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手話は目で覚える。間違えても忘れても大丈夫。何度も繰り返し、繰り返しやってみる。|レクチャー「手話と出会う」第1回

Tokyo Art Research Lab(TARL)「思考と技術と対話の学校」では、アートプロジェクトを「つくる」という視点を重視し、これからの時代に求められるプロジェクトとは何かを思考し、かたちにすることができる人材の育成を目指しています。2020年度は、実践的な学びの場「東京プロジェクトスタディ」、アートプロジェクトの可能性を広げる「レクチャー」、プロジェクトを行う上で新たなヒントを探る「ディスカッション」の3つのプログラムを展開。レクチャー「手話と出会う〜アートプロジェクトの担い手のための手話講座(基礎編)」の様子や実施するなかでの気づきを、モデレーターを務める担当プログラムオフィサーの視点で綴ります。

前回、「はじめてづくしの第1回を迎えるまで」について書きました。今回は、手話に慣れること、サイレントな状態に慣れていくことを目指したレクチャー「手話を出会う」の第1回の様子を振り返りながら綴ります。

▼前回のレポートはこちら

▼第1回|まずは、自己紹介。でも、その前に大事なこと。

第1回(7/1)は、自己紹介からスタート。でもその前に、参加者のみなさんに、講師の河合祐三子さんから大事なお願いが伝えられた。

「必ず、反応を示してください。分かる、分からないを示してほしい」

会話をしているとき、相手の反応がないと、伝わっているのかな?と不安になるのは誰だって同じ。聴者同士だと、表情が見えなくても相手の声だけでその反応を受け取ることもあるが、ろう者は目で相手の表情や仕草を見て反応をキャッチしている。だから、うんうんと首を縦に振ったり、笑顔でOKサインを示したり、ううんと困った顔で首を横に振ったりして、相手に対してしっかり反応を示すことが大事なのだと教わった。なんだかそれは、自分自身の聴く態度、他者との向き合い方そのものについて考えさせられることだなと思う。

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自己紹介の方法は、まず河合さんが参加者の名前が書かれたカードをランダムに引き、その人の名前を手話で表して伝えていくというもの。例えば、名前に「桜」や「藤」と付く人は、まさにその花が咲いているイメージを表す手話だったり、「近」は人が近づく動き、「田」や「井」は、漢字を手指で表現する手話もあった。私は「よしはら」なので、鼻の前でグーをつくって軽く押し出し(=「良い」という手話)、その後に、お腹の前あたりに原っぱをイメージしながら手で水平に円を描く(=「原っぱ」という手話)ように表す。「〜です」というのは、うん、と頷くので良いらしい。

頭のなかに浮かぶもののイメージや人の動作のイメージが手話という言葉につながっていくのを実感しながら、一人ひとりの名前を私もなぞるように表してみる。ふとZoomのギャラリービューに目をやると、同じように河合さんが示す手話の動きを追いかけながら練習する参加者の姿が見えた。

次に、河合さんから「あなたの名前はなんですか?」と手話で尋ねられ、「私の名前は___です」と答えてもらった後、この手話講座に参加した理由について一人ひとりにお話を聞いた。子供が難聴で前々から手話を習っている人、以前、手話を習っていたが挫折してしまった人、ろうの子供たちと一緒に取り組めるようなワークショッププログラムを考えようとしている人、芸術祭などで手話の鑑賞プログラムを開発しようとしている人、最近、ろう者との出会いが増えもっと手話で美術の話がしてみたいと思った人、手話は身近なところにあるのに自分自身が何も知らなくて学んでみたいと思った人などなど...。「アートプロジェクトの担い手のための手話講座」ということもあって、美術館やアートプロジェクトの現場で新たな取り組みにチャレンジしようとしている人が多い。

うんうん、そうなんだ、へぇ〜、なるほど〜、といった相槌は手話でどう表すんですか?

参加者から良い質問があった。反応を示すことの重要性について、冒頭に河合さんが語られていたからこそ相槌の表現はどんどん知りたい。例えば「なるほど」は顎に親指を付け、伸ばした人差し指を2回ほど折り曲げる表し方があるが、でもまずは、「顔の表情」が大事だと河合さんは言う。手話で表さなくっちゃ!と思うよりもまず、素直に自分自身の反応・感情を表情で示すことが大事なのだと。それは、コミュニケーションの「姿勢」そのものだなと改めて気づく。

次に、こんな質問があった。

手話講座を受けているときは、どうしてもメモを取ることができません。何か手話を覚えるときのコツはありますか?

手話は手指、顔の表情、身体を使って表すので、書き写すということができない。手話の表し方を思い出しながら絵に描いてという方法もあるかもしれないが、それだと会話のスピードに追いつかないし、ものすごく時間もかかる。では、どうやって覚えていくのか。

「まずは、目で覚えること。そして間違えてもいいので、繰り返し繰り返しやってみること。忘れてもいいんですよ。何かが体のなかに残っていくから大丈夫。繰り返しやってみることで、記憶させ、また思い出しての積み重ねが大事です」

と河合さん。

初心者にとって、なんて心強いことばだろう。うまく表現できなくても、忘れても大丈夫!繰り返し、繰り返し、身体で覚えていこうと私も思った。

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あなたの名前はなんですか?と河合さんが尋ねている様子

「目で覚える」手話の学びの環境づくり

とは言え、これはどうやって表すのだったかな?とすぐに確認したくなる気持ちもとてもよくわかる。そのため、本レクチャーでは、毎回、講座の様子を映像収録し、次回までに各自で自習・復習ができるように記録動画を参加者限定で共有している。繰り返し「目で見て覚える」学びの環境づくりも工夫していることのひとつだ。

その他にも、毎回レクチャーの終わりにZoomをつないだまま、その場で簡単なアンケートを参加者のみなさんに書いてもらっている。今日のレクチャーの気づきや感想を書き記してもらってからZoomを退出してもらうという方法だ。これは、東京アートポイント計画で取り組んでいる「ジムジム会(事務局による事務局のためのジムのような勉強会)」で行っている方法で、各回の気づきや感想、質問などを講座が終わった後すぐにフィードバックを受け取ることができる。毎度レクチャー終了後には、講師の河合さんと手話通訳士の瀬戸口裕子さんたちと一緒にアンケートの回答を見返しながら、各回の振り返りや次の講座内容に活かすための企画会議を行っている。終わった直後の熱を帯びた感想や疑問は、どこが気になるポイントだったのか、こういうシーンの会話や単語を知りたいという要望などをすぐ確認できるのが良いし、企画運営側としても参加者一人ひとりの反応にすぐ触れられるのは嬉しい。

レクチャー第2回(7/8)も引き続き、手話に慣れること、サイレントな状態に慣れていくことを目指しながら、ろう者と聴者の文化の違いに触れる新しい試みをはじめた。それについては、また次回に。

つづく...