海外大の受かり方 学校成績・テスト編
1.「海外大は入るのは簡単だが出るのは難しい」という都市伝説
日本にいるとよく「日本の大学は入るのが難しくて出るのが簡単」「それに比べ海外大は入るのは易しいけど出るのが難しい」という話を聞きます。海外大は本当に入るのが簡単なのでしょうか。定義による、というのが正直なところです。あなたが入りたいのが地方のコミュニティ・カレッジなら簡単なのは本当でしょう。しかし、あなたが目指すのが全米トップ50の大学のいずれかならば「簡単」とは到底言えません。英語力・数学力ともに全米トップ1%のテスト成績で受験した僕が20校近く受けて半分しか受からなかったのだから相当です。米国生物オリンピック準決勝進出してもこの合格率です。もちろん僕のアプリケーションが完璧だったとは全く思っていませんが、このくらい狭き門であることは理解してください。この記事では自分にとってうまくいった点と反省点をふまえ、「どうすれば海外大に合格できる可能性を増やせるのか」を成績とテストの観点から解説していきたいと思います。課外活動とエッセーについては別の記事にまとめてあります。
2.海外大の受験に必要なもの
海外大、と一口に言ってもアメリカの大学、イギリスの大学、スイスの大学など様々あります。国によってもかなり違いがあり、一概に説明するのは非常に難しいです。ここでは僕が一番よく知っていて、かつ多くの日本人が目指すアメリカ大学について解説していきます。
アメリカ大学受験に必要なものは大きく分けて三つあります。成績(GPA)、課外活動(extracurricular activities)、そしてエッセーです。面接が必要な場合もありますが、基本的にはエッセーで書くことと特に変わらないので省きます。この三つのうちどれが一番重要なのか、とよく聞かれます。結論からいうとどれも等しく重要であり、世界大会レベルでもなければどれか一つで勝負、というわけにもいかないのが実情です。「受験者のすべてをまとめて評価する」スタイルを恰好つけて Holistic Admission と呼び、一般的に全てのアメリカ大においてAO入試でこのスタイルを適用しています。しかし各校によってどこを重要視するかは若干のニュアンスがあり、志望校ごとにどこを強調してアピールするか対策を考える必要があります。若干は若干ですので、そこまで重きを置いてないからといって軽視すべき部分はありません。あくまでホリスティックです。これらすべてを説明するには記事一つでは足りないので、まずはアメリカ大受験の「必勝法」を紹介したのち成績について説明していきます。
3.アメリカ大学受験の必勝法
さて、「アメリカ大受験は難しい」と言っておきながら必勝法があるとは何だ、と思われたと思います。この必勝法は僕にはとてもできない方法であり、大体不可能と思ってください。大学も法人であり、慈善事業ではありません。つまり資本がなければ運用できないのです。実際大学は生徒の親やOBの寄付によって成り立っている部分が大きいです。ではどうすればよいのか。ポンと1,2億円くらい寄付して図書館でも建ててしまうのが手っ取り早いのです。賄賂では?と思ったあなたへ。いいえ、寄付です、断じて収賄ではありません。と大学側は嘯くでしょう。ハーバードに一億円相当を寄付してなお落ちた人がいる、という噂もあるのでリスクは理解して自己責任でお願いします。また、大学の価値は輩出した著名人の影響も大きいです。受験生の親が世界的に有名なら合格率がぐっと上がるでしょう。不公平では?はい、不公平極まりないです。この出来レースに乗れたものは幸せでしょうが、大半の受験生はこの必勝法を使えません。
また、こだわりがないのなら、行きたい大学に1回生から在籍している必要はありません。自分はこだわりがあったので使わなかった手ですが、一旦コミュニティ・カレッジのような入りやすい大学に入学し、2回生か3回生にTransfer Admissions(転入受験)を行い、行きたい大学に2年ほど在籍することで卒業証書を獲得する、という手段もあります。転入は、最終的に行きたいところに入れなかった場合のリスクや、大学生活の半分をクオリティの低い状態で過ごすことになるマイナス要素が存在します。しかしながら新年生として受験するよりも相当楽に入れるので、よく使われる手になります。こちらはぶっちゃけ知らない世界ではありますが、やらなければならないことは基本的に変わらないと思います。
ここから解説するのは出来レースに乗れない者たちが、それでも新入生として合格したいという思いから使う戦略です。
4.学校成績について
大学受験に高校の成績がかかわってくる、というコンセプトは日本にも存在します。しかし、アメリカのそれは桁が違います。アメリカ全国、更には諸外国のありとあらゆる高校から受験生が来るのにもかかわらず、成績をかなり重要視するのでアドミッション・オフィサーは毎年苦労して生徒の実力を計っています。なぜそこまで成績を重視するのかというと、大学で成功する人間は大体高校で高い成績を収めているという経験則によるものです。いいかえれば熾烈を極める大学での成績競争でつぶれない人材を探しているので、既に競争に耐え勝利している精鋭を集めたいという思いが大学側にあるのです。
成績といえばまずは学校成績です。アメリカの高校は基本すべてのクラスが上から A、B、C、D、F の評価を受け、そこからさらに+やーが付き評価が細分化されます。A+が最も高い評価で次点がA、その次がA-、といった具合です。この評価をさらにA以上なら4.0、A-なら3.7、B+なら3.3、と数値化しすべてのクラスの評価点を平均したものが(unweighted) GPAです。この評価点にクラスの難易度を加味して honors (上級)クラスなら+0.5、AP (最上級)クラスなら+1.0して平均をとったものが weighted GPA となります。トップ校は unweighted GPA なら 3.7/4.0 以上を、weighted GPA なら 4.2/5.0 以上を望んでいると思いましょう。しかしここで問題点が二つ出てきます。一つ目は学校によってAをとる難易度が違う点です。大学側はその膨大な受験者データからある程度高校をランクしていて、行く学校によって差が出すぎないように調整しています。さらに後述の共通テストもあるのでこの差はある程度は解消されています。二つ目は学校によって提供する上級コースの量が違う点です。日本で上級クラスを提供している学校はほとんどないでしょう。しかし大学は上級コースや最上級コースをとっている生徒を欲しがります。日本の学生は不利なのでしょうか。どっちとも取れます。大学はとっている上級コースの数ではなく割合を気にします。APコースを一つしか提供していない学校と20も30も提供する学校ではAPコース一つ一つの重みが違うわけです。しかし、APコースが一つもないと「いい高校に受からないような生徒なのでは?」と思われる可能性がなきにしもありません。そのあたりは後述の共通テストなり日本国内で受けられる模試なりで実力を証明する必要が出てきます。何はともあれ学校成績はなるべく高くなるように意識しましょう。
5.共通テストについて
学校ごとの成績では実力が比べづらいという事情から、大学は受験性に膨大な量の共通テストの点数を求めてきます。そうです、一つではないのです。人によって受けるテストは若干異なってきますが、代表的なものとざっくりとした対策をリスト化していきます。
SAT/ACT
受験者のほぼ全員が受けるSATまたはACT。大体どの大学もどちらか一方を求めてきます。一部大学はSATとACTをoptional(任意)としていますが受けておいた方が無難でしょう。SATは800点満点の英語セクションと、同じく800点満点の数学セクションから構成されており、1600点満点となっています。英語は半分が読解でもう半分が文法、数学は半分が計算機無しでもう半分が計算機あり、といったシステムです。トップ校を目指したくば1500点は欲しいでしょう。数学は日本でいう中学2年生レベルのものなので満点は容易ですが、問題は英語の方です。反復演習とテクニックの覚えこみをするしかありません。参考書が結構充実しているのと、日本でも対策を行なっている塾の類が結構あるので、勉強には困らないと思います。どうしても必要なら、大学を見学する際に本屋に寄ってみるのが一番と思います。こういった需要に応えるため、大学近くの本屋には必ず充実した赤本コーナーに似たものがあります。また、SATには任意のエッセーセクションもありますが、これは全体の点数には含まれず、24点満点の別枠の扱いとなります。エッセーセクションの方の点数も求めてくる大学は多いです。
ACTのほうは数学12点、科学12点、英語12点の36点満点のテストになります。理系ならACTと思われるかもしれませんが、科学の知識がなくとも常識と英語力で突破できるようになっており、実質英語24点と数学12点のテストと言っていいでしょう。母国語が英語の人間と張り合えるくらいの自信がない限りは、数学の占める割合が高いSATをとる方が無難といえます。ACT を受けるなら34点、欲をいえば35点は欲しいところです。
この2つのテストは選択問題だけで構成されており、日本でいう共通テスト(旧センター試験、共通一次)と同じものといっていいでしょう。大学受験には欠かせないテストであり、なるべく高得点を取りたいところです。SAT Subject Test なる科目別のSATもありましたが2021年6月をもって終了しました。
AP Exams
GPAの説明でAPコースなるものの存在を少し紹介しました。これはAPテストの対策を行うコースのことであり、多くの高校においてその科目の最高レベルのコースとして提供されます。つまり、APテストとはいわばその科目を修了し、大学ですぐにやっていける証として存在するのです。実際多くの大学でAPテストで高得点を記録すれば一部授業をとった扱いにできるのでお得です。大学の入門編の授業くらいの難易度です。僕が三日勉強しただけでAP Physics E&M において5をとれたのでそんなに難しい話ではありません。APテストは5段階評価であり、一定の点数を取ることができれば満点を取ろうが関係なく5認定です。日本における優、秀、良、可、不可のようなものです。この「一定レベル」は科目によってだいぶ異なり、つまり科目によってだいぶ難易度が変わってくるのには留意しておきましょう。例えばAP数学で5をとるのは受験者全体の44.6%にもなりますが、AP生物で5をとるのは全体の9.5%にとどまります(CollegeBoard公式より、2020年の情報)。受験者数自体も違うので何とも言えませんが、なるべく簡単なものを取っておくのが得策でしょう。逆に難しいAPで高い点数を取ることで得意な科目のアピールもできるのでそのあたりは戦略的に決めてください。なおトップ校を目指すならAP10個前後で点数は最低でも4、できれば5をめざしたいところです。
TOEFL iBT Test
日本からの受験の場合TOEFLテストの点数はほぼ必須となります。留学していても、4年以上米国で学んでいなければほぼ必須となります。例え受けなくてもいい場合でも母国語が英語でない限り受けておくのが無難です。TOEICのほうを受け付けている大学はごく少数なのでTOEFLを受けるのをおすすめします。この試験はreading, listening, speaking, writingそれぞれ30点満点の合計120点満点のテストとなっており、すべてコンピュータ上で行われます。中でもspeakingとwritingは読解とリスニングの要素も含まれており複雑なものとなっています。問題の傾向は常に一緒なので反復練習をするしかありません。しかし、このテストはspeakingとwritingに正解がないため独学で突破するのが非常に難しく、対策コースなどを受講するのがおすすめです。トップ校をうけるなら100点は欲しいところであり、欲を言えば110点欲しいでしょう。人によっては115点欲しいと言うかもしれませんが、110点のTOEFLを115点にあげるヒマがあるなら他のことに回した方がいいと個人的には思います。
6.おわりに
学業の面で必要な準備を並べてみましたが、かなりの量あることが分かってもらえたかなと思います。この分量を捌き、更に課外活動で目立った活躍をした上で、それらを小論文にまとめ、書き上げなければならないのです。入るのは簡単、などと言えない現実が分かってもらえたでしょうか。次回は課外活動について書いていきたいと思います。ここまで読んでくださってありがとうございました。