掌編「空洞」(247文字)

夕暮れのさびしい山道、一人の武士がふらふらと歩いている。
そこへ覆面をした侍があらわれた。
「死んでもらおう」
「辻斬りか。相当、腕に自身があるな? 生きる目的があってうらやましい事だ。拙者にはそれがない……」
武士は刀を構えた。
「しかし、今、お主を倒すという目的ができた。感謝する」
言葉が終わらぬうちに、覆面の侍は襲い掛かってきた。
激突する二人、そして覆面の侍がゆっくりと倒れる。
刀をしまいながら、武士はひとりごちた。
「また、生きる意味がなくなった」
そして、また山道をふらふらとゆっくり降りて行った。

(了)

BGM
小泉今日子「空洞です」(ゆらゆら帝国カバー)
https://www.youtube.com/watch?v=0nl95jcM-kM

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?