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▶︎スコーンと憧れのティータイム

いつの頃からか、私はアフタヌーンティーに憧れるようになった。サンドイッチにケーキ、スコーンにマカロン。さまざまなスイーツがスタンドに積み重ねられ、紅茶とともに楽しむそのひとときへの憧れは、私の心にずっと居座り続けた。

ジャズなどの優しい音楽が流れる空間で、スイーツを楽しむ。「五感で楽しむ」という表現があるけれど、アフタヌーンティーはまさに、眺めるだけでも幸せな気持ちにさせてくれるもののひとつだといえる。

そんな私は1度だけ、憧れのアフタヌーンティーを楽しんだことがある。

たった1度。

「憧れは、憧れのままがいい」とはよく言ったもので、見るだけで幸せをくれたスイーツたちは、私のお腹に入った途端に喧嘩を始めた。それはもはや幸せと満腹感との闘いでしかなくて、私の胃は満腹感に全く太刀打ちできなかった。これでは、優雅に紅茶を楽しむどころではない。その瞬間、私はそっと、アフタヌーンティーを「憧れ」の引き出しから抜き去った。

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最近、アパートから車で5分ほどの距離に、小さな紅茶専門店があることを知った。

「ここは、紅茶を楽しむお店です。スイーツのみを楽しみたい方は、別のお店をご利用願います」

入り口の看板にはそんなメッセージが認められ、初めて訪れたときには、紅茶を楽しむつもりで来た私ですらゴクッと唾を飲み込んでしまいそうになった。「紅茶はコーヒーに比べて、どこかハードルが高いイメージがある」と、以前誰かに言われたことがあったけれど、きっとこれを見たら「やっぱりね〜!」なんて言われてしまうに違いない。

そうはいうものの、ひとたびお店の扉をくぐれば、そこには温かな雰囲気が広がっている。木を基調とした店内には、ケーキやスコーンを焼いたときのほんのりとしたバターの香りが漂っていて、店主の女性がにこやかに出迎えてくれた。

こだわりぬいて選ばれたであろう紅茶の中から、私はダージリンの2ndフレッシュをチョイスした。メニューにはプレート式のアフタヌーンティーセットなるものが用意されていたが、私はそれに目もくれずスコーンを2つ注文する。

そうして出逢ったのが、スコーンの相棒であるクロテッドクリームである。

クロテッドクリーム(英: clotted cream、コーンウォール語: dehen molys)はイギリスの乳製品。全乳を蒸気や水浴で間接的に加熱し、浅い鍋に入れてゆっくりと冷やした濃厚なクリームである。 【Wikipediaより引用】

生クリームとは違い、温かいスコーンの生地にじんわり溶け込んでいくクロテッドクリーム。甘すぎないその味は、私をさらに虜にした。

なにこれ…、なにこれ!!!これがあればスコーンを無限に食べれるかも…!

もちろん、簡単にティースタンドのケーキたちに白旗を挙げた私が、そんな無謀な闘いを挑めるわけがない。お皿の上の2つのスコーンをペロッとお腹に収めた私は、ゆっくりとお腹の余白にダージリンティーを流し込んだ。

店主がこだわるだけあって、このお店のダージリンティーはとても美味しい。茶葉が良いのか、淹れ方が良いのかは分からないが、これまで私が飲んできた紅茶とは何かが違うのだ。

幸せな時間。

紅茶と、ほんの少しのスコーン。ティースタンドいっぱいのスイーツなんてなくたって、そこには想像以上のひとときが待っていた。

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