見出し画像

サイレントな状態に身体を馴染ませる。生活に欠かせない単語から、自分自身を表す単語へ。|レクチャー「手話と出会う」第3回

Tokyo Art Research Lab(TARL)「思考と技術と対話の学校」では、アートプロジェクトを「つくる」という視点を重視し、これからの時代に求められるプロジェクトとは何かを思考し、かたちにすることができる人材の育成を目指しています。2020年度は、実践的な学びの場「東京プロジェクトスタディ」、アートプロジェクトの可能性を広げる「レクチャー」、プロジェクトを行う上で新たなヒントを探る「ディスカッション」の3つのプログラムを展開。レクチャー「手話と出会う〜アートプロジェクトの担い手のための手話講座(基礎編)」の様子や実施するなかでの気づきを、モデレーターを務める担当プログラムオフィサーの視点で綴ります。

今回は、レクチャー「手話と出会う」の導入編の最後にあたる第3回(7/15)の様子について。まずは、サイレントな状態に身体を馴染ませていくような復習の時間からはじまりました。

▼前回のレポートはこちら

▼第3回|手話通訳の読み取り(声)がないなかで復習する

今回から講座の最初に、復習コーナーがはじまった。前回、浴びるように学んだ日常生活でよく使われることばや単語を基に、講師の河合祐三子さんと参加者一人ひとりが手話で会話をしながら復習していくというもの。

「みなさん、準備はいいですか?ここからは、【手話の読み取り(手話通訳の瀬戸口裕子さんの声)】はありません。みなさんも声を出してはいけませんよ」と河合さん。完全にサイレントな状態でレクチャーを行うのは、これがはじめてだった。

画像1

手話で数字の「7」を示して、参加者が選んだ数字を確認している様子

復習コーナーでは、まずはじめに、参加者の名前が書かれたカードを河合さんが出し、誰と会話をするか指名する。「あなたの名前は?」という質問を受けて、参加者は自分の名前を答え、次にホワイトボードに書かれた1〜12の数字の中から自分の好きな数字を選ぶ。そして、最後にもう一度、河合さんから質問を受けて答えるという流れだ。

最後の質問はこんな感じ。「画面には何人の人が映っていますか?」「今日は何日?」「明日は何日?」「昨日は何日?」「7月31日は何曜日?」「来週は何月何日」「今日は何曜日?」「今、何時?」「昨日は何曜日?」「ここにいる手話通訳者のお名前は?」etc...

自分の名前は第1回に、数字は第2回に学んだこともあって、参加者のみなさんバッチリ。何日、曜日など少し迷う場面もあったけれど、その都度、河合さんがダイナミックに表現してくれたり、何度も繰り返し手話の形を表してくれるので、追いかけるようにして練習ができた。

「来週」は「7」の数字を片手で示し、自分の手前から話している相手の方に山を描くようにして出す=7日向こう側=7日後=来週というイメージ。「何曜日」も「7」の数字を片手で示し、左から右へ、手のひら、手の甲をカクカクとひねって動かしながら示す。前回の復習をしながら、関連する新しい単語に触れていく。繰り返し練習していると、自分自身の暮らしに手話を携えて手を伸ばし、そのイメージを身体のなかに取り込んでいくような感覚になる。

▼日常生活の動作と自分を表す役割や仕事の単語

復習コーナーの後は、日常生活の動作を表す手話や仕事にまるわる単語について、前回に負けないくらい浴びるように学び、改めて「手話はイメージが大事」だということを感じ入った。

例えば、朝、起きて、家を出て仕事にいき、夕方、家に帰ってくる。この日々行われているシンプルな動作一つとっても、ちゃんと一つひとつにイメージがある。

例えば、朝(=拳を握った手を顔の横に置き下げる=朝日が山からのぼってくるような、枕から頭を起こして起きるようなイメージ)、目覚める(=両手の親指と人差し指をくっつけて目の横で開く=パチッと目が開くイメージ)。家を出て(=片手で家の屋根を示し、その家の中からもう片方の人差し指で外に向かって出ていくような動作=家、その中にいて、そこから外に出ていくイメージ)仕事へ行く。夕方、家に帰ってくる(=片手で家の屋根を示し、人が外から家の中にしゅーっと小さく入っていくようなイメージ)。

