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初投稿45【違和感の向こうで】

先月またコロナ陽性の患者さんが出て、
一気に広がった。

感染対策が十分でなかったからだ。

抗原検査とPCR検査が陽性だろうが陰性だろうが、
高熱と風邪症状があっという間に広がった。

心臓が弱い患者さんはあっという間に悪化して転院先で亡くなった。

明らかにこれは病棟での対策が不十分だったからだと思う。

とは言え、日夜ゾーニングに関係なくいつも通り、病棟中や部屋を行き来する患者さんもいて、防ぎようがない側面もあった。
改善できるところは色々ある。

先月末にそれは収束したけれど、
その高熱と風邪症状、呼吸器症状の影響で体力やADL(日常生活動作)の落ちている方が増えた。
中でも高齢者への影響は大きい。

昨日の夜勤でも、また1人亡くなりそうな患者さんが出た。

たまたま院長が別病棟に休み返上で来てたので、診察後、ご家族へ連絡してもらった。

数日前からこまめに病状は伝えていたので(というか主治医が連絡する気がなかったので促した)
すぐに事態を理解してくださり、患者さんの最期に立ち会う事を希望された。

患者さんのご家族が看取りに立ち会うのは、
僕がここで働いてきた約6年間で初めての事だ。

どこの精神科でも、
もしかすると同じかもしれないが、
患者さんは家族に看取られる事なくこの世を去る方ばかりだ。

身寄りのない方もいれば、長期入院でご家族ご親戚と疎遠になっている方もいる。

ほとんどは、直葬センターへ直行だ。

先々月に転院先で亡くなった方は、遺骨の引き取り手がいないため、火葬後は骨も残らなかったそうだ。
その話を聞いてショックだった。

ご遺族が遺骨を引き取る事もある。
以前、働いていた精神科では、宅急便で遺骨を配送希望されるご親族もいた。
大変驚いた。

それはさておき、
その方はもともと自立して精神症状も落ち着いていて、元気だった。
ところが、主治医が変わり処方が変わって、
精神症状が悪化した。

隔離になってそれが長期化。
発熱をきっかけに寝たきりの廃人状態になり、
オムツになり、口から食べられなくなって、
とうとう経管栄養になった。

その方と僕は同じ腕時計を付けてて、
たまに談笑して穏やかなひと時を過ごした事もある。

彼は大学中退後、就職し、
半ば心を壊してしまった方だ。

精神科を転々とし、入院先で知り合った女性から結婚詐欺に遭い、全財産を失った。

社会復帰をする気は全くなかったけれど、
また大学に行くんだと、いつも資料を集めていた。
結局は行動を起こさずじまいだったけれど、
他人に暴力を振るうようなこともなく、基本的に知的で穏やかで職員や患者さん達とも良好な関係の方だった。

そんな人が元通りの人格に戻ることはなく、
どんどんおかしくなっていった。

最期は骨も残らない末路となった。

さすがに辛かった。
涙が出た。

こんなことは繰り返されてはならない。
どの病院で、どの医師に治療を委ねるかで
人生がある日突然、一転する。

そんな事が、
人知れず起きているだろう。

働いていると、心が麻痺していくのは分かる。
自分の信じていた常識が崩れそうになる時もある。
こちらの心が壊れそうになりそうだ。

長期入院している患者さんにとっては、病院が家みたいなものになっている。
全員にではないけれど、人として情も湧く。

だからと言って、ある日突然、暴力を振るわれてケガする事もあるし、理不尽な言葉や態度で当たられる事もある。心が傷つくこともある。
少なからずストレスや不安はある。

けれども、職員の心に対するケアはない。

近年の虐待のニュースがクローズアップされているのもあって、あたかも職場の看護師や看護助手全員が、
犯罪予備軍かのように、
監視対象だと言わんばかりに、
上司は釘を刺してくる。

それがまた心ない伝え方だと、傷つく。
立場上、仕方がないかもしれないが、
信頼関係が十分構築されていないので、
上司に対する不信感が募ることもある。

確かに長期入院している患者さん達と、
馴れ合いになっている部分は否めない。
距離感は大切だし、虐待もあってはならない。

でも、ちょっとした主治医のこだわり処方だったりで、症状が安定してた方が一気に悪くなったりして、このような結果になる。

僕たち看護師にできる事ももっとあっただろうし、僕個人にも何かできる事があったかもしれない。

精神科は向いてないとつくづく思う。
というか、そもそも看護師にも向いてない。


話はそれたが、

そんな中、昨日の夜勤では容体が悪くなった患者さんのご家族が来てくれ、夜通しその方に付き添ってくれた。

ご家族が、「一目でも会いたいので、今から行っても大丈夫ですか?」と問われた時、
嬉しかった。

一般科の病院ではもちろん当たり前にある事だけど、ここで働いてきて一度もなかった。

クラスターが収まったばかり。
院長も多分こんな状況に滅多にあってないだろう。
少し心配だった。

いよいよ悪くなったら連絡しますとか言うんじゃないか...。

けれど、院長はオッケーしてくれた。

最近またコロナ感染が増え始めてるので、
最期に立ち会えなかった人もいるかもしれない。
僕の祖母が急変した時は、間に合わなかった。
(ちなみに、3回目のワクチン接種から2日後か3日後のことだった。)

ひとまず、ご家族が仮眠できる場所とかあるわけないので、空き部屋にベッドをつくり、休憩できる場所を用意した。

患者さんは酸素マスクをしてて呼吸も荒く、
意識もないし、しょう毛反射もない。
朝日を迎えられるのは難しいかもしれない。

けれども、ご家族が会いに来てくれたお陰でか、申し送りを終えた帰りもまだ頑張っていた。
血圧などの状態も特段悪化なく朝を迎えた。

今日も親族が急いで会いに来るという事だったので、再会を待っていたと思う。

患者さんの容態が悪化してしまったのは、
年齢や持病も要因にあるかもしれないが、
僕たち医療従事者にもできた事はあったと思う。

そもそも、感染者が増えないようにしっかり対処できていたら、こんな事になっていなかったかもしれないのだから。

この患者さんの置かれている状況について、
残念である事には違いないし、悲しい。
ご家族にも申し訳ない。

こんなことにならないように、改善しないといけない。

ただ、その一方で、会いにきてくれて本当に良かった。そう思う。
家族関係や状況が良好だったから実現したことで、僕の職場では珍しいことだ。

僕が勝手にそう思うのは、それは自己満足かもしれないし、他人事だからかもしれないし、
人それぞれ死生観が違うし、
共感されないことかもしれない。

僕は家族に囲まれて旅立ってゆきたいし、
家族の最期には絶対に立ち会いたい。

伝えたい事があるし、手を握ってあげたい。

その患者さんのご家族の方々は、
一旦帰宅される際、
「また今夜も泊まっても大丈夫ですか?」
と聞かれた。

朝方、診察に来てくれた院長も了承してくれた。なので、大丈夫だと思うけれど。

まさか、反対する人はいないよね?と少し不安が残る。

自分の立場になって考えられる人たちであって欲しい。
そう信じたい。

患者さんにとっては、人生最期の時間で、
ご家族にとっても、その方との最期の時間。

その機会を、変な価値観や考えた方で奪わないで欲しいし、最優先して欲しい。

妻の母を、自宅でみんなで看取れたのは、
とても大変だったけれど、
ちゃんなお別れできたっていう、
覚悟というか、果たしたというか、
言葉にできない心の締めくくりができる。

祖母の時のように、間に合わなかった時は、
申し訳なさと後悔の念が残る。

僕にできるのは、
骨も残らず亡くなっていった患者さん達のことを時々、思い出すことだ。

実際問題、命は平等に扱われていない。

患者であれ、誰であれ、
好き嫌いはあれども、
相手の命や人生を粗末に扱わない、扱わせないことだと思う。

自分の命も人生も。

そんなこんなで、
僕は今も精神科で働いています。

粗末な文章ですが、
最後まで読んでくださってありがとうございました。


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