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#ネタバレ 映画「最後の忠臣蔵」

「最後の忠臣蔵」
2010年作品
忠義という愛もある
2010/12/28 11:08 by さくらんぼ

( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。)


神(主君)にさえ全幅の信頼と理解を得られていれば、世界を敵に回しても恐れや哀しみは無い

団塊の世代が定年をむかえます。退職すると仕事から離れますが、戦友から、組織からも離れてしまう哀しみがあります。しかも、ちょっとした認識の違いで、残った戦友との人間関係も壊れてしまったりして…。

そんな、こんなで、退職すると、多くは独りになってしまうのですね。

そのうえ、手塩にかけて育てた愛娘も嫁いでしまって、家の中に取り残されたのは妻と自分の二人だけ、という人も多いのではないでしょうか。さらに、その妻からも粗大ゴミ扱いされる事もあると聞きます。

あとは自分の好きに生きれば良い、と言われても…

そんな、お父さんの悲哀をクスグルのではないでしょうか。

この作品は、そんな時代背景も勘案されて企画されたのかもしれません。

映画「最後の忠臣蔵」は、親子三代つづき、主君を本当に敬愛する忠臣が、主君と心中することが許されない悲劇、を描いたものでした。念のため言いますが同性愛ではありません。

あえて心中と書きましたが、「曽根崎心中」が挿入されていることから、主君と一緒に切腹することを、敬愛する者との心中、と西洋人向けに解釈している様子が伺えますから。

一神教であるキリスト教の国である米国では、神との契約と愛、に模して、主君との契約と愛、と説明すると理解されやすかったのでしょう。神(主君)にさえ全幅の信頼と理解を得られていれば、世界中を敵に回しても何も恐れや哀しみは無い、といったところでしょうか。

主人公は、主君から託された乳飲み子が、16歳で立派に嫁いで行ったあと、結婚式まで抜け出して、すぐに後追い心中を果たします。彼も主君の許へ嫁いだのです。

思えば主人公は二人の女性から求愛されていました。でも、彼の敬愛する人は主君ひとり、だけだったのです。ですから、ラストの切腹はある意味ハッピーエンドなのでしょう。

彼は、あの瞬間好きに行動したのです。義務でイヤイヤ切腹したのではなく、この日を待ちわびて、待ちわびて切腹したのでした。16年恋しさを忍んできたのよ、と迫った遊女の様に。

心中に介錯は似合いません。あくまでも自分自身の情念の成せる技でなければならないのでしょう。また、結婚式(満開の桜)の直後に散る、というのも、考えてみれば日本式でもありました。

なにか、ギラついたエネルギーを感じる映画でした。淡白な他の時代劇とはちょっと違う雰囲気です。これが米国の息のせいだとすれば、成功だったと思います。本年ベスト作品の内の一本になりました。傑作です。

★★★★☆

追記 
2010/12/29 11:31 by さくらんぼ

赤穂の者たちがいる婚姻の席で、養父と新婦・新郎は三角関係という噂が流れたら、腹を切って詫びても許されない。いや、それ以前に恥ずべき自分がここにいる資格は無い

>主人公は、託された娘が16歳で立派に嫁いで行ったあと、結婚式まで抜け出して、すぐに後追い心中を果たします。彼も主君の許へ嫁いだのです。(本文より)

それにしても主人公には急ぎすぎの感がありました。なぜでしょうか。

それは娘が主人公に恋をしたことに関係があるのでしょう。

主人公にとっては乳飲み子の時から育て上げた我が子同然の娘。親子としての情は生まれても恋心は無かったはずです。

残り香がついた着物で大人の女を感じ、娘に、禁じられた恋、という苦しみを与えてしまったこと、主君や娘に対して罪の意識と、武士としての恥、を感じたのでしょう。この始末どうしてつけるのか。

そして結婚式場です。

赤穂の関係者たちが大挙して訪れています。そんな場所で、養父と新婦と新郎は三角関係、などという噂が流でもしたら、それこそ、腹を切って詫びても許されない。いや、それ以前に恥ずべき自分がここにいる資格は無い。

