２つのマジック・リアリズム。

マジック・リアリズムは、シュルレアリズムの突つけば死ぬような内的亡命的な性質を、現実に引きずり上げ、自身の内面から目を上げる。
この場合、現実の方が現実のまま夢と化す。
ガルシア・マルケスのマジック・リアリズムは新たな生活を予感させる原始の終わりだが、
ユンガーのそれは中世ではいられなくなった暮らしの終わりそのものであり、これは創世と黙示録、平時と戦時の違いと言える。
なぜならば、ガルシア・マルケスのマジックリアリズムが単なる戦後であるのに対し、エルンスト・ユンガーのそれには、新たな戦前が含まれているのだ。

これは、ガルシア・マルケスにしばしば消失のモチーフが現れることに顕著となる。
百年の孤独では最後のアウレリャノは、物語を読み終えることで自己を喪失させるが、
消えたアウレリャノの消息は、都市の表現の抽象化ならばシュルレアリズムの前夜となり、即物的にもなりえれば、神話と切り離された市民の誕生とすればそのまま市民の匿名性と接続するなど、一切の戦後的な表現の発生源となる。
しかし、そのシュルレアリズムは、現実と内面との融解それ自体が行為の代替となるため、内面化した内面の外側を持たず、現実が内面化の材料に過ぎなくなるため、内的亡命のための認識形態としては、隠遁と差がなくなるのであり、
そのため、マジックリアリズムは絵画のようだが、実際には文学的な認識であり、それ自体が現実そのものを夢とするため、シュルレアリズムのように絵画化できないのであるが、
ユンガーのマジックリアリズムにおいては、いかなる読後においても、絵画的、または表現に至るはずのシュルレアリズムへの逃げ道が塞がれている。
これは、ガルシア・マルケスが消失そのものを描き、読者はこれを追体験したのに対し、
ユンガーが第二次世界大戦を経験し、国家の消失の前線で、理念の喪失そのものを目撃したからであり、
内的亡命を語るシュルレアリストの安部公房が、ガルシア・マルケスのマジックリアリズムを好意的に評せたのは、
彼の満州における故郷喪失がいわば戦争の後衛に属していたため、ガルシア・マルケスが持つ読者的な消失の追体験の感覚に親和性が高かったからで、
マジック・リアリズムの影響下で、マジック・リアリズム的に象徴的機能を持つ架空の町マコンドを日本に輸入したために、故郷を発見し、故郷を発見したことで重宝されて終わったのが中上健次なのだろう。
そして、アウレリャノの消失は、これは歴史の偶然によるものだが、ガルシア・マルケスに賞を与えた連合国の市民の現実と一致し、呪いのように、自らを語ることで自らを語れなくなり、同時に、語れたはずの己を国民精神として語れなくし、道徳を伴う理性的な態度である限り続く自己疑念に至っているが、
国内のユンガー読者にも問題があり、それは、彼を参考に隠遁を待機にすげ替えたところで、誰のために闘うのかが不在であるため、
彼らは彼らで、国民を越えたところの他者としての国民を、存在論的に発見する必要があるのだが、しかし、この現実において、彼らはむしろ、その発見される他者そのものとなり、引き続き、平時の方を異常事態とするしかないのではないだろうか。