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iPhone 12Sが存在しない理由〜iPhone 13のデザイン〜

Sモデルを超えるも、14への壮大な助走だったかもしれない

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モデルチェンジの周期

iPhone 13シリーズは、従来のiPhoneのモデルチェンジの周期からすれば、iPhone 12Sと呼ばれるはずのモデルです。ところが実際にはiPhone 13として登場しました。その理由は何かというのを切り口にしてiPhone 13シリーズのデザインを考えようと思います。

くどいかもしれませんが、iPhoneのモデルチェンジを振り返ってみましょう。

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初代iPhone発売の翌年のiPhone 3Gからは、3G→3GS、4→4S、5→5Sと続き、iPhoneのアップデートは2年周期が定着しました。
そこから6→6sときてこの流れが続くかと思いきや、6を踏襲した7が登場してiPhoneは3年周期になったと考えられています。
そこからさらにX→XS→11と続き、そしてiPhone 12シリーズから始まる次の3年周期が始まりました。

iPhone 13は、12→13→14という流れの中にあり、3年周期の中間にあります。
普通なら12Sになるはずです。

Sを避けたいApple

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身も蓋もない話ですが、AppleはSモデルにすることを避けたかったはずです。
スマートフォンの進化が遅くなり、iPhoneの買い替え周期も長くなってきているなか、Sモデルを登場させれば、買い控えるユーザーがさらに増えてもおかしくありません。
その意味でSモデルを避けたのは、マーケティング上の理由が大きいであろうと思うわけです。

とはいえ、名前だけSを避けて誤魔化したわけではありません。
メジャーアップデートとしての実質はある程度あるように思います。

これまでSモデルの名を冠したモデルは、外観上の変化がほとんどないモデルでした(アンテナラインが変更されたり、Touch IDのリングがホームボタンの周囲に搭載されたりといった変化はありましたが、一見すると同じ見た目です)。

その観点から見ると、iPhone 13シリーズはカメラユニットがアップデートされ、ノッチも小型化しており、外観が変化しています。
これは、11から12への変化ほど大きくはありませんが、6Sから7くらいの変化はあるのではないでしょうか(異論も多そうですが)。

ノッチのデザイン

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iPhone Xで搭載されたノッチは長らくサイズが変わりませんでしたが、ついに小型化されました。
Face IDの技術自体、前身であるKinectと比較すれば大幅な小型化に成功しており、そこからさらに小型化するのはかなり難しいものであったと思われます。

従来機と比べてかなり小さくなっています。
毎年iPhoneを買い替えている私としてはノッチの小型化はそれなりに満足感がありました。

ノッチはアイコニックではあるものの、デザインとしては、無くせるなら無くした方がいいという微妙な立ち位置ですから、小型化は歓迎すべきものです。

しかし、全画面で動画や写真を見る際には邪魔が減っていいかもしれませんが、普段の使用感で言えば、ノッチの両サイドに表示される情報は増えておらず、ユーザーにとってどれほど実質的な意味があったのか疑問が残ります。

カメラユニットのデザイン

大型化に見合う性能向上

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ハイエンドスマートフォンの市場における競争はカメラの競争になっています。iPhoneもその競争からは逃れられません。

iPhone 11シリーズとiPhone 12シリーズを比較すると、端末の外観に大きな変化があったのとは裏腹に、カメラユニットの形状には大差がありませんでした。
一方、iPhone 13シリーズでは外観全体での変化が乏しい代わりに、カメラユニットが大型化しました。
特にPro系モデルのカメラユニットの大型化が顕著です。私が使っていたのはProモデルですが、写真のレベルが一段上がったように感じます。

また、レンズは3つのままですが、超広角レンズを使ってマクロ撮影もできるようになりました。使い勝手としてはレンズが一つ増えたようなかたちです。

無印系のモデルでも、広角カメラのセンサーをiPhone 12 Pro Maxと同等のものにするという大きなアップデートが施されています。

このように、カメラユニットの大型化には、それに見合うだけの実質があります。
今となっては見慣れたものですが、発表当時は大きなインパクトがありました。

しかし、製品のデザインとしては綻び出てきているように思います。
Sモデルの話からは逸れますが見ていきましょう。

デザインの綻び

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iPhone 11から続くカメラユニットのデザインを最初に考えたのはジョナサン・アイブであると言われています[1]。
iPhone XSまでは2つのレンズを縦長に配置していましたが、これがiPhone 11 Proで3つに増えた際、これをどう配置するかという問題が生じました。
当初はiPhone XSにならって縦に3つ並べるデザインが予定されていました。
これに対して、ジョナサン・アイブは四角形のベースの上に三角形にレンズを配置するデザインを提案しました。

