が通じる。
社会人になり年をとっても駅の高架下や道端で音楽活動を続けていると「いつまでそんなことをやっているんだ」と笑われてしまう。

だからその前に音楽に別れを告げて大人になる。

つまり「いつまでも音楽をやっているとバカにされるから、悲しいけど音楽やめます」というのがこの部分の意味。

ちなみに、歌詞に「君」と出てくると途端に恋人との恋愛を歌っているんだ!と誤解する人もいるがそうではない。
「君」が人間以外を表すことはよくある。
例えば星野源の"POP VIRUS"にも"「音の中で君を探している」という言葉が出てくるが、恋愛を歌った歌ではなく音楽に対する気持ちを歌った歌だと2021/9/7放送のラジオ「星野源のオールナイトニッポン」の中で述べている。

街は華やいで 雲一つないこんな夜だから

音楽との別れを考える自分とは対象的に、華やぐ街と雲ひとつない空の様子が語られる。
ここでは自分と街(=街の人々)を対称的な存在として考えたい。

音楽を続けて笑い者にされそうな自分。
自分はこんなに苦しいのに街は明るい。
街の人は夢を追いかけて苦しむことなく楽しそうに生きている。という対比をしているのがこの部分。

さよならミュージック 僕はただ君の友達に
さよならミュージック 僕はただ君の友達に

「さよならミュージック」は文字通りの意味。
「僕はただ君の友達に」も文字通り。
音楽は軽い気持ちで始めたもののいつの間にか自分の中で大きな存在になっていた。

少し深読みすると、「音楽に別れを告げることに罪悪感を感じている」という感情も読み取れる。

人が「僕はただ・・・」なんて言うときは決まって言い訳をするときに他ならない。そして言い訳をするのは、自分が悪いことをしているという自覚があるからだ。

白か黒かの世界じゃ まるで僕は馴染めないのさ

ここは少し難しい。「白か黒かの世界」とはどんな世界か。
この歌詞の中で出てくる世界は2つ
①音楽の世界
②音楽と別れたあとの世界(=華やいだ街の世界)

おそらく②の方だろう。
②は物事を白と黒ではっきりと分ける合理的な世界。
①の音楽の世界が馴染めない世界なら、音楽との別れはむしろ嬉しいことになるはずだ。

溺れる前に見た海は あんなに美しかったのに

「溺れる前に見た海」とは、一つ前で述べた①音楽の世界のことだろう。

そして音楽の世界へ足を踏み入れた「僕」は、いま音楽に別れを告げようとしている。

一見美しく見えた海は、入ってみたら溺れてしまった。
なぜ溺れてしまったかはこのあとの歌詞で解説する。

〜中略〜
さよならミュージック 僕はただあまりにも平凡で
さよならミュージック 僕はただ退屈なヤツだった

溺れてしまった理由はここにある。
つまり「平凡で」「退屈なやつ」だったから溺れてしまったのだ。

残酷な話だが、音楽の世界は誰でも生きていける世界ではない。
才能があって、努力を重ねて、人に認められないと生きていけない厳しい世界だったのではないだろうか。

多くの人はそんな厳しい現実に気がついて、音楽で生きていこうなんて夢は早々に捨てている。
しかし「僕」は諦めきれずにいる。
だから「笑われる」のだ。お前はいつまで夢を見ているんだ、と。

さよならミュージック 明日の朝 誰かに聞かれても
さよならミュージック 僕はただ知らないことだと
嘘をついてみせるよ

もう多くを語る必要はないだろう。
音楽という夢と別れを告げ、明日からは知らないふりをして嘘をつくと宣言する。

決して「いや〜実は僕は昔、音楽やってたんすよwww」なんて茶化すことはできない。

なぜなら、音楽のことが好きで、真剣だったから。
そんなふうに茶化してごまかすことは昔の自分を茶化すことであり、余計に自分を傷つけてしまう。

知らないふりをしてやり過ごすことしかできないのだ。

まとめ

総じて、この歌ではつらい現実を歌っている。
夢や憧れを持った「僕」が、現実の壁にあたって夢を諦める話。
そして、この考えはPEOPLE1の他の歌にも通じる考え方だと思う。

面白いのは、夢を諦めることで前に進もうとしていることだ。
つらい歌なのに、前向きな内容になっている。
ここがPEOPLE1の独特なところだと思う。

これが私の出した結論だが、別の解釈もありうると思っているので是非意見があれば教えてほしい。

次回はどの曲にするか決まっていないが、
PEOPLE1にとって重要な「大人になること」「大人になれない自分」をテーマにしたいと思っている。

もしかしたら、一つの曲を深堀りするのではなく、
いくつかの曲から共通した部分を抜き出して解説するかもしれない。

追記:第3回はこちらから


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