主人公が急ぎすぎるぐらいの切腹をしたのは、これ以上傷口を広げない為という陰の理由もあったのだと思います。

追記Ⅱ ( 誘惑 ) 
2010/12/29 22:47 by さくらんぼ

この世のあらゆる色の誘惑をはね飛ばして、一人の主君を愛し続けた、主人公

>思えば主人公は二人の女性から求愛されていました。でも、彼の敬愛する人は主君ひとり、だけだったのです。(本文より)

女性の内一人は、処女性の象徴で、もう一人は、娼婦性の象徴でした。まさに女性のAtoZだったわけです。

意味するところは、主人公がこの世のあらゆる色の誘惑をはね飛ばして、一人の主君を愛し続けた、というところでしょう。

たしかキリストの修行時代にも、あらゆる誘惑をはね飛ばして神に仕えるエピソードがありましたが、それを思い出してしまいました。

それにしても娘役をした女優さん。監督が、おやじ殺し、だと言ったとか、言わなかったとか。確かに、最近の時代劇では見たことの無い華がありました。ときどきハッとさせるものを持っていました。

追記Ⅲ ( 骨董商 ) 
2010/12/30 10:51 by さくらんぼ

主人公の仕事は、ゴミとして葬り去られてしまうような物から、凛とした美しさをもった逸品を探し出して、光を当てる骨董商

主人公は世を忍んで骨董商をしていました。

この骨董商という仕事が泣かせますね。

古くて、ひとつ間違えば、それこそゴミとして、時代の中に葬り去られてしまうような物の中から、凛とした美しさをもった逸品を探し出して、光を当てる。

これは主人公の気持ちの吐露でもあったのでしょう。

追記Ⅳ ( 「戦闘+美少女」 ) 
2016/4/30 6:11 by さくらんぼ

「美少女アイドル萌えのおたくオジサンが、少し人目を恥じる気持ち」が密かに利用されていたのかも

>それにしても娘役をした女優さん。監督が、おやじ殺し、だと言ったとか、言わなかったとか。確かに、最近の時代劇では見たことの無い華がありました。ときどきハッとさせるものを持っていました。(追記Ⅱより)

最近、TVドラマ版「最後の忠臣蔵」を放送しています。全六回、真面目かつ丁寧な作りで、極めて上質な作品になってはいますが、4回まではほとんど浪花節的な隠し子の話は出てきません。映画がいきなりその話になるのとは対照的。だからTV版は少しもどかしい。

それはそうと、映画「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」と、映画「ちはやふる」が日本伝統の「戦闘+美少女」の世界ならば、映画「最後の忠臣蔵」の秘密も同じだったのかもしれません。

しかも映画「最後の忠臣蔵」には「恥」の概念が重く描かれています。この部分には「美少女アイドル萌えのおたくオジサンが少し人目を恥じる気持ち」が密かに利用されていたのかもしれません。劇中の「侍の恥」が効果的に疑似体験ができるのをねらって。

追記Ⅴ ( 映画「日本のいちばん長い日」 ) 
2017/8/3 17:06 by さくらんぼ

映画「日本のいちばん長い日」を観たら、ふと映画「最後の忠臣蔵」を思いだしました。

よろしければ映画「日本のいちばん長い日」の追記Ⅵもご覧ください(無いレビューは順次掲載中です)。

追記Ⅵ 2022.12.11 ( お借りした画像は )

キーワード「着物」でご縁がありました。色も落ち着いた赤ですし、面白い模様ですね。良い切り取り方もしておられます。無加工です。ありがとうございました。

追記Ⅶ』2022.12.11 ( 噂はこわい )

あらためて観ているが、娘から養父への恋愛のアプローチは露骨でかなり強い。養父はオロオロするばかり

先日、TV放送していましたので、あらためて観ていますが、娘から養父への恋愛のアプローチは露骨でかなり強いものですね。養父はオロオロするばかりです。

前述したように、この事は絶対に外部に知られてはいけませんね。もし知られたら、養父の社会的評価は、忠臣の鑑どころか、家臣たちが誤解していたように、いや、それ以上に失墜し、養父は唾棄すべきヒトデナシだと思われ、斬り捨てられかねません。養父が急いだのも納得です。



( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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