その後、このデザインに代わるものは登場せず、Appleはこのカメラユニットをそのまま大型化することを続けてきました。

もちろん、ただ大きくてきたわけではなく、非常に細かい調整を行なっているようです。

Wallpaper誌によるAppleについての特集記事の画像では、Appleのデザインチームがミーティングしている(様子を再現した?)写真が載っています。
それを見ると、カメラユニットの内部パーツを拡大した模型が置かれていることが分かります。Appleのデザインチームは、現在でも筐体内部におけるカメラユニットの配置についての権限を持っており、より良いデザインの検討を続けているようです。

https://www.wallpaper.com/design/apple-park-behind-the-scenes-design-team-interview

また、iPhoneのカットモデルを用いてカメラユニットのデザインを検討している様子もあります。

https://www.wallpaper.com/design/apple-park-behind-the-scenes-design-team-interview


レンズをふち取るリングの太さやフラッシュライト部分の形状、LiDARモジュールのサイズ等を検討しているようです。

このように、Appleはセンサーの配置から装飾的な部品の形状やサイズまで、入念にデザインしています。

カメラユニットの部分は、Appleの製品画像でもアピールされており、新しいiPhoneを特徴づける要素になっています。
美しくデザインされていると思います。

しかし、やはりPro系のカメラユニットは大きすぎます。

もともとはカメラユニットを左端に寄せることで、カメラユニットそのものを主役にしないデザインでした。それが、いつの間にかカメラユニットは肥大化し、今では中央に配置されたAppleロゴよりも目立ってきています。

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このデザインの行き着く先は、TecnoのPhantom X2じゃないの?となってしまいます。

これはこれで面白いのですが、デザインとしては破綻しています。ここまでカメラユニットを大きくするなら、それに適した異なる外観が与えられるべきです。

もちろんPhantom X2に比べれば、iPhone 13 Proのカメラユニットのサイズなんてどうと言うことはないのですが、綻びが出てきているように思います。

iPhoneがこれから採用しそうなカメラのアップデートは、1インチセンサーとペリスコープレンズあたりでしょうか。
どちらもユニットが大きく、カメラユニットの外観にも大きな影響を及ぼすと思われます。

iPhoneにはMagSafeシステムが搭載されており、このシステムとの干渉を考えると、高さ方向でのカメラユニットの大型化は限界が近いように思えます。

そうすると、今度は横方向への大型化を模索することになりますが、現状のカメラユニットデザインの傾向を維持したままで破綻なくまとめるのは難しいのではないでしょうか。

14を見てから振り返ると

最近記事を書くのをさぼっているので、iPhone 13の記事を書かないうちに14が出てしまいました。
iPhone 14シリーズを見てからiPhone 13を振り返ると、その位置付けがはっきりしてきます。

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本記事では触れていませんが、iPhone 13 Pro系にはリフレッシュレート120Hzのディスプレイが搭載されています。リフレッシュレートを動的に変化させてバッテリー消費を抑えることが出来ましたが、リフレッシュレートを下げられるようになったことで、iPhone 14では常時表示ディスプレイに進化しました。

カメラユニットも(Pro系は特に)iPhone 12から大きく変化しましたが、iPhone 14でのさらなる巨大化に向けて、iPhone 12との変化の差を埋めるためのものだったように思えます。アニメの中割のような感じで。

実用上のプラスがほぼなかったノッチの小型化も、Dynamic Islandに向けた助走であると考えれば、納得できます。

このように、単なるSモデルを超える実質はあったとはいえ、iPhone 14と比べると結局のところ、iPhone 14に向けての助走であったにすぎないような気がしてなりません。
技術検証や量産体制の構築に役立ったかも知れませんが、iPhone 14で出すべきアップデートを切り分けて小出しにした感は否めません。
あるいはiPhone 13の時点で出せる機能だけを出したというべきでしょうか。

[1]トリップ ミックル (2022)『AFTER STEVE アフター・スティーブ 3兆ドル企業を支えた不揃いの林檎たち』 ハーパーコリンズ・ジャパン https://a.co/5Bn7iQX

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