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映画「フィリップ」を観て

これは、宣伝されているような単純な復讐映画ではないし、ちょっと悲しい恋愛モノとかでもない。

ついでに、そこばっかりセンセーショナルに取り上げらているけれど、NTRモノでもない。

あくまで主人公の「社会に極端に抑圧された、わりと極限の状況であっても自分の中の何かは消せないし、命がけになると頭では分かっていてもその「何か」を表現するために何かせずには居られない」衝動を強調したシーンであって、その人間の根本に流れる「何か」と衝動が描きたかったのではないでしょうか。

夢とか恋人とか家族とか国籍とか、自分の大切なもの全てとアイデンティティが突然、1ミリの躊躇もなく奪われて「これからどういう気持ちで生きていったらいいのか分からない、それでも生きていかなければならない」という主人公の心情ははものすごくよくわかるし、この映画がよく分かんなかったとか言ってる人はあんまり理不尽な体験のない人生なんだろうなと思う。

そしてそんな状況でも恋をして、人間が持つ自然な感情が育っていくのはすごく尊い事だと思う。
なのに、主人公はなぜせっかく手に入れた愛をわざわざ手放すようなことをしたのか。

これはまさに、「永遠の0」で最後に生還できる飛行機に乗らなかったように、LOTRの最後でフロドがせっかく帰れたホビット庄からわざわざ出ていくように、

一度戦ったもの、死に取りつかれてしまったものは表面的に見える以上に魂に傷を負って、その人の中の何かは永遠に損なわれてしまうし、そうなるともう元の自分には戻れなくて、人間的な生活に順応することは難しい。

だから、あそこでリズと無理やり駆け落ちしたとしても、その先では(精神的な意味で)幸せになれないし、リズのことも幸せ出来ない。そう悟って、あえて突き放したのだと思います。

自分が1ミリも望んでいない戦いで色んなものを失っていって、元の自分も取り戻せず愛にも耐えられない。
悲しいけれど、人間の真実の一つだと思います。

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