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コンサルティングサービスの機能的価値と意味的価値

モノやサービスの提供価値を考える際に、機能的価値と意味的価値という分類があります。マーケティングの本にはほぼ必ずと言ってよいほどこの機能的価値と意味的価値の解説が出てきます。

この機能的価値vs意味的価値という構図は、「消費財」のマーケティングの文脈で語られることがほとんどです。しかし、コンサルティングサービスのような「生産財」においても、機能的価値vs意味的価値という構図はあります。

実際、延岡健太郎さんという経営学者が最近出版したキーエンスを分析した本でも、生産財における機能的価値と意味的価値の概念について1章を割いて解説をしています。

キーエンス 高付加価値経営の論理 顧客利益最大化のイノベーション | 延岡健太郎 |本 | 通販 | Amazon

コンサルティングに携わる者としては、この機能的価値と意味的価値の両方を意識してクライアントに価値提案、価値提供をしないといけません。

そこで今回の記事では、コンサルティングサービスにおける機能的価値と意味的価値とは何なのか?、機能的価値の提供に加え意味的価値の提供がなぜ重要なのか?といった点について私見も交えてまとめてみたいと思います。

財の機能的価値と意味的価値

財の機能的価値とは、モノやサービスの実利的な価値です。

身近な「衣服」という財を例にとってみましょう。衣服の機能的価値は、「寒さを防げる」「風通しがよい」「体にフィットする」「肌ざわりが良い」「丈夫で長持ちする」といった価値です。

一方で、意味的価値とは「実利的ではないが、何かしら顧客に主観的に価値を感じさせる要素」です。

同じく衣服を例にとると、衣服の意味的価値とは、「デザインがかっこいい」「色がかわいい」「このブランドはクールだ」「芸能人の〇〇さんもよく来ているブランドだから私も真似して着たい」といった価値です。

消費者が何かしらの「意味」をその商品やサービスに感じ、その意味に満足し、効用を得るのが意味的価値です。

衣服に限らずあらゆる財に機能的価値と意味的価値の2つの価値の側面があります。その価値のバランスは財によって様々です。

例えば、水や電気のようないわゆるコモディティは、その価値のほとんどを機能的価値が占めています。しかし意味的価値が全くないかと言われればそうではありません。水であれば「〇〇産のミネラルウォーターだからおいしそう、体によさそう」といった意味的価値が、電気であれば「再生エネルギー由来の電気を使うことは、エコで社会のためになる」という意味的価値があります。

次に「財布」という商品の場合はどうでしょうか。現金やカード類をコンパクトに収納するという機能的価値はもちろんありますが、どちらかといえば、デザイン、素材、ブランドといった意味的価値が価値の大きな割合を占めます。

このように、機能的価値と意味的価値のバランスは、財によってばらつきがありますが、そのバランスは時代によって変わっていくという側面もあります。このことは山口周さんの本で良く主張されていますが、近年は機能的価値から意味的価値へと重心が移りつつあります。機能的価値にはある種の天井があるため、経済の成熟化に伴い頭打ちになりつつありますが、意味的価値は無数に存在するため、相対的に意味的価値の比重が増してきているということです。

コンサルティングの機能的価値と意味的価値とは?

ここからはコンサルティングというサービスの機能的価値と意味的価値について考えてみます。

冒頭書いたように、機能的価値VS意味的価値という構図は生産財にもあります。なぜかといえば、生産財も購入者、使用者は「人」だからです。生産財を購入するのは法人ですが、それは契約者が法人というだけでのことであり、生産財の購入の意思決定者や使用者は「人」です。最終的に人が使うものなので、消費財と同じく、機能的価値に加え意味的価値が生まれます。

したがって、コンサルティングサービスという生産財に対しても、その使用者=クライアントは、機能的価値と意味的価値の両方を感じます。

それぞれの価値が具体的にどのようなものなのか、以降で説明しましょう。

 コンサルティングの機能的価値

コンサルティングサービスの機能的価値はシンプルで、一言でいえば「問題解決」です。クライアントは、何かの問題や課題に悩みコンサルティングファームを雇います。そのため、悩みの対象の問題や課題が解決されることがコンサルティングサービスの機能的価値と言えます。

例えば、「コスト削減が必要だが、自分たちでやりきれない」という課題に悩みコンサルを雇う場合は「コスト削減の実現」が機能的価値になります。

また「新規事業が自分たちでうまく進められない」という課題に悩みコンサルを雇う場合は、「筋の良い新規事業プランを立案しその事業開発を進めてくれる」が機能的価値になります。

 コンサルティングの意味的価値

機能的価値に対して意味的価値はもう少し複線的というか重層的です。
大きく分けると以下の3つの意味的価値があるとアップルは捉えています。
(1)ブランド価値
(2)エンタメ価値
(3)人材育成価値

(1)ブランド価値

消費財の意味的価値の代表的なものはブランドです。「ヴィトンのバッグを持ってる私ってイケてる」という”意味”に高いお金を払うわけです。このように、購入・使用するブランドに対して意味的価値を感じることは、コンサルでもあります。

コンサル業界でもっともブランドがあるファームと言えばマッキンゼーということになると思いますが、マッキンゼーを起用しているファームが、マッキンゼーを使っていることに「すごいだろ、うちの会社はマッキンゼーを使ってるんだぞ」という意味的価値を感じるというものです。

「え、そんなことあるの?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、アップルの感覚では少なからずあります。具体的なエピソードとして、アップルもかつてあるクライアントのプロジェクトオーナーの役員から「〇〇本部はxx社さん(競合ファーム)を使っているが、うちは△△社さん(アップルが所属するファーム)を今後も使っていこうと思っている。引き続きよろしく頼む」と言われました。この発言がコンサル起用の意思決定者に一定程度ブランド選択の意識があることを象徴していると思います。

(2)エンタメ価値

クライアントが「xx社さんと一緒に仕事をすると楽しい」とか「ためになる、勉強になる」とか「刺激になる」と感じる価値です。ここではこれらの意味的価値を総称して「エンタメ価値」と呼びます。

経験上、このエンタメ価値はコンサルティングファームにとってかなり重要な価値だと捉えています。この価値を感じてもらえるようになると、プロジェクトが長期化すると同時に、多少のへまをしても炎上にならないです。値引き圧力もなくなります。

一方で、コンサルティングのクオリティ=機能的価値が優れていたとしても、このエンタメ価値が弱いとクライアントと今一つ深い関係になれない感覚をもっています。

したがって、アップルも、このエンタメ価値をどのように高めるかを提案の段階からそして日々のデリバリーの中で考え実践しています。

(3)人材育成価値

プロジェクトを一緒に遂行するクライアントのメンバーの人材育成という価値です。一般にプロジェクトの成果物に人材育成は明記しないため、クライアントメンバーの人材育成は、機能的価値ではなくそこから派生する意味的価値と捉えるのが自然です。

人材育成に悩んでいない経営者は誰一人いないと言えるほど、人材育成はどの会社にとっても大きな経営課題です。したがって、コンサルティングファームとの協働を通じて人材育成が進むと、プライスレスな価値を感じてもらえます。

この人材育成価値を創出するために大事なのは、「コンサルファームだけでやらない」ということです。コンサルタントだけで問題解決を進めてしまうと、クライアントメンバーの育成になりません。クライアントメンバーにも論点やタスクを振りながら、二人三脚でプロジェクトを進めるという体制をとる必要があります。

力量が未知数なクライアントメンバーを巻き込むことは、一定のリスクをはらむため躊躇するシニアもいますが、アップルは「クライアントのリソースを使わせていただけるなら儲けもん」という発想でどんどんプロジェクトに参画させて、人材育成のきっかけになることを意図しています。

オンリーワンのファーム・コンサルタントになるためには?

以上、今回の記事では、コンサルティングの提供価値にも機能的価値と意味的価値の両面があることを解説しました。機能的価値を発揮することはもちろんのこと、意味的価値をあの手この手で訴求することがコンサルファームのPM以上には求められると思います。

特に重要なのが、意味的価値の訴求です。

コンサルティング業界も成熟化が進む中で、機能的価値はコモディティになりつつあります。消費財で起きていることと同様、機能的価値から意味的価値へのシフトが起きつつあるのではないかと感じます。これからは意味的価値をうまく乗せながら支援できるコンサルタントがこれまで以上に求められるのではないでしょうか。

また、機能的価値は他ファームでも代替可能ですが、意味的価値の代替はできません。意味的価値でクライアントの心を掴めば、クライアントにとってオンリーワンのファーム、コンサルタントとなり、プロジェクトは長期化し、コンペに巻き込まれることもなくなるでしょう。

今回はここまでです。
最後まで御覧いただきありがとうございました!



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