見出し画像

戦略コンサルのスマイルカーブ

戦略コンサルタントのアップルです。

今回は戦略コンサルティングサービスでもスマイルカーブが成り立っているということを頭の整理もかねてお話します。戦略コンサル志望者の方や戦略ファームのジュニアの方にはヒントがあるかもしれないのでぜひご覧ください!

スマイルカーブとは

スマイルカーブは古典的なコンセプトです。ご存じの方はたくさんいらっしゃると思います。横軸にバリューチェーンや事業プロセスを、縦軸に利益や付加価値をとったとき、上流と下流は付加価値が高いが中流は付加価値が低いという構造を示したものです。

スマイルカーブ

スマイルカーブの構造は、最初電気電子産業において発見されたようです。パソコン、家電などの製品ではこの構造が成り立つとされています。逆にすべての産業でスマイルカーブが成り立つわけではありません。製造業の中でもスマイルカーブが成り立たない業種があるかもしれませんし、サービス業ではそもそもバリューチェーンが上記のような研究開発→設計→製造→・・・と全く異なる上、上流と下流に付加価値が集中するとは必ずしも限らないでしょう。

例えば、匠の技に基づく和食料理、例えば寿司などは、バリューチェーンの中流、すなわち「職人の鮨を握る技術」が最も付加価値が高いでしょう(もちろんネタの良さ(上流)、店の雰囲気や接客(下流)も重要ですが)。つまり、飲食業界においては必ずしもスマイルカーブが成立しないと言えます。

スマイルカーブという概念は手垢が付いているため、最近ではあまり聞くことがない気がしますが、
・ある産業のバリューチェーンにおいてどこに付加価値がたまりやすいのか
・その理由はなぜか
を考えることは戦略策定や事業企画においてはとても大事だと思います。

戦略コンサルティングサービスのスマイルカーブ

このようにスマイルカーブについて思いを巡らせると、ふと、「はたして戦略コンサルティングサービスではスマイルカーブは成立しているのだろうか?」という疑問がよぎります。

結論、スマイルカーブは成立していると思います。考察してみましょう。

スマイルカーブを描く上でまず、戦略コンサルティングのバリューチェーンを設定する必要があります。これについては以下のように設定するのが妥当です。

1.論点設定
クライアントの課題やイシューを特定し、それをもとに論点を設定する

2.仮説構築
論点に対する答え仮説を作る

3.仮説検証
その仮説を検証するための調査、分析、検討を行う

4.メッセージ化
仮説検証された論点に対する答えをクライアントに対するメッセージに昇華

5.デリバリー
ドキュメンテーションとプレゼンによって効果的にクライアントにメッセージを伝える

実際にこの5つのステップ(バリューチェーン)を経て戦略コンサルティングのサービスは顧客に届けられています。

この5ステップを横軸にとり、どの工程が付加価値が高いか/低いかのイメージを図示したのが下図になります。アップルの感覚に基づく絵ですが、実際にこのようなスマイルカーブになっていると考えています。

スマイルカーブ2

図中に青字で「なぜこうした構造になっているのか」を端折って書いていますが、ここについて少し詳しく説明しましょう。

 上流:論点設定、仮説構築

論点思考や仮説思考というのは熟練度が求められます。どんなクライアントのイシューや問題に直面しても安定して論点構造に落とし、仮説を立てることは腕と経験が求められます。論点分解の基本パターンをいくつか使いこなしたり、アナロジーから仮説を着想したりする必要があるからです。

つまり、論点設定や仮説構築を的確にできる人には希少性があります。戦略ファームでも入社して1~2年の人の多くはまともにできないです。少なくとも3年選手以上から、ようやくできるようになってきます。希少性があるからこそ付加価値が高いというのが一つの側面です。さらにその背景には「暗黙知が求められる」ということがあります。論点設計や仮説構築は、暗黙知の技なので、他人に言語化して伝えるのが難しいです。本やマニュアルを読んで手っ取り早くできるようなものではなく、経験を積む中で徐々に血肉化されていくものです。

暗黙知のかたまりだから、希少性が高い。
希少性が高いから、付加価値が高い。

上流工程はこのように特徴付けられます。

 中流:仮説検証

いわゆる調査分析の工程です。愚直に調べたり、エクセルを回して定量分析することで、仮説が正しいかを検証していきます。この工程が最も労働集約的です。コンサルがハードワーク(長時間労働)と言われるのも、この工程に時間がかかるからです。