画像2

「起きる、目覚める」という手話表現。目がパチッと開くイメージで。

家に入る

「家の中にいる」という手話表現。家の屋根を片手で表し、中を指差す

「在宅ワーク」は、「家の中にいる」+「仕事」で表すのだそう。まさに、そのままのイメージで絵が浮かぶ。

その他にも、●時〜●時まで(=時間を表し「〜」は指でそのまま空に書くので良いらしい)、はじまる(=両手の手のひらを相手に向けて、わ〜!と開かれていく動作)、終わる(=両手で炎がしゅぅっと消えていくようなイメージの動作)を学んだ。それによって、「今日は、朝、何時に起きましたか?」「今日は何時に帰宅する?」など前回学んだ手話とつなげて会話ができるようになってくる。

〜まで

●時〜●時「まで」の手話表現。行き止まり、ここまで、みたいなイメージ

▼アート、写真、彫刻、博物館、図書館、会社員、フリーランス、パフォーマー、企画担当、制作者etc...自分の仕事や自分自身の役割を表す単語

とにかく、ものすごいボリュームの単語数だった。今回、自分の仕事や自分自身の役割などを表す単語として触れられたのは、以下のような内容だ。ほんとうに1回の講座で学んだ量とは思えないくらい。それでも少しずつ覚えていけるのは、手話表現と頭の中のイメージがだんだんと重なってくるからなのだろう。

アート、写真、映像、彫刻、図書館、博物館、美術館、会社員、公務員、フリーランス、主婦、自営業、アーティスト、パフォーマー、俳優、制作担当、企画、建築、福祉介護、アートプロジェクト、サポート、ワークショップ、イベントetc...。

それぞれどんなイメージでどう表すのか。河合さんの解説と表現方法を確認しながら、頭の中にそのイメージを思い浮かべた。
例えば、アート(=片手の手のひらに、もう片方の手の小指を当てて絵を描くようなイメージ)、映像(=映写機から投影された映像が目の前に立ち現れるイメージ)、アーティスト(=「アート」の手話を表した後、自分の体の両サイドをそっとなぞるような動作)、博物館(=おでこに両手を当てて開く動作+建物という手話=知識が開かれていく場所・建物というイメージ)、企画(=片方の手で狐の形をつくり、もう片方の肘から指先にかけてなぞって手前に折れる動作=紙を置いて書くイメージ)、担当(=右肩に右手を置いて肩を持つような動作=「責任」という手話にもなる)、サポート(=片手で親指を立てGOOD!の形をつくり、その後ろからもう片方の手のひらをそえて支える)etc...

アート

「アート」の手話

企画

「企画」の手話

担当

「担当」という手話。責任という意味の手話でもある

▼アルファベットを組み合わせて表す外来手話

最後に、「今日の手話メモ」として外来手話について共有があった。日本語にも外来語があるように、手話にも外来手話と呼ばれているものがたくさんある。基本的には、カタカナ表記で表されているものは外来手話と思って良いようだ。アルファベットを組み合わせて表しているらしい。

「アート関係の言葉は、外来手話が多いですね」と河合さん。

例えば、ワークショップ(WS)。これは、両手で手話の「3」をつくり、人差し指動詞をくっつけることで「w」を表す。そしてそこから、きゅっと指を折り曲げてぐるっと内側に回してグーの手をつくる。これが、「S」を表すのだそう。この2つの動作をつなげると、ワークショップという手話になる。

画像8

河合さんが好きでよく使っているのは「OK」という外来手話だ。日本手話にも似たような意味の小指を顎に当てる表現があるが、それは「良いですよ」「構いませんよ」という少しカチッとしたニュアンスになるのだそう。だから、いいよ!大丈夫!という「OK」の手話の方が好きで使っているのだと教えてくれた。手話表現にもまとう空気や温度があり、表し方ひとつで相手への伝わり方も違ってしまう。自分の感情や状態を表す手話表現をもっともっと知りたくなった。

あっという間に1時間がたち、第3回のレクチャーは終了。次回からは、1時間30分とゆったりと時間をかけて学んでいく。第4回(7/22)では、日常生活と仕事をつなげていくような会話や手話の大事なポイントについて学んだ。そして、ろうの文化に触れる「ゆみこ&ゆうこりん劇場」も。詳しくは、また次回に。

つづく...