見出し画像

【小説】『この世界で、「特別」な僕らは生きていく。』ープロローグ2ー⌇あおの展覧会#3

取り戻した日常で、君は突然、重要人物として私の世界に現れた。
君がいるだけで、どんな景色も色づく。どんな絵の具よりも、世界を鮮やかに彩る。心がほわりと暖かくなり、同時にむず痒くもなる。
気づいたら私の目は君を追いかけていて、見つめていて。会えないときは何してるかなって気になって、君のこともっと知りたいって思う。
こんなの初めてだ。目まぐるしく様々な感情に支配される私、今まで知らなかった。
これはきっと──恋だ。
君に、会いたい。

𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄

ガヤガヤと騒がしい昼休みの教室。
それぞれが思い思いに行動している中、君の姿は一瞬で私の目に飛び込んでくる。
「宇山くん……」
小さく小さくつぶやいた声は、誰にも気づかれずに教室の喧騒に飲み込まれていった。
きっと宇山くんは、私が想っているなんてこれっぽっちも思っていない。そもそも私の名前を知っているかどうかだって怪しいぐらいだ。最近は特に目で追いかけてしまうことが増えたけど、視線が交わったことは2回か3回か、それくらいしかない。
宇山くんを好きになって、三ヶ月ほど。
高校一年の冬、たまたま出かけた家から遠めのスーパーで一人で買い物をしている同年齢の男子がいた。私服と不釣り合いな赤いスーパーのカゴを持って、品物を見比べたり、より良い商品を見極めようと考え込んでいた男子。その人こそ、宇山航くんだった。
私服だったしはじめは宇山くんだとは気が付かなかったけど、すらりと高い身長と背格好、商品を見定める真剣な瞳に見覚えがあるなと思ったら、なんとクラスメートの宇山くんだったのだ。
宇山くんはクラスメートの中でも一段と背が高く、その身長だけで普段からよく目立っていた。さらにコミュニケーション力も高く、運動もできる。勉強はちょっぴり苦手みたいだけれど。顔も特別イケメンというわけではないけれど、目はぱっちりとしていて愛嬌を感じる。女子からの人気も高い爽やか好青年だった。だから、クラスメートと積極的な関わりがなかった私もよく覚えていた。
そんな人気者が一人で、庶民的なスーパーで買い物をしている姿に、大きな驚きと親しみを覚えた。それと私だけがこの姿を知っているのではないかという、優越感がちょっぴり。
そのことがきっかけで、私は宇山くんを意識するようになった。これまではちっぽけも気にかけたことはなかったのに。
恋に落ちるのは、本当に一瞬なんだなぁと思う。
そこから好きになるのは時間の問題だった。
輝くほどの笑顔と、ノリはいいのに思いやりを忘れない振る舞いに、私はどんどんと惹かれていった。
スーパーで宇山くんを見かけて恋をして約二ヶ月半が経ち、私は何も行動を起こせないまま高校一年生を終えようとしていた。
高一で同じクラスだったので、もう同じクラスになることはないだろうなと思っていた。たった二ヶ月の、短い短い恋そういう運命の恋だったのだ。
しかし高校二年生になった春、緊張した面持ちでクラス発表を紙を見上げて数瞬、自分と同じクラスの中にその名前を見つけた。
彼を好きなことは誰にも言っていなかったのに思わず声が出そうになり、慌てて口もとを押さえて小さくガッツポーズをした。
ちなみに親友の真耶も同じクラスで、最高のセブンティーンになりそうだとわくわくしていたのを覚えている。
そして今に至る。奥手な性格のせいで、宇山くんにアピールは全くできていなかった。
「お待たせっ!ごめんね遅くなちゃって」
「んーだいじょぶだいじょぶ。5時間目、情報だよね?パソコンルーム行こー」
トイレから帰ってきた真耶に返事をして座っていた椅子から立ち上がると、真耶は分かりやすく忘れてたという顔をした。
「あっ、次情報か!用意取ってくる!」
やっぱり忘れてたみたいだ。
廊下にあるロッカーに向かう真耶にはーいと返事をして、教科書や筆箱を整えて手に持つ。
その間も、視線はつい宇山くんを探してしまう。
「おーい林、佐野、吉川、もう移動する時間だよー。情報の用意できてる?」
「ほんとだやべ、てか次の情報まじだるくね?」
「それな。エクセルとか意味不明だし、浮動小数点数とか習う必要ないわ〜」
「な。どうせならゲームさせろよな」
「まぁ確かに浮動小数点数はよく分からないけど、エクセルとかワードはこれから社会に出るときに絶対に必要になると思うよ。ちゃんと授業聞けよ〜?」
「うわっ、宇山はやっぱり真面目だな〜〜」
「まー、バカな林と一緒にされたくないしね」
「なんだと!?」
「はははっ」
宇山くんと林くん、佐野くん、吉川くんはふざけ合いながら揃って教室を出て行った。
うちのクラスの男子は男子同士みんな仲が良くて一体感があるけど、あの4人は特に仲が良いみたいでグループになるときは一緒にいるのをよく見かける。
佐野くんとは席が近くなったときに少し話したことがあるけれど、宇山くんはもちろん、林くんと吉川くんとも言葉を交わしたことはない。
「ごめん!また紗由を待たせちゃった!」
「全然!ゆっくりでいいよ〜」
「教科書がなかなか見つかんなくてさぁロッカー漁ってたら、一番下にあって。取ろうと思ったら、上にあったやつが全部雪崩のように滑り落ちてきちゃって。まじ泣き」
「うわっまじかおつかれ〜」
苦笑いで話す真耶に労いの言葉をかけながら、私たちは教室を出た。

宇山航くんは私・村神紗由の好きな人。だけどたぶん、宇山くんは私の名前すら知らない。
この想いはきっと届かないだろうけど、宇山くんは私の好きな人。
それは、変わらない。


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


プロローグ1はこちら!!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?