しかし、この工程の付加価値は相対的に低いです。なぜなら、(上流工程と異なり)形式知化しやすく、誰でも少し訓練を受ければできるようになるためです。端的に言えばだれでもできるから付加価値が低いわけです。

例えば調査。データソースを熟知したり、効率的な調査方法を体得するまでに多少の訓練は必要ですが、基本的には誰でもできるようになります。エクセルについても、超高度な技はさておき、一般的な表計算ソフトとしての利活用(関数やピボットテーブル)は概ね誰でもできます。

 下流:メッセージ化、デリバリー

検討結果に基づきクライアントに効果的に提言を伝えるのがこの工程になりますが、ここも付加価値が高い工程です。なぜなら、顧客に効果的に提言するためには、
・①見せ方や伝え方の工夫が必要で、それには一定の熟練を要する
・②クライアントとの信頼関係構築がベースとして大事
だからです。

①は上流工程と同じような話です。洗練されたスライドを描き、効果的な言葉でクライアントに提言するのには一定の熟練が求められます。

②は時間がかかります。大企業の社長・役員などの幹部と信頼関係を構築するには、人対人の付き合いで時間をかける必要があります。提言というのは「何を言うか」に加え「誰が言うか」が大事です。同じ言葉でも、信頼している人が言うのとそうでない人が言うのとでは10倍くらい重みが違うでしょう。

①と②が合わさってはじめてコンサルティングサービスの価値はしっかりと届きます。①(熟練)と②(信頼=時間)が合わさる必要があるからこそ、この工程も希少性が高くなるわけです。

ファームの中での役割分担

このスマイルカーブと、戦略ファームの中での役職別ミッションとはきれいに対応しています。

役割分担

つまり、役職が高くなるほど付加価値の高い工程を担う構造になっています。

では相対的に付加価値が低い工程を担っているアソシエイトやアナリストが付加価値を高めるためにはどうすれば良いでしょうか?もちろん、与えられた工程(ミッション)をきっちり手堅くやるのがまず大事になります。ただ、その工程をいくらきっちりやっても、付加価値が大きく高まるとは限りません。

スマイルカーブが示唆することは、自分がミッションとして負う中流工程からはみ出しにいくことによって付加価値が非連続に高まるということです。上流にはみ出しにいくか、下流にはみ出しにいくかの2つの戦い方があります。

ジュニアの戦い方

まず上流へのはみ出し。論点や仮説をマネージャーなどから与えられる前に自ら作れるようになればその分付加価値が高まります。論点思考、仮説思考を先んじて徹底的に磨きにいくということです。論点思考や仮説思考が弱いうちは、上流工程で上司の力をうまく使うことのもありでしょう。上司の知恵を積極的に借りながら、能動的に論点や仮説を進化させていく。この動きをするかしないかで全然付加価値は変わってきます。

次に下流へのはみ出し。これは端的に言えばクライアントに近づくということです。常駐プロジェクトではこの戦い方がやりやすいでしょう。パートナーやマネージャーが掴む前にクライアントのニーズや情報を掴むことができれば、それ自体が大きな価値ですし、イニシアティブも取りやすくなります。

どちらのはみ出し方をするかは、プロジェクトの性質や自身の特性によるでしょうが、どちらかにはみ出しにいこうとするのがとても大事ですし、そうこうするうちにマネージャーっぽい動きに勝手になってきて昇進も近づくのではないかと思います。最も良くないのが中流の「作業マシーン」に甘んじてしまうことです。手間がかかる割に付加価値が低いので、疲弊するリスクが高いです(実際、ここに甘んじて疲弊し、疲れて辞めていくコンサルタントは多数います)。


今回は以上です。
製造業だけでなく、コンサルのようなサービス業でもスマイルカーブが成り立つことがご理解いただけたのではないかと思います。

ご自身の属する業界に当てはめて考えてみるのは一定の意味があるのではないかと思いますので、興味を持たれた方は考えてみて頂ければと思います。
<考える上での論点>
・属する業界はどういうバリューチェーンで成り立っているか?
・バリューチェーンのどの工程の付加価値が高いか、低いか?
  -スマイルカーブは成り立っているか?
・その付加価値分布となっている背景にはどういう要因があるか?


最後までご覧いただきありがとうございました!



この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?