見出し画像

読書ログ『心はどこへ行ったのか』(東畑開人)



東畑さんの本を読むのは、
『居るのはつらいよ』
『野の医者は笑う 心の治療とは何か?』
に続く3作目になる。





東畑さんの著作の面白いところは、読み始めた時の「まあ、だいたいこんな内容の本でしょ」って予想を易々と超えてくることである。道化っぽいゆるめの書き出しだけだと、騙されてしまう。
読み物として純粋に面白いけれど、その根底には現代社会の仄暗い諸問題が透けて見える。





『居るのはつらいよ』では、世間知らず風のアカデミア出身新米心理士が、なんくるないさーな沖縄の独特な風土に揉まれつつ、まるで別の星から来たかのような患者さんとの珍妙なやりとりを面白おかしく書くお仕事物語‥に見せかけている。


職場から立ち去っていくケアワーカー、突然消える患者さん。雲行きがどんどん怪しくなってから、この本只者じゃないなと気づく。
確実に、「何か」が隠されていることが次第にわかってくるから。


著作では端的に「何か」=ニヒリズムとして描かれていたけれど、なかなかすごい告発だなと思った。





『野の医者〜』も、多種多彩な方法で人々を〝治療〟するスピリチュアルでピースフルなヒーラーたちを巡り、自身で治療を受けてみたりする高野秀行的体当たり潜入記みたいに見せかけて、心理学の根底を揺るがすような問いかけをしてくる。


姿形が見えない心は、どうなったら治ったと言えるようになるのか?(ヒーラー界隈では躁状態を治ったと捉えているくだりは衝撃的だった)


胡散臭いと思っていたヒーリングと、学術的だと思っていた心理学に共通点が浮かび上がる。
心理学会の超有名人の名前がとあるヒーラーから出てきてからは一転、心理学サイドの話になっていく。臨床心理って、心理療法って一体何なんだろう‥とぐらぐらした気持ちになっていく。




また、沖縄の女性が抱える貧困や、離婚などから心の病になり、回復する過程でヒーラーになっていく様子は貴重なライフヒストリーだし、謎のパワーをもらったような気がする。













‥ということで、本作もワクワクしながら読んだ。




どうやら、『心はどこへ消えた?』は、「心はつらいよ」というタイトルで週刊文春に連載されたらしい。あの、センテンススプリングかーと俄然読むハードルが下がる。


連載もののエッセイということで、時事ネタがらみで読みやすくあっという間に読んでしまった。
読んだ後に、週刊文春に連載している時に読まなくてよかったなと思ってしまった。




この作品は、本来あとがきに書かれているであろう序文なしでは語れない。
この序文を読むのと読まないのとでは雲泥の差がある。



この本は、一見コロナという巨大な敵に一丸となって立ち向かうために、個々の心がおざなりになってしまった今をベースを書いているようで、どうやら、密室のカウンセリングルームでは何が行われているか、カウンセラーとはなんなのかを書いたカウンセリング入門書だった。




各エッセイには、必ずと言っていいほど、自身のカウンセリングの事例が登場する。ただ、そのカウンセリングがどの時期に行われていたのかは書かれていない。コロナ禍とは限らないのだ。


なお、各エピソードは、本質だけを抜き出して再構成されているので、フィクションに近い。(ただ、一編だけリアルを混ぜている)

プレイセラピーで有名なアクスラインっぽい感じの事例とかもあった。




また、カウンセリングの結末も、解決しました!とか元気になりました!というよりもこれから前途多難な道のりになることを匂わせたり、結末まで書かれてはいない。





でも、コロナの時期だからそれが受け入れられる。
心が消えたのでは?と思うような時代だからこそ、そちらの表現の方がしっくりきてしまう。







コロナ禍ということもあって、新規予約を中止ている心療内科も多い。この本は、カウンセリングという無くした心を探す道のりを教えてくれた。読みやすい分、何度も読み返す本になりそう。




この記事が参加している募集

#読書感想文

187,975